一昨日中古レコード・セールでオノ・ヨーコに取り憑かれた。エサ箱から摘まみ上げたLPサイズの顔写真からただならぬ妖気を覚え、痺れるような戦慄が背筋を駆け抜けた。今まで何度かこのジャケットには遭遇している筈だが、これほどのオーラを感じたことはなかった。何気なく見過ごしてきた普通の風景が、突然まったく違った恐ろしい真の姿を曝け出すことがある。日常生活の中に潜んだ狂気の刃。いつも礼儀正しくて子供やお年寄りを気遣う優しいあの人がまさかこんな残酷なことをするなんて信じられません・・・。犯罪者ではないが、オノ・ヨーコのポートレイトには魔力が潜んでいる。
『蠅(FLY)』と題された2枚組のLP盤には、紛れもないファム・ファタルの呪詛が刻まれている。以前鳥や狂犬をヴォーカルにしたハードコアバンドを紹介したが、ヨーコの声も人間のなせる技ではない。高周波の痙攣ビブラートのスクリームが聴覚器官を麻痺させ、脳髄に浣腸を施す。レコード2枚80分強に亘ってひたすら叫ぶ。演奏がロックンロールでもアンビエントでもフリージャズでも室内楽でも、まったくお構いなしに響き続ける。まるでOTHER ROOM(別室)での秘められた営みを隠しカメラでひたすら追い続けた猟奇ドキュメントのように。痙攣スクリームに飽きたのか後半になると、男女の営みの際の睦言じみた溜め息の連続にメタモルフォーゼする。かつてオノ・ヨーコにはセックス・アピールを感じないと書いたが、今聴くこの声には、突き上げる劣情に身を委ねるしか術がない。
1986年ひとりで1ヶ月間ヨーロッパを彷徨ったとき、丁度ヨーコが欧州ツアー中で、ウィーンのオペラ座でコンサートを観た。ブルーの占い師ジャケのアルバムのツアーで、かなりロックっぽいライヴだったと記憶する。ウィーンっ子もそれなりに盛り上がっていたが、現地で知り合った派手な化粧の日本人女性が日本語で歓声を上げ大騒ぎして、かなり目立っていてちょっと恥ずかしかった。アンコールの時に我先にとステージ前に殺到する現地客に交じって、手が届きそうな距離でヨーコを見つめた。その後日本ツアーの予定だったが、直前にキャンセルになった。噂では前売チケットが売れなかったためだと聞いた。
90年代になり、オルタナ系ロックアーティスト中心に再評価が高まり、「ビートルジョンの妻」ではなく「前衛音楽家」としてリスペクトされるようになる。同時にレノン存命時からの平和運動を積極的に押し進め、世界的オピニオン・リーダーとして君臨する。その一方で80歳になっても痙攣スクリームを続ける姿勢に、一生前衛音楽家の宿命が刻印されている。
オノヨーコ
ヨーコ溶解
ヨコハマ無宿
スクリームに関してはマル非JUNKOの大先輩であるな。ヨーコ階段でスクリーム対決をやって欲しいですな。
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