A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【私のB級サイケ蒐集癖】第37夜:海賊盤の禁断の歓び~裸のラリーズ/ジャックス/ザ・フー/セックス・ピストルズ

2021年11月16日 02時46分52秒 | 素晴らしき変態音楽


初めて買った海賊盤はセックス・ピストルズの『100 Club Sex Pistols Party』というLPだった。1976年9月20日ロンドンの100CLUBで開催された伝説的なパンク・フェス『100 Club Punk Special』でのライブ盤。吉祥寺のFFビル(今のコピス)の1階にあった名曲堂で1978年に購入した(名曲堂は普通の国内盤を扱うローカルチェーン店だったが、なぜか海賊盤コーナーが充実していた)。客席からのワンマイクの録音らしく、所々音が途切れる劣悪な音で、一緒に聴いた弟から「なんでこんな不良品を買ったの?」と責められたが「音の悪さが本物パンクの証拠だ」と訳の分からない言い訳をしていた。実際は自分でも音の悪さが苦手で滅多に聴くことはなかったが、妙に愛着を感じていたことも確かである。最近改めて聴き直してみたところ、思っていたほどひどい録音ではなく、逆に音の悪さが初期ロンドンパンクの熱気とスリルを伝えているように感じた。弟に言った言葉が間違っていなかったことを43年経って確認した次第である。

Sex Pistols 100 Club 20, 9, 1976


その後ザ・フーのライヴ・ドキュメンタリー映画『The Kids Are Alright』を観て衝撃を受けてからザ・フーの海賊盤を買い集めた。西新宿にKINNIEという海賊盤専門店があったが、試聴は出来なかったので、録音場所や曲目、ジャケットの雰囲気だけで選ぶしかない一か八かのギャンブル性があった。高価な割に音が酷いライブ盤に大枚はたいてがっかりしたことも少なくない。それでも90年代になってCDやビデオで未発表ライヴ音源や映像が正規に発売されるようになるまでは、音が悪い海賊盤を聴きながら、腕を風車のように廻してジャンプするピート・タウンゼンドの雄姿を想像することが出来るだけで至福の歓びだったのである。

The Who - Tales From The Who (Complete Bootleg)


80年代後半に世界的なサイケデリックロックの再評価が起こり、60年代サイケの名盤やレア盤が再発されるようになるが、その中には海賊盤も少なくなかった。特にサイケのレア盤専門の2大レーベルPSYCHOとEvaのレコードは、不良マスターテープやレコード盤起こしでアーティストの許諾を得ずにプレスされた非正規盤が多かった。オリジナル盤に入っていた効果音が削除され全く別ものになってしまったレコードもあった。さらにジャケットも音もレコードからコピーしたリプロ盤と呼ばれるレコードも登場。権利関係の問題で長年廃盤だったフランク・ザッパ&マザーズ・オブ・インヴェンションの初期VERVE盤もリプロ盤で発売されたと知って、モダーン・ミュージックで買って聴いてみたら針飛びがあり、翌日交換に持っていったら「マスターとして使った元のレコードが針飛びするらしく、交換してもすべて同じ個所で針飛びする」と言われて交換を諦めたこともある。他にも数々の粗雑なリプロ盤にお金を使った。マザーズをはじめ、その多くは数年後にCDで正規再発され、数倍クオリティのいい状態で安価で手に入るようになったが、リプロ盤は手放していない。

日本のロックも例外ではない。日本のグループサウンズがガレージパンクコンピレーションにレコード盤起こしで収録されたのを皮切りに、60・70年代日本のアンダーグラウンドなロックやジャズのレコードが無許可で海外で再発されることになった。その中には日本国内で製造され流通する場合もあった。その最たるものが裸のラリーズの海賊盤の乱発である。それついては10年近く前に書いたことがあるのでここでは繰り返さない。とはいえ、謎に包まれた地下ロック表現者の情念が、劣悪な音質の中からジワジワ伝わる歓びは、正規盤では味わえない魔性の魅力を持っていることは確か。禁じられれば禁じられるほど欲しくなる禁断の果実のような音楽。海賊盤が似合う音楽と呼んだら怒られるかもしれないが、ボックスセットのリリースが予告されるたびにモダーン・ミュージックに予約して入荷日に受取りに行ったことを思い出す。今年10月に公式ウェブサイトが開設され正規音源のリリースが予定されていることが発表されたが、発売と共に入手困難にならないことを祈りたい。

裸のラリーズ Les Rallizes Denudes feat 山口冨士夫: "造花の原野/夜、暗殺者の夜/夜より深く/?". from Live 1980/ Disc-1


ジャックス・ファンクラブが制作したと言われていたジャックスの『2nd Jacks Show』もモダーン・ミュージックで購入した海賊盤LPでしか聴けなかった1枚。モノラル録音でレベルが低いが、今年正規再発されたCDを聴いてみて、この海賊盤がオリジナルのLPの音質にかなり近いであろうことを確信した。CDは音がクリア過ぎてアンダーグラウンド感が薄い気がして、筆者はもっぱら海賊盤LPを愛聴している。2013年に拙著『地下音楽への招待』のためにモダーン・ミュージックの故・生悦住英夫氏にインタビューしたとき、モダーン・ミュージックが開店して少し経った頃、このオリジナルLPを売りに来た人がいて、かなりいい値段で買い取ったら、次の日に何十枚か追加で持ってきたので驚いた、という話を聞いた。おそらくファンクラブ関係者だったのだろうが、今回のCD再発に関わった人なのかどうかは分からない。

JACKS/LIVE/お茶の水日仏ホ-ル/1968 7 24


非合法かつ非倫理的であり、著作権者の権利侵害であり、品質にも問題のある海賊盤を100%容認するわけにはいかないが、筆者一個人の音楽聴取体験の中ではひと際特別な存在として輝いていることは否定しえない事実である。

ヤバい音には
ヤバい盤が
お似合いです


コメント
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