都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
青木繁の「海の幸」が生まれた房州館山の布良を訪ねて
明治時代を代表する画家で、28歳にて夭折した青木繁は、代表作「海の幸」を房総半島南端に位置する館山の布良(めら)にて描きました。
青木が友人の坂本繁二郎や森田恒友、そして恋人だった福田たねらとともに滞在した布良の家は、現在「青木繁『海の幸』記念館 小谷家住宅」として一般に公開されています。
布良は館山市中心部より南に約10キロほど離れた場所にある漁港で、館山駅からは安房白浜行きの路線バスで約25分ほどかかりました。館山駅からバスに乗って山を抜けると、右正面に太平洋に面した海岸が開けていて、しばらくすると記念館に近い安房自然村バス停に着きました。
1899年に布良を襲った大火の後に建てられた小谷家住宅とは、漁業で栄えた一家の木造平屋建ての住宅で、2009年に館山市指定有形文化財に指定されました。かつて小谷家の住まいでもあった同宅は、後世に残すためにNPO法人とともに基金を集め、約2年の改修工事を経て、2016年に記念館としてオープンしました。
バス停から少し海岸方向へ降りた先に建つ小谷家住宅の前には、ブロンズの刻画「海の幸」も展示されていて、ここが青木とゆかりのある地であることを見ることができました。
私が出向いた際はあたりに人がいなく、玄関も閉ざされていましたが、家の方へ近づくとすぐにガイドの方がやってきて下さいました。同住宅は現在、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点より、個人客に限定した上、土日のみ見学を受け付けています。
中へ入ると座敷があり、右手に青木らが滞在した2間続きの客室が広がっていて、床の間には「大漁」と書かれた掛け軸がかかっていました。また「海の幸」の複製画も展示されていました。そして青木を出迎えた小谷家当主・小谷喜録の子孫にあたる方が、小谷家の来歴や青木の滞在時のエピソードなど丁寧にを説明して下さいました。
小谷家は江戸期より昭和初期まで布良で続いた漁家で、小谷喜録は布良を含む当時の富崎村の議員をはじめ、帝国水難救済会布良救難所看守長をつとめるなど地元の名士として活動していました。
また小谷家が所蔵する「日本重要水産動植物の図」とは、1890年に水産実習のお礼として水産伝習所より贈られたもので、当地に滞在した青木も見ていたとされています。
この地に青木がやってきたのは、東京美術学校を卒業した1904年のことで、いわゆる制作旅行として布良海岸が選ばれました。これは青木や坂本と同じ久留米出身で、交流していた詩人高島宇朗に布良の良さを伝えられていたからと言われていて、約40日間滞在して「海の幸」を制作しました。また青木自身も布良を気に入った様子などを旧友に絵手紙として送りました。
小谷家に滞在した3年後に描かれた大作「わだつみのいろこの宮」も、布良の海に潜ったことから着想を得た作品として知られていて、青木は布良の海そのものも何点か絵画に描きました。
福田たねの「館山の茶屋」(複製画)は、70歳を超えた福田が、かつて青木らと布良に来たことを思い出して描いた作品で、海岸で4人揃ってかき氷を食べる光景が表されていました。
青木とたねの間には子どもが生まれたものの入籍せず、6年後に青木は結核により亡くなりますが、たねは83歳まで生きて野尻長十郎との間に7人の子をもうけました。また1962年には青木との子で、「海の幸」に因んで名付けられた幸彦こと音楽家の福田蘭童や坂本繁二郎とともに布良を訪ねて、「海の幸」の記念碑の除幕式に参加しました。
その記念碑が記念館のすぐ近くの布良海岸に建っていて、正面に伊豆大島、そして眼下に青木も描いた波に削られた岩場と砂浜が入り組む海岸を見ることができました。
青木繁「海の幸」 1904年 *アーティゾン美術館の展示より
10名の裸体の男がサメを担いで砂浜を歩く「海の幸」は、神話世界をのぞき込むような独特の雰囲気が漂っているとともに、人間の根源的な生命感がみなぎっているような印象を与えられます。またたねをモデルとしたとも言われ、こちらを向く1人の人物の目線も心を捉えられてなりません。
「海の幸」の制作にはラファエル前派の影響とともに、布良に伝わる御輿を担ぐ祭礼の光景に着想を得たという指摘もなされています。そして布良には昔からいくつかの神話も伝えられてきました。
この日はあまり時間がなく、残念ながら海岸線まで降りられませんでしたが、日本美術史上でも傑作と称される「海の幸」を生んだ布良を訪ね歩くのも楽しいのではないでしょうか。
「青木繁『海の幸』記念館 小谷家住宅」(@aokisigeru_mera)
開館:土曜・日曜日。(お盆時期、年末年始を除く)
時間:10:00~16:00(4月〜9月)、10:00〜15:00(10月〜3月)
料金:一般200円、小中高生100円。
住所:千葉県館山市布良1256
交通:JR線館山駅よりJRバス関東「安房白浜」行き(約25分)、「安房自然村」下車徒歩3分。
青木が友人の坂本繁二郎や森田恒友、そして恋人だった福田たねらとともに滞在した布良の家は、現在「青木繁『海の幸』記念館 小谷家住宅」として一般に公開されています。
