「茶碗の美 - 国宝 曜変天目と名物茶碗 - 」 静嘉堂文庫美術館

静嘉堂文庫美術館世田谷区岡本2-23-1
「茶碗の美 - 国宝 曜変天目と名物茶碗 - 」
2/9-3/23



至宝「曜変天目」をはじめとする天目茶碗から、井戸、堅手などの高麗茶碗、さらには和物の織部、樂、仁清など、静嘉堂文庫の誇る茶碗が一堂に会しています。同文庫美術館で開催中の「茶碗の美」へ行ってきました。



約三年ぶりの公開だという「曜変天目」(12~13世紀)については後に回すとして、まずは私の惹かれた茶碗をつれづれと挙げていきたいと思います。高麗茶碗では、朝鮮との公式交易船、御所丸によって伝えられたという「御所丸茶碗 黒刷毛目」(17世紀)が印象的です。鉄色に輝く胴を鮮やかにかける白釉は美しく、そのひしゃげた様には形の遊びと、どことない愛嬌を見ることが出来ます。ちなみにこの茶碗を見た時、まさに織部そのものであるようにも思えましたが、実際に織部の意匠にて朝鮮へ注文がなされた作だそうです。また今回の展示では、この御所丸の他、朝鮮で作られた日本趣味の作がいくつか紹介されています。きめの粗い砂質を用いて黄釉のしっとりと濡れた、重厚感のある「黄伊羅保茶碗」(17世紀)などもその一例です。こちらも見入りました。

 

好みの樂がいくつも出ていたのが嬉しいところです。あくまでも控えめに鈍く照り、腰の凹みがどこか内省的な面持ちをたたえる長次郎の「銘 かざ折」(16世紀)や、気泡による、まるで天の川のような流れを見込みにもたらした道入のモダンな黒樂などは特に魅力が感じられました。また樂と並んで、最近惹かれつつある織部からは、上に挙げた御所丸と並んで黒織部「銘 うたたね」(17世紀)が絶品です。青く光る鉄釉が、ちょうどカーテンを開けるかのようにして三角に広がり、そこに何らかの風景を覗く、外界との一種の窓が生まれています。奥へと進む空間の動きを見る作品です。



目当ての「曜変天目」は、煌煌としたライトに照らされて一際強い存在感を放っていましたが、思っていたよりもアクが強くて毒々しく、今のところは私の好みと離れた場所にあるように見えました。天下の名品に失礼な例えであるかもしれませんが、星の瞬く深淵な小宇宙と言うよりも、その面に小石でも打ちまけて、それが跳ね上がる激しい動きを差し示した、また別の表現をとれば、何かこの茶碗に得体の知れない生き物が取り憑き、その一部が滲み出てきたような、妖しい美感云々以前にどこか不気味で奇妙に生々しい茶碗に思えてなりません。見る角度によって色姿を変え、多様な空間を現出させるのは見事ではありますが、むしろのぎ目や油滴の見せるシンプルな美感の方が、色の深みとその変化にも素直に引き込まれます。この斑紋は私には過剰で煩く思えました。

二子玉川からのバスは満員でしたが、会場内はそれほど混雑することなくスムーズに楽しむことが出来ました。先日の日曜の午後、「曜変天目」の前にしつこく立ち、どこか納得しないようなしかめっ面をしていた男がいたとしたら、多分それは私です。

今月23日までの開催です。
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