都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」 SOMPO美術館
SOMPO美術館
「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」
2021/3/23~6/6

SOMPO美術館で開催中の「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」のプレス内覧会に参加してきました。
1872年にオランダで生まれた画家、ピート・モンドリアン(1872〜1944)は、パリ、そしてニューヨークへと移り住みながら画風を変化させ、水平垂直線と原色平面による独自の幾何学的抽象作品を完成させました。
そのモンドリアンの画業を紹介するのが「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」で、オランダのデン・ハーグ美術館のコレクション50点に加え、アムステルダム美術館や東京国立近代美術館などの関連の作家の作品が展示されていました。

左:ピート・モンドリアン「王立蝋燭工場」 1895〜99年頃 デン・ハーグ美術館
はじまりは20代の若きモンドリアンの「王立蝋燭工場」で、アムステルダム郊外にあった大きな煙突のある工場を灰色や黄土色などを中心としたくすんだ色彩にて描いていました。

左:ピート・モンドリアン「干し物のある農家」 1897年頃 デン・ハーグ美術館
同時期の「干し物のある農家」では、家屋を背に白い干物が戸外に吊るされる光景を捉えていて、太く幅の広い筆触で絵具を塗り込めるように表していました。
10代にして小学校の図画教師の資格を取得し、20代にて美術アカデミーの夜間部を修了したモンドリアンは、当初、フランスのバルビゾン派に影響を受けたハーグ派の風景画を制作していました。

左:「にわとりのいる農家の庭」 1901年 デン・ハーグ美術館
モンドリアンが印象主義的な画風をとったほぼ最後の例とされる「にわとりのいる農家の庭」も魅惑的かもしれません。ここで興味深いのはパレットナイフによって色面に動きがもたらされていることで、樹木の葉がざわめき空の雲がなびく姿を、絵具のタッチそのもので表現しているように思えました。

左:「ニステルローデの納屋」 1904年 デン・ハーグ美術館
さらに「ニステルローデの納屋」は、家屋の構図に抽象的な形態が表れた作品と指摘されていて、納屋の屋根や正面の壁などが図形として浮かび上がって見えました。こうしたあまり知られていない初期の風景画においても、構図やタッチの随所に後の抽象表現へと繋がる面が垣間見えるかのようでした。

左:ピート・モンドリアン「砂丘」 1909年 石橋財団アーティゾン美術館
右:ピート・モンドリアン「陽の当たる家」 1909年 デン・ハーグ美術館
30代を半ばにするとモンドリアンはドンゲンやフォーヴィズムの影響を受けた一方、たびたび夏を過ごしたオランダの北海に面するドンブルグでヤン・トーロップと出会い、象徴主義や点描主義風の作品を描くようになりました。

左:ピート・モンドリアン「ウェストカペレの灯台と雲」 1908年 デン・ハーグ美術館
右:ピート・モンドリアン「ウェストカペレの灯台」 1909年 デン・ハーグ美術館
「ウェストカペレの灯台」はトーロップの点描技法を用いた作品として知られていて、煉瓦造りの塔を青色やピンクの縦線で象りつつ、建物や背景の空に黄色や水色の点を細かに描いていました。また同じ塔を青や紫色の太い線で大胆に表した「ウエストカペレの灯台と雲」も色彩に鮮やかな作品かもしれません。

左:ピート・モンドリアン「砂丘 1」 1909年 デン・ハーグ美術館
右:ピート・モンドリアン「砂丘 3」 1909年 デン・ハーグ美術館
うねりのある長い線を用いた「砂丘 1」と、細かな粒状の色彩が横に広がる「砂丘 3」も美しいのではないでしょうか。ともにあたかも色自体が瞬いて光を放っているかのようでした。

左:ピート・モンドリアン「ドンブルグの教会塔」 1911年 デン・ハーグ美術館
この他では赤みのかかったピンクで教会を正面から描いた「ドンブルグの教会塔」も目を引きました。まるで青いモザイクを散りばめたような緑色の空の表現も興味深いかもしれません。
1911年、39歳のモンドリアンはアムステルダム市立美術館での「第1回 近代美術サークル展」に参加すると、同じく出品されたセザンヌやピカソらの絵画に触発され、パリへと移住しました。そして翌年の第2回展では早くもキュビズム的な作品を出展しました。

