都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「屏風にあそぶ春のしつらえ」 泉屋博古館分館
泉屋博古館分館
「屏風にあそぶ春のしつらえー茶道具とおもてなしのうつわ」
2/25~5/7
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さり気なく名品を収蔵する泉屋博古館にて、また強く惹かれる作品と出会うことが出来ました。
それがチラシ表紙を飾る「二条城行幸図屏風」です。金地で六曲一双。制作は江戸時代です。1626年、徳川秀忠、家光親子の招きに応じ、後水尾天皇の一行が二条城へ向かう様子を描いています。行列は左右はもちろん、上下段にも連なっています。ともかく、人、人、人の連続です。計3200名超もの人物が表されています。
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「二条城行幸屏風」(部分) 江戸時代・17世紀 泉屋博古館 *通期展示
それにしても何故に上下段、しかも異なった向きで示されているのでしょうか。実は行列は上下に続いているわけではありません。つまり2つです。しかも場所までが異なっていました。
上段は天皇の一行でした。場所は堀川通です。後水尾天皇は鳳凰の飾りの付いた輿に乗っています。一方の下段は将軍の一行です。今度は中立売通です。天皇を迎えに行くために御所へと進んでいます。当時の実際の参列者は9000名です。行列の先頭が城に着いても、まだ後ろが内裏を出発していなかったとも伝えられています。そのスケールが伺い知れるのではないでしょうか。
作品の状態がすこぶる良好です。絵具の剥落はほぼありません。金も色彩も全てが際立っています。とても江戸初期とは思えません。それこそ近年に色を付けたかのようでした。そして描写が大変に細かい。輿や牛車はもちろんのこと、従者の服装に髪型、さらに持ち物や顔の表情などを精緻に象っています。
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「二条城行幸屏風」(部分) 江戸時代・17世紀 泉屋博古館 *通期展示
しかしながらあえて言えば、本作の魅力は行列自体よりも、むしろ見物する人々にあるのではないでしょうか。
これが従者に輪をかけて生き生きとしています。皆、好奇心旺盛です。身を乗り出すようにしている者がいるかと思えば、何やら重箱を差し出し、杯を重ねては、宴会をしているグループもあります。花より団子でしょうか。そして喧嘩です。また商人だけでなく、おそらくは農民らも見物しています。一人として同じ人物はいません。
大変な力作です。さぞかし有力な絵師が描いたのかと思いきや、意外にも作者不詳でした。推定されるのはやまと絵に連なる絵師です。行幸から遠くない時期に制作したと考えられています。江戸中期には住友家へ収められました。だからこその状態なのでしょう。ともかく細部が楽しい。臨場感満点です。観客の歓声が聞こえてくるかのようでした。
「二条城行幸屏風」だけで長くなりました。ほかの屏風絵では「誰ヶ袖図屏風」も充実。さらに絵画では宮川長春の「遊女図巻」も見逃せません。モデルは艶やかな遊女たちです。覗きケースでの展示でした。細部までを肉眼で見ることが出来ます。
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「紅葉呉器茶碗」 朝鮮時代・16世紀 泉屋博古館分館 *通期展示
絵画以外は茶道具がメインです。仁清の香炉や茶入が目を引きました。また「小井戸茶碗 銘六地蔵」が魅惑的です。渋みを帯びた枇杷色は美しい。上部に仄かな青い釉薬がかかっています。
近代以降では香田勝太の「春秋草花図のうち『春』」が華やかでした。屏風一面に描かれるのは春の花です。余白を残して伸びやかに広がっています。雀も飛んでいて情緒深い。素材を知って驚きました。油絵です。遠目では日本画にしか見えません。
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伊年印「四季草花図屏風」(部分) 江戸時代・17〜18世紀 泉屋博古館 *後期展示
会期は2期制です。一部作品の展示替えがあります。
前期:2月25日(土)~3月26日(日)
後期:3月30日(木)~5月7日(日)
「誰ヶ袖図屏風」は前期のみの出品です。後期からは伊年印の「四季草花図屏風」が展示されます。なお「二条城行幸図屏風」は通期での展示です。入れ替えはありません。
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菊池容斎「桜図」 江戸時代・弘化4年(1847) 泉屋博古館・分館 *前期展示
ほかにも菊池容斎の「桜図」や伝佐々木庄次郎「半磁器桜花模様花瓶」など、桜をモチーフとした作品がいくつかありました。一足先に春の気配を楽しめるのではないでしょうか。
「二条城行幸図屏風の世界ー天皇と将軍華麗なるパレード」
5月7日まで開催されています。
「屏風にあそぶ春のしつらえー茶道具とおもてなしのうつわ」 泉屋博古館分館
会期: 2月25日(土)~5月7日(日)
休館:月曜日。但し3/20は開館。翌3/21は休館。3/27~29(展示替えのため)。
時間:10:00~16:30(入館は16時まで)
料金:一般800(640)円、学生600(480)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
「屏風にあそぶ春のしつらえー茶道具とおもてなしのうつわ」
2/25~5/7
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さり気なく名品を収蔵する泉屋博古館にて、また強く惹かれる作品と出会うことが出来ました。
