「いちはらアート×ミックス2000+」 小湊鉄道を軸とした周辺エリア(前編:五井機関区、上総牛久、市原湖畔美術館)

小湊鉄道を軸とした周辺エリア
「いちはらアート×ミックス2000+」
2021/11/19~12/26



新型コロナウイルス感染症の影響により、約1年半あまり開催を延期していた「いちはらアート×ミックス2000+」が、会期を大幅に変更して11月19日からはじまりました。

会場は千葉県市原市の南部を中心としたエリアで、小湊鉄道各駅と市原湖畔美術館、および市南部に点在する旧学校の校舎にてさまざまな展示が行われていました。



いつもお世話になっているアート仲間の先輩方と五井駅で待ち合わせたのは、朝の9時過ぎのことで、まずは駅東口に位置するインフォメーションセンターへ向かいました。アソビューのサイトを通してパスポートをネット決済することも可能ですが、その場合もすべてインフォメーションセンターにて紙の券に引き替える必要があります。



紙のパスポートを手にしたのちは、インフォメーションセンター近くの会場である小湊鉄道五井機関区へと行き、駅構内と合わせていくつかの展示を見学しました。



ここではロシアの作家アレクサンドル・ポノマリョフが機関車にインスラレーションを展開したり、アルジェリア生まれのアデル・アブデスメッドが駅ホームにてピアノを用いた作品を公開していました。ピアノは自動によって演奏されていて、軽快なジャズのメロディを奏でていました。



この他にもターニャ・バダニナが「門」を展示するなど、機関区とホームを合わせて5~6点の作品を見ることができました。



今回は過去2回とは異なり、五井そのものも主要会場の1つとなっていて、普段、立ち入ることのできない機関区など、会場そのものも魅力であるように思えました。



そして駅を出た後はレンタカーを借り、市原市中南部に展開する各会場を巡ることにしました。アートミックス周遊に際しては鉄道と無料バスを組み合わせる方法もありますが、どうしても本数が少ないため、車移動の方が効率的に回れるのは否めません。



まず上総牛久エリアでは、駅近くの商店街の空き店舗を利用し、豊福亮や柳建太郎らが作品を展示していました。



豊福は「牛久名画座」において、ゴンブリッチ著の「美術の物語」に登場するカラヴァッジョやベラスケスといった絵画を自らのスタイルで写して描いていて、まさに名画座の名の通り、名画がシャンデリアのある室内をゴージャスに彩っていました。



柳建太郎は息を吹きかければ崩れてしまいそうなほど繊細なガラスのオブジェを展示していて、有機的に連なりつつ光を放った光景に目を奪われました。



上総牛久で最も印象に残ったのは、中﨑透の「Clothing Fills in the Sky」で、同地で営業する古い衣料品店の2階と3階を用いた大掛かりなインスタレーションでした。



ここでは店が何十年も前より営業を続けてきた歴史を、店主夫妻より聞き取ったエピソードとともに紐解いていて、陳列棚や什器、それにマネキンなどのさまざまなオブジェを再構成して展示していました。



またSection1から続く店にまつわるテキストも興味深く、あたかも店の辿った道のりを追体験しているかのようでした。インスタレーションそのものに加え、店や地域への丹念なリサーチも作品に深みをもたらしていたのではないでしょうか。



牛久地区より次に向かったのは上総久保駅で、現代美術家の西野達が「上総久保駅ホテル」を公開していました。



これは上総久保駅のホームに面した場所に、実際に宿泊可能な装備(トイレ、シャワーなど)をつけて部屋を築いたもので、ちょうどベットのすぐ前のガラスの外にホームが広がっていました。



今のところ宿泊自体は行われていないそうですが、それこそ日本で最もホームに近いホテルといえるのかもしれません。駅の周囲に広がる長閑な景色を見遣りながら、突如出現したホテルの一室にてしばし滞在しました。



この上総久保駅からもほど近いのが、高滝湖に面した市原湖畔美術館で、クワクボリョウタらが旧作を館内にて公開する一方、屋外では旧ソ連生まれのウラジミール・ナセトキンなどが新たな大型のオブジェなどを築いていました。



ちょうど11時を回っていたので併設のレストラン「PIZZERIA BOSSO」でピザを頂いたのちは、一通り屋外の作品を見学し、アートミックスに合わせて行われていた「戸谷成雄 森―湖:再生と記憶」を鑑賞しました。



アートミックスでは食に関するプロジェクトがあり、今回も旧里見小学校にて里山食堂が開設されていますが、おそらくはコロナの影響のために極めて限定的で、過去ほど展開はありませんでした。この日は平日だったのでレストランへ難なく入れましたが、食事に関しては前もって準備しておくのも選択肢となりそうです。



さて「戸谷成雄 森―湖:再生と記憶」では、一貫してチェーンソーで木を彫り込む作品で知られる戸谷が、「森」や「双影景」といった作品を公開していて、コンクリートの構造とアトリウムのあるスペースを取り込んで見事なインスタレーションを築いていました。



中でも高さ9メートルにも及ぶ「雷神 - 09」やレリーフ状の「水根II(スワ)」などが並ぶ地下の展示室は、あたかも木の精霊を祀った地の奥底へと迷い込んだような雰囲気が感じられて、畏怖の念すら呼び覚まされました。



木と襞の生み出す戸谷の彫刻に心を打たれながら美術館を後にすると、次はアートミックスでも最も多くの作品が集まる旧平三小学校へと移動しました。



「後編:旧平三小学校、月出工舎、旧白鳥保育所」へと続きます。

「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2000+」@IchiharaArtMix) 小湊鉄道を軸とした周辺エリア
会期:2021年11月19日(金)~12月26日(日)
休館:月・火曜日。但し11/23(火・祝)を除く。
時間:10:00~16:00 *施設やイベントによって異なる。
鑑賞パスポート料金:一般3000円、大学・高校生1500円、小中学生500円。
 *鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。1枚で1名のみ有効、1作品1回のみ(2回目以降、要個別料金。)。
 *各会場における個別観覧券あり。
住所:千葉県市原市不入75-1(市原湖畔美術館)他
交通:JR線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。小湊鉄道上総牛久駅より周遊バス「上総牛久駅ルート」で市原湖畔美術館。
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