左:ピート・モンドリアン「女性の肖像」 1912年 デン・ハーグ美術館
右:ピート・モンドリアン「風景」 1912年 デン・ハーグ美術館
「女性の肖像」はキュビスム風を取り入れた最初期の作品で、暗いコートかガウンを着た女性を大きな垂直の平面にて構成していました。また同じく「風景」もキュビスム絵画の1つで、青く透明感のある分割された色面にはセザンヌの影響を伺うこともできました。

左:「コンポジション 木々 2」 1912〜13年 デン・ハーグ美術館
右:「色面の楕円 コンポジション 2」 1914年 デン・ハーグ美術館
さらに40代を過ぎると水平線と垂直線を交差させた「プラス・マイナス」と呼ばれる作品を描いたり、「色面のコンポジション」に着手するなど、抽象的な造形を中心とする表現へと移行しました。

左:「コンポジション(プラスとマイナスのための習作)」 1916年頃 京都国立近代美術館
右:「色面のコンポジション No.3」 1917年 デン・ハーグ美術館
1917年、画家のファン・ドゥースブルフらとともに結成した「デ・ステイル」も、モンドリアンにとって重要な活動だったのではないでしょうか。建築家や音楽家も参加した同グループは、10年以上にわたって機関誌を発行し、創刊号の巻頭にはモンドリアンの論考「絵画における新しい造形」が掲載されました。

左:ピート・モンドリアン「コンポジション No.1」 1929年 京都国立近代美術館
右:ピート・モンドリアン「線と色のコンポジション:3」 1937年 デン・ハーグ美術館
抽象性や直線、三原色など、モンドリアンの提唱する新造形主義を理念とした「デ・ステイル」は、度々メンバーが入れ替わったものの、絵画や彫刻、建築の分野に刺激を与えるなど活動の幅を広げていました。

左:ハンス・リヒター「色のオーケストレーション」 1923年 東京国立近代美術館
右:ジョルジュ・ヴァントンゲルロー「形態と色彩の機能」 1937年 DIC川村記念美術館
そうした「デ・ステイル」の創設メンバーである、バート・ファン・デル・レックやジョルジュ・ヴァントンゲルローといった同時代の画家の絵画も見どころではないでしょうか。

ヘリット・チーマス・リートフェルト「アームチェア」 1918年(デザイン)、1958年(再制作) 豊田市美術館
さらに同じく「デ・ステイル」に参加し、建築家として活動したヘリット・トーマス・リートフェルトの「アームチェア」などの家具も合わせて公開されていました。

左:ピート・モンドリアン「夕暮れの風車」 1917年 デン・ハーグ美術館
第一次世界大戦中、オランダに滞在していた時期に描かれた「夕暮れの風車」に魅せられました。モンドリアンが抽象表現に向かう中、具象としては後期の作例の1つで、月明かりが雲から滲み出す空の下、風車が行方を塞ぐかのように立つ光景を描いていました。まるで空と対峙するかのような存在感を見せていて、実に力強い作品ではないでしょうか。
オンラインでの事前日時指定制が導入されました。専用サイトよりあらかじめ入場日時を予約しておく必要があります。但し定員に空きがある場合に限り、美術館受付で当日チケットが販売されます。(一般オンライン1500円、当日窓口1700円。)

「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」会場風景
今回のモンドリアン展で特徴的なのは初期の風景画がかなり網羅されていることで、モンドリアンがいかにして抽象へと至ったのかを作品を通して追うことができました。

ピート・モンドリアンを訪問した弟カレルとその妻のメアリー
実に国内では23年ぶりの回顧展です。6月6日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、豊田市美術館(2021年7月10日〜9月20日)へと巡回します。
「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」 SOMPO美術館(@sompomuseum)
会期:2021年3月23日(火)~6月6日(日)
休館:月曜日。但し5月3日(月・祝)は開館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学生1100円、高校生以下無料。
*オンラインチケット料金。当日窓口チケット料金は一般1700円、大学生1300円。
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
注)写真はプレス内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」
2021/3/23~6/6