それがチラシ表紙を飾る「二条城行幸図屏風」です。金地で六曲一双。制作は江戸時代です。1626年、徳川秀忠、家光親子の招きに応じ、後水尾天皇の一行が二条城へ向かう様子を描いています。行列は左右はもちろん、上下段にも連なっています。ともかく、人、人、人の連続です。計3200名超もの人物が表されています。
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「二条城行幸屏風」(部分) 江戸時代・17世紀 泉屋博古館 *通期展示
それにしても何故に上下段、しかも異なった向きで示されているのでしょうか。実は行列は上下に続いているわけではありません。つまり2つです。しかも場所までが異なっていました。
上段は天皇の一行でした。場所は堀川通です。後水尾天皇は鳳凰の飾りの付いた輿に乗っています。一方の下段は将軍の一行です。今度は中立売通です。天皇を迎えに行くために御所へと進んでいます。当時の実際の参列者は9000名です。行列の先頭が城に着いても、まだ後ろが内裏を出発していなかったとも伝えられています。そのスケールが伺い知れるのではないでしょうか。
作品の状態がすこぶる良好です。絵具の剥落はほぼありません。金も色彩も全てが際立っています。とても江戸初期とは思えません。それこそ近年に色を付けたかのようでした。そして描写が大変に細かい。輿や牛車はもちろんのこと、従者の服装に髪型、さらに持ち物や顔の表情などを精緻に象っています。
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「二条城行幸屏風」(部分) 江戸時代・17世紀 泉屋博古館 *通期展示
しかしながらあえて言えば、本作の魅力は行列自体よりも、むしろ見物する人々にあるのではないでしょうか。
これが従者に輪をかけて生き生きとしています。皆、好奇心旺盛です。身を乗り出すようにしている者がいるかと思えば、何やら重箱を差し出し、杯を重ねては、宴会をしているグループもあります。花より団子でしょうか。そして喧嘩です。また商人だけでなく、おそらくは農民らも見物しています。一人として同じ人物はいません。
大変な力作です。さぞかし有力な絵師が描いたのかと思いきや、意外にも作者不詳でした。推定されるのはやまと絵に連なる絵師です。行幸から遠くない時期に制作したと考えられています。江戸中期には住友家へ収められました。だからこその状態なのでしょう。ともかく細部が楽しい。臨場感満点です。観客の歓声が聞こえてくるかのようでした。
「二条城行幸屏風」だけで長くなりました。ほかの屏風絵では「誰ヶ袖図屏風」も充実。さらに絵画では宮川長春の「遊女図巻」も見逃せません。モデルは艶やかな遊女たちです。覗きケースでの展示でした。細部までを肉眼で見ることが出来ます。
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「紅葉呉器茶碗」 朝鮮時代・16世紀 泉屋博古館分館 *通期展示
絵画以外は茶道具がメインです。仁清の香炉や茶入が目を引きました。また「小井戸茶碗 銘六地蔵」が魅惑的です。渋みを帯びた枇杷色は美しい。上部に仄かな青い釉薬がかかっています。
近代以降では香田勝太の「春秋草花図のうち『春』」が華やかでした。屏風一面に描かれるのは春の花です。余白を残して伸びやかに広がっています。雀も飛んでいて情緒深い。素材を知って驚きました。油絵です。遠目では日本画にしか見えません。
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伊年印「四季草花図屏風」(部分) 江戸時代・17〜18世紀 泉屋博古館 *後期展示
会期は2期制です。一部作品の展示替えがあります。
前期:2月25日(土)~3月26日(日)
後期:3月30日(木)~5月7日(日)
2/25(土)から泉屋博古館分館で開催される「屏風にあそぶ春のしつらえ—茶道具とおもてなしのうつわ」の内覧会に行ってきました。目玉はなんといっても「二条城行幸図屏風」。史実にもとづいて制作された、江戸時代初期の天皇と徳川将軍の華麗なるパレード。自由に振る舞う民衆の様子も必見です! pic.twitter.com/n82sQbH4kG
— 美術の窓 (@bimado) 2017年2月23日
「誰ヶ袖図屏風」は前期のみの出品です。後期からは伊年印の「四季草花図屏風」が展示されます。なお「二条城行幸図屏風」は通期での展示です。入れ替えはありません。
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菊池容斎「桜図」 江戸時代・弘化4年(1847) 泉屋博古館・分館 *前期展示
ほかにも菊池容斎の「桜図」や伝佐々木庄次郎「半磁器桜花模様花瓶」など、桜をモチーフとした作品がいくつかありました。一足先に春の気配を楽しめるのではないでしょうか。
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5月7日まで開催されています。
「屏風にあそぶ春のしつらえー茶道具とおもてなしのうつわ」 泉屋博古館分館
会期: 2月25日(土)~5月7日(日)
休館:月曜日。但し3/20は開館。翌3/21は休館。3/27~29(展示替えのため)。
時間:10:00~16:30(入館は16時まで)
料金:一般800(640)円、学生600(480)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
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