網戸の張替えをたのんだ。「1枚ですけどいいですか?」
新築当時以来で懐かしい業者の一人でもあったH硝子屋さんは、気さくに注文をうけてもらった。
エイッ!とばかりに網戸をはずして、ポツリとひとこと。
「あの時、奥さんからヨーグルトもらったですたい、カスピなんとか・・・」
「え?なに? 耳が遠くなって・・・ なに? カスピ海のヨーグルト??」
「そうそう其れ!! この頃俺も、とうとう右の耳がきこえんごとなったばってんが、あれはうまかったですたい」
「え~ そんなことありましたかねぇ・・・」
もう20余年以上も前のことで、カスピ海ヨーグルトを分けてあげたことはすっかり忘れていた。
それをちゃんとおぼえてあったことにびっくりして、
そしてうれしかった。
「おいくつになられましたか」
「いくつにみえますかの?」
「え~っと70代前半かな?・・・」ちょっと少なめによんでみた。
「は~い 72ですたい、あはは~」
すっかり頭は白くなったHさんだったが、一枚もらった名刺には、時代のかわりで ◎◇建設と名前が変わり、土木一式、設備、改装等々手広く営業中の様子がうかがえた。
時は流れたが、人の心は変わらずに・・・
「急がなくてもいいですよ、もう蚊もあまりいないのでね」と見送った。