SOMPO美術館で開催中の「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」のプレス内覧会に参加してきました。
1872年にオランダで生まれた画家、ピート・モンドリアン(1872〜1944)は、パリ、そしてニューヨークへと移り住みながら画風を変化させ、水平垂直線と原色平面による独自の幾何学的抽象作品を完成させました。
そのモンドリアンの画業を紹介するのが「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」で、オランダのデン・ハーグ美術館のコレクション50点に加え、アムステルダム美術館や東京国立近代美術館などの関連の作家の作品が展示されていました。

左:ピート・モンドリアン「王立蝋燭工場」 1895〜99年頃 デン・ハーグ美術館
はじまりは20代の若きモンドリアンの「王立蝋燭工場」で、アムステルダム郊外にあった大きな煙突のある工場を灰色や黄土色などを中心としたくすんだ色彩にて描いていました。

左:ピート・モンドリアン「干し物のある農家」 1897年頃 デン・ハーグ美術館
同時期の「干し物のある農家」では、家屋を背に白い干物が戸外に吊るされる光景を捉えていて、太く幅の広い筆触で絵具を塗り込めるように表していました。
10代にして小学校の図画教師の資格を取得し、20代にて美術アカデミーの夜間部を修了したモンドリアンは、当初、フランスのバルビゾン派に影響を受けたハーグ派の風景画を制作していました。

左:「にわとりのいる農家の庭」 1901年 デン・ハーグ美術館
モンドリアンが印象主義的な画風をとったほぼ最後の例とされる「にわとりのいる農家の庭」も魅惑的かもしれません。ここで興味深いのはパレットナイフによって色面に動きがもたらされていることで、樹木の葉がざわめき空の雲がなびく姿を、絵具のタッチそのもので表現しているように思えました。

左:「ニステルローデの納屋」 1904年 デン・ハーグ美術館
さらに「ニステルローデの納屋」は、家屋の構図に抽象的な形態が表れた作品と指摘されていて、納屋の屋根や正面の壁などが図形として浮かび上がって見えました。こうしたあまり知られていない初期の風景画においても、構図やタッチの随所に後の抽象表現へと繋がる面が垣間見えるかのようでした。

左:ピート・モンドリアン「砂丘」 1909年 石橋財団アーティゾン美術館
右:ピート・モンドリアン「陽の当たる家」 1909年 デン・ハーグ美術館
30代を半ばにするとモンドリアンはドンゲンやフォーヴィズムの影響を受けた一方、たびたび夏を過ごしたオランダの北海に面するドンブルグでヤン・トーロップと出会い、象徴主義や点描主義風の作品を描くようになりました。

左:ピート・モンドリアン「ウェストカペレの灯台と雲」 1908年 デン・ハーグ美術館
右:ピート・モンドリアン「ウェストカペレの灯台」 1909年 デン・ハーグ美術館
「ウェストカペレの灯台」はトーロップの点描技法を用いた作品として知られていて、煉瓦造りの塔を青色やピンクの縦線で象りつつ、建物や背景の空に黄色や水色の点を細かに描いていました。また同じ塔を青や紫色の太い線で大胆に表した「ウエストカペレの灯台と雲」も色彩に鮮やかな作品かもしれません。

左:ピート・モンドリアン「砂丘 1」 1909年 デン・ハーグ美術館
右:ピート・モンドリアン「砂丘 3」 1909年 デン・ハーグ美術館
うねりのある長い線を用いた「砂丘 1」と、細かな粒状の色彩が横に広がる「砂丘 3」も美しいのではないでしょうか。ともにあたかも色自体が瞬いて光を放っているかのようでした。

左:ピート・モンドリアン「ドンブルグの教会塔」 1911年 デン・ハーグ美術館
この他では赤みのかかったピンクで教会を正面から描いた「ドンブルグの教会塔」も目を引きました。まるで青いモザイクを散りばめたような緑色の空の表現も興味深いかもしれません。
1911年、39歳のモンドリアンはアムステルダム市立美術館での「第1回 近代美術サークル展」に参加すると、同じく出品されたセザンヌやピカソらの絵画に触発され、パリへと移住しました。そして翌年の第2回展では早くもキュビズム的な作品を出展しました。

