「クリムト展」 東京都美術館

東京都美術館
「クリムト展 ウィーンと日本 1900」
2019/4/23~7/10



東京都美術館で開催中の「クリムト展 ウィーンと日本 1900」へ行ってきました。

世紀末ウィーンの画家、グスタフ・クリムト(1862-1918)は、若い頃から装飾の仕事で頭角を現し、ウィーン分離派を結成すると、生と死をテーマとした作品や、官能的な女性像、ないし風景画などの作品を多様に制作してきました。

そのクリムトの作品が、主にウィーンから約120点ほどやって来ました。うち油彩画は25点以上あり、国内で一度に公開された数としては過去最多に及んでいました。


グスタフ・クリムト「ヘレーネ・クリムトの肖像」 1898年 個人蔵(ベルン美術館寄託)

はじめはクリムトの生い立ちと家族を紹介していて、若いクリムトや家族の肖像写真、また弟のゲオルグと共に制作した額縁の装飾パネルなどが展示されていました。うち目を引くのは、クリムトが姪を描いた「ヘレーネ・クリムトの肖像」で、まだ6歳の幼いヘレーネを真横から捉えていました。白を基調とした衣装や背景から浮かび上がるような頭部が印象的で、衣装の流れるようなタッチとは異なり、目鼻や髪をかなり写実的に表現していました。

続くのがクリムトの修行時代や劇場装飾に関した作品で、アカデミックな作風に習った「男性裸体像」や、ティツィアーノの模写に当たる「イザベラ・デステ」のほか、クリムトが装飾の仕事に際して手がけた下絵などが紹介されていました。中でも興味深いのは、ウィーン美術史美術館の壁面装飾のために鉛筆やチョークで描いた紙の作品で、古代エジプトやバロック、ロココの様式のモチーフを、震えるような線で細かに表していました。人物の背景には平面的な模様が広がっていて、のちの「ベートーヴェン・フリーズ」などの作風を予兆させる面もありました。

クリムトや分離派と日本美術の関わりについても重要でした。1873年、ウィーンで万国博覧会が開かれると、日本の美術品が当地の人々の目を楽しませ、いわゆる日本ブームと呼べうる現象が起こりました。さらに日本美術への研究も進展し、分離派のメンバーも日本美術のコレクターに同行して日本を訪ね、中には10ヶ月も日本に滞在しては蒔絵や版画を学ぶ人物もいました。


グスタフ・クリムト「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」 1891年 個人蔵

そしてクリムト自身も日本の美術品をコレクションし、日本風のモチーフを自作に取り入れることもありました。特に「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」の額の部分は、明らかに日本的な植物や花のモチーフが描かれていて、布の山の頂点に赤ん坊を表した「赤子」においても、平面的でかつ色彩に溢れた描写に、日本の歌川派を代表する錦絵に着想したと指摘されていました。

ウィーン分離派の代表作でもある、「ベートーヴェン・フリーズ」の精巧な原寸大複製も公開されました。これは、クリムトが第14回ウィーン分離派展のために描いた壁画で、ベートーヴェンの第九交響曲を主題とした作品のうちの1つでした。


グスタフ・クリムト「ベートーヴェン・フリーズ」(部分) 原寸大複製/オリジナルは1901年〜1902年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館

「ベートーヴェン・フリーズ」は展示室の一室を取り囲んでいて、ちょうど見上げて鑑賞する高さに配置されていました。そして展示室の天井には指向性マイクがいくつか設置され、第九交響曲の第四楽章の終末部が繰り返し流されていました。それは猛烈なスピードでクライマックスへと突入する、フルトヴェングラー指揮の「バイロイトの第九」でした。

その隣には、同じく第14回ウィーン分離派展で公開されたマックス・クリンガーのブロンズ像、「ベートーヴェン」も出展されていて、分離派展開催時の様子を模した「分離派会館模型」とともに、実際に「ベートーヴェン・フリーズ」がどのような位置に描かれたのかを知ることが出来ました。いかんせん無機質なホワイトキューブではありますが、さながら当地の空間を擬似的に追体験し得る展示だったと言えるかもしれません。