布良は館山市中心部より南に約10キロほど離れた場所にある漁港で、館山駅からは安房白浜行きの路線バスで約25分ほどかかりました。館山駅からバスに乗って山を抜けると、右正面に太平洋に面した海岸が開けていて、しばらくすると記念館に近い安房自然村バス停に着きました。
1899年に布良を襲った大火の後に建てられた小谷家住宅とは、漁業で栄えた一家の木造平屋建ての住宅で、2009年に館山市指定有形文化財に指定されました。かつて小谷家の住まいでもあった同宅は、後世に残すためにNPO法人とともに基金を集め、約2年の改修工事を経て、2016年に記念館としてオープンしました。
バス停から少し海岸方向へ降りた先に建つ小谷家住宅の前には、ブロンズの刻画「海の幸」も展示されていて、ここが青木とゆかりのある地であることを見ることができました。
私が出向いた際はあたりに人がいなく、玄関も閉ざされていましたが、家の方へ近づくとすぐにガイドの方がやってきて下さいました。同住宅は現在、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点より、個人客に限定した上、土日のみ見学を受け付けています。
中へ入ると座敷があり、右手に青木らが滞在した2間続きの客室が広がっていて、床の間には「大漁」と書かれた掛け軸がかかっていました。また「海の幸」の複製画も展示されていました。そして青木を出迎えた小谷家当主・小谷喜録の子孫にあたる方が、小谷家の来歴や青木の滞在時のエピソードなど丁寧にを説明して下さいました。
小谷家は江戸期より昭和初期まで布良で続いた漁家で、小谷喜録は布良を含む当時の富崎村の議員をはじめ、帝国水難救済会布良救難所看守長をつとめるなど地元の名士として活動していました。
また小谷家が所蔵する「日本重要水産動植物の図」とは、1890年に水産実習のお礼として水産伝習所より贈られたもので、当地に滞在した青木も見ていたとされています。
この地に青木がやってきたのは、東京美術学校を卒業した1904年のことで、いわゆる制作旅行として布良海岸が選ばれました。これは青木や坂本と同じ久留米出身で、交流していた詩人高島宇朗に布良の良さを伝えられていたからと言われていて、約40日間滞在して「海の幸」を制作しました。また青木自身も布良を気に入った様子などを旧友に絵手紙として送りました。
小谷家に滞在した3年後に描かれた大作「わだつみのいろこの宮」も、布良の海に潜ったことから着想を得た作品として知られていて、青木は布良の海そのものも何点か絵画に描きました。
福田たねの「館山の茶屋」(複製画)は、70歳を超えた福田が、かつて青木らと布良に来たことを思い出して描いた作品で、海岸で4人揃ってかき氷を食べる光景が表されていました。
青木とたねの間には子どもが生まれたものの入籍せず、6年後に青木は結核により亡くなりますが、たねは83歳まで生きて野尻長十郎との間に7人の子をもうけました。また1962年には青木との子で、「海の幸」に因んで名付けられた幸彦こと音楽家の福田蘭童や坂本繁二郎とともに布良を訪ねて、「海の幸」の記念碑の除幕式に参加しました。
その記念碑が記念館のすぐ近くの布良海岸に建っていて、正面に伊豆大島、そして眼下に青木も描いた波に削られた岩場と砂浜が入り組む海岸を見ることができました。
青木繁「海の幸」 1904年 *アーティゾン美術館の展示より
10名の裸体の男がサメを担いで砂浜を歩く「海の幸」は、神話世界をのぞき込むような独特の雰囲気が漂っているとともに、人間の根源的な生命感がみなぎっているような印象を与えられます。またたねをモデルとしたとも言われ、こちらを向く1人の人物の目線も心を捉えられてなりません。
「海の幸」の制作にはラファエル前派の影響とともに、布良に伝わる御輿を担ぐ祭礼の光景に着想を得たという指摘もなされています。そして布良には昔からいくつかの神話も伝えられてきました。
青木繁「海の幸」記念館小谷家住宅(館山市指定文化財)お待たせしました!10/16〜 見学を再開します。土日のみ開館当面は個人客のみとし、団体はご遠慮願います。利用案内はこちらをご参照下さい。https://t.co/XDoauAK7d8 pic.twitter.com/WtnPqwrF9C
— 青木繁「海の幸」記念館 (@aokisigeru_mera) October 15, 2021
この日はあまり時間がなく、残念ながら海岸線まで降りられませんでしたが、日本美術史上でも傑作と称される「海の幸」を生んだ布良を訪ね歩くのも楽しいのではないでしょうか。
「青木繁『海の幸』記念館 小谷家住宅」(@aokisigeru_mera)
開館:土曜・日曜日。(お盆時期、年末年始を除く)
時間:10:00~16:00(4月〜9月)、10:00〜15:00(10月〜3月)
料金:一般200円、小中高生100円。
住所:千葉県館山市布良1256
交通:JR線館山駅よりJRバス関東「安房白浜」行き(約25分)、「安房自然村」下車徒歩3分。
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