左:ピート・モンドリアン「女性の肖像」 1912年 デン・ハーグ美術館
右:ピート・モンドリアン「風景」 1912年 デン・ハーグ美術館
「女性の肖像」はキュビスム風を取り入れた最初期の作品で、暗いコートかガウンを着た女性を大きな垂直の平面にて構成していました。また同じく「風景」もキュビスム絵画の1つで、青く透明感のある分割された色面にはセザンヌの影響を伺うこともできました。

左:「コンポジション 木々 2」 1912〜13年 デン・ハーグ美術館
右:「色面の楕円 コンポジション 2」 1914年 デン・ハーグ美術館
さらに40代を過ぎると水平線と垂直線を交差させた「プラス・マイナス」と呼ばれる作品を描いたり、「色面のコンポジション」に着手するなど、抽象的な造形を中心とする表現へと移行しました。

左:「コンポジション(プラスとマイナスのための習作)」 1916年頃 京都国立近代美術館
右:「色面のコンポジション No.3」 1917年 デン・ハーグ美術館
1917年、画家のファン・ドゥースブルフらとともに結成した「デ・ステイル」も、モンドリアンにとって重要な活動だったのではないでしょうか。建築家や音楽家も参加した同グループは、10年以上にわたって機関誌を発行し、創刊号の巻頭にはモンドリアンの論考「絵画における新しい造形」が掲載されました。

左:ピート・モンドリアン「コンポジション No.1」 1929年 京都国立近代美術館
右:ピート・モンドリアン「線と色のコンポジション:3」 1937年 デン・ハーグ美術館
抽象性や直線、三原色など、モンドリアンの提唱する新造形主義を理念とした「デ・ステイル」は、度々メンバーが入れ替わったものの、絵画や彫刻、建築の分野に刺激を与えるなど活動の幅を広げていました。

左:ハンス・リヒター「色のオーケストレーション」 1923年 東京国立近代美術館
右:ジョルジュ・ヴァントンゲルロー「形態と色彩の機能」 1937年 DIC川村記念美術館
そうした「デ・ステイル」の創設メンバーである、バート・ファン・デル・レックやジョルジュ・ヴァントンゲルローといった同時代の画家の絵画も見どころではないでしょうか。

ヘリット・チーマス・リートフェルト「アームチェア」 1918年(デザイン)、1958年(再制作) 豊田市美術館
さらに同じく「デ・ステイル」に参加し、建築家として活動したヘリット・トーマス・リートフェルトの「アームチェア」などの家具も合わせて公開されていました。

左:ピート・モンドリアン「夕暮れの風車」 1917年 デン・ハーグ美術館
第一次世界大戦中、オランダに滞在していた時期に描かれた「夕暮れの風車」に魅せられました。モンドリアンが抽象表現に向かう中、具象としては後期の作例の1つで、月明かりが雲から滲み出す空の下、風車が行方を塞ぐかのように立つ光景を描いていました。まるで空と対峙するかのような存在感を見せていて、実に力強い作品ではないでしょうか。
「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」が開幕しました!日本では23年ぶりの「モンドリアン展」、オランダのデン・ハーグ美術館所蔵のモンドリアン作品50点を中心に関連作家の作品など約70点を展示します。日時指定入場制、チケットはこちらから⇒https://t.co/RpRC1wDGS1 pic.twitter.com/VB3fA6LpuL
— SOMPO美術館 (@sompomuseum) March 23, 2021
オンラインでの事前日時指定制が導入されました。専用サイトよりあらかじめ入場日時を予約しておく必要があります。但し定員に空きがある場合に限り、美術館受付で当日チケットが販売されます。(一般オンライン1500円、当日窓口1700円。)

「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」会場風景
今回のモンドリアン展で特徴的なのは初期の風景画がかなり網羅されていることで、モンドリアンがいかにして抽象へと至ったのかを作品を通して追うことができました。

ピート・モンドリアンを訪問した弟カレルとその妻のメアリー
実に国内では23年ぶりの回顧展です。6月6日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、豊田市美術館(2021年7月10日〜9月20日)へと巡回します。
「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」 SOMPO美術館(@sompomuseum)
会期:2021年3月23日(火)~6月6日(日)
休館:月曜日。但し5月3日(月・祝)は開館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学生1100円、高校生以下無料。
*オンラインチケット料金。当日窓口チケット料金は一般1700円、大学生1300円。
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
注)写真はプレス内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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