グスタフ・クリムト「ユディト I」 1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館

クリムトを代表する作品として知られる「ユディト I」も、ウィーンのベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館から日本へやって来ました。胸元を露わにし、恍惚とした表情で前を見据えるユディトを、金色の装飾的なモチーフの中に描いていて、まさにクリムトの黄金様式の幕開けを告げるかのような高揚感が感じられるかのようでした。



今回、私が特に引かれたのが、クリムトの描いた風景画でした。クリムトは学生時代を除き、1枚の風景画を描きませんでしたが、1898年の頃にザルツブルク東方にある自然豊かな観光地、ザルツカンマーグートで夏を過ごすと、当地の景観に魅了されたのか、風景画を制作するようになりました。

「アッター湖畔のカンマー城3」は、ザルツカンマーグートにあるアッター湖畔の城を舞台としていて、点描的に表した木立の向こうに、黄色の建物を赤い大きな屋根を描いていました。建物と樹木の映り込んだ湖面の表現は、印象派を連想させるかのようで、絵具は図版で目にするよりも遥かに明るく、輝いて見えました。


グスタフ・クリムト「丘の見える庭の風景」 1916年 カム・コレクション財団(ツーク美術館)

同じくアッター湖畔で制作されたと言われるのが「丘の見える庭の風景」で、色とりどりの花や緑色の樹木が、手前から奥へと向かってモザイク画のように表されていました。この時期のクリムトはゴッホに影響されたと考えられていて、スーラやシニャックの点描表現へ近づいたとも言われています。


グスタフ・クリムト「女の三世代」 1905年 ローマ国立近代美術館

「女の三世代」もハイライトの1つかもしれません。クリムトが取り組んだ「生命の円環」をテーマとした作品で、赤ん坊と抱きかかえる若い女性、それに手を頭に当てて打ちひしがれる様に立つ老いた女性が描かれていました。こうした人生の三段階の主題は、中世からヨーロッパで盛んに扱われていて、クリムトも16世紀のハンス・バルドゥング・グリーンの絵画に着想を得たとされています。



さて会場内の状況です。話題の展覧会だけに、会期早々より混み合っていましたが、既に終盤を迎え、混雑に拍車がかかっています。

平日でも昼間の時間を中心に20分から30分待ち、土日に至っては、入場までに約40分ほどの待ち時間が発生しています。またチケット購入に際しても、土日を中心に10分から15分程度の待ち時間となっています。概ね午前中から昼過ぎにかけて混雑し、夕方に向けて段階的に解消しているようです。



私は6月21日の金曜の夕方4時頃に観覧しました。美術館に到着すると10分待ちの表記があり、誘導に従って列に加わると、約5~6分で入場することが出来ました。

館内はさすがに盛況で、特にクリムトの修行時代の作品が並ぶ最初の展示室と、目玉の「ユディト I」、それに後半の「女の三世代」あたりのスペースは黒山の人だかりでしたが、デザイン関連をはじめ、分離派会館の再現展示、並びに風景画のセクションは思ったよりスムーズに見られました。おそらく平日だったからかもしれません。

一通り鑑賞し終えて会場を出ると、入場への待機列は一切なくなっていました。この日は金曜のための夜間開館日で、基本的に夜に列が出来ることはありません。


通常の夜間開館に加え、会期末の7/4(木)、及び7/6(土)も20時までの延長開館が決まりました。もはやゆったりと見られる環境ではないかもしれませんが、基本的に夜間開館が有用となりそうです。

なおチケットについては公式サイトより事前に購入可能な上、上野駅構内のチケットブースでも販売されています。あらかじめ用意されることをおすすめします。

クリムトの残した絵画は200点とされていて、完成作に至っては3分の1程度に過ぎません。またそもそもクリムトの絵画を国内で見る機会は少なく、25点以上揃ったこともありません。その意味では一期一会のクリムト展と言えそうです。



7月10日まで開催されています。なお東京展終了後、愛知県の豊田市美術館(2019/7/23~10/14)へと巡回します。

「クリムト展 ウィーンと日本 1900」@klimt2019) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日、及び7/4(木)、7/6(土)は20時まで開館。 
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、65歳以上1000(800)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *6月1日(土)~6月14日(金)は大学生・専門学校生・高校生無料。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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