三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」

2024年11月24日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」を観た。
2024年11月22日公開『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』公式サイト

2024年11月22日公開『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』公式サイト

出演:内野聖陽、岡田将生。監督:上田慎一郎『カメラを止めるな!』。騙して奪って脱税王から10億円を納税させろ!“マジメな公務員 × 天才詐欺師”異色のタッグによる痛快ク...

2024年11月22日公開『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』公式サイト

 詐欺師の映画は、古くは「スティング」から、「オーシャンズ・イレブン」や「フォーカス」など、切羽詰まったかのように見えて、最後にうっちゃりのようなどんでん返しを用意しているのが常だ。米テレビドラマの「スパイ大作戦」も、毎回ターゲットを騙していた。
 本作品もそれらの作品の例に漏れず、どんでん返しのどんでん返しを用意している。変な言い方だが、安心してみていられるエンタテインメントだ。

 役者陣はいずれも好演。中でも主演の内野聖陽は、詐欺師の仲間に入ろうとしてなかなかうまくいかないド素人の税務署員という微妙で難解な役柄を、丁度いい按配で演じきった。恐怖あり、不安あり、怒り心頭ありのジェットコースターみたいな精神状態だが、中年男らしく自分を突き放して客観視することで乗り切るあたり、とても上手い。ラストの妄想シーンも迫力があった。

 悪者が善人の顔で世間体を取り繕い、裏では役人や政治家に手を回して権力を味方にする話は、時代劇の越後屋と同じだ。勧善懲悪のドラマは、悪が強大であるほど盛り上がる。ベタではあるが、とても面白かった。

映画「海の沈黙」

2024年11月24日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「海の沈黙」を観た。
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 絵画というと、どうしてもその価格が気になる。我ながら俗物根性が情けないのだが、絵画を見るとどうして価格が気になるのか考えてみたとき、絵画の報道が必ず価格とセットになっていることが影響しているのかも知れないと思った。その報道というのは、盗まれたか、発見されたか、落札されたかのどれかだ。滅多にないが、誰それの絵画が賞を取ったとか、画家が叙勲されたというニュースもある。そしてそのときも、どんな絵を描いていて、その絵はいくらなのかが報道される。絵画の報道は、その価格と不可分になっているようだ。あたかも有名人のゴシップ記事のようである。といっても、自分のスノッブを報道のせいにするのは言い訳がましいか。

 2016年に池袋の東京芸術劇場ギャラリー1で開催された、広島県の画家大前博士さんの作品展「黒い世界と白き眼光」を見に行った。テーマは原爆である。
 抽象画は不案内でなかなか理解し難いのだが、展示されたそれぞれの絵は、とにかく悲惨で凄絶な場面をこれでもかと訴えかけてきた。
 ひとつだけ気になったのは、どの絵にも丸が描かれていることだ。大きな丸、小さな丸、歪んだ丸など、様々な丸が描かれていた。その殆どのモチーフは人間の目だと思われるが、それは被爆者の目だけではなく、描いている自分の目でもあり、また神の目でもあるかのようだ。それぞれの目が見つめる先は、現実であり過去であり未来である。自分の内側であり、外の世界である。何も信じられない、ただ見つめる、そのような目であるように感じられた。
 描かれた丸のもうひとつのモチーフは魂だろうか。人間の意識と無意識と記憶のすべてが魂であるなら、生きている人間にしか魂はない。死体には丸は描かれていなかったように思う。
 堂本剛が主演した映画「まる」の丸は、作品の中では仏教の円相という話だったが、大前博士さんの絵に感じたように、もしかしたら人間の目、あるいは神の目かもしれない。少なくとも、大前博士さんの絵を見るとき、価格のことは少しも頭に浮かばなかった。

 我々は、絵を見るときに価格を気にするように、人を見るときには性別や年齢や職業などを気にする。それはバイアス以外の何物でもない。いい絵はいい絵だし、いい人はいい人なのだが、悪い人もいい人に見えることがある。自分に自信がないから、対象の情報を求めたがる。絵を見極める能力がないことを自覚しているから、価格を気にするしかないのだろう。

 さて本作品は、そんな鑑賞眼のない我々を憐れむように、本物の絵とは何かを問いかけてくる。絵を見るときに、価格や画家の背景やらを何も考えず、ただその絵と向かい合ってほしいと願うのは、すべての画家に共通する願いに違いない。
 本木雅弘の演じる津山竜次の精神が気高すぎて、俗物の当方の理解の範疇を超えていた。あんなふうに浮世のよしなしごとを何も気にせずに生きるのは、ある意味で幸せな生き方だと思った。ただ、相当な精神力が必要だから、多分当方には無理だ。

映画「ドリーム・シナリオ」

2024年11月24日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ドリーム・シナリオ」を観た。
映画『ドリーム・シナリオ』オフィシャルサイト

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11.22 Fri|『ミッドサマー』のA24×アリ・アスター製作×ニコラス・ケイジ主演映画『ドリーム・シナリオ』公式。日常が悪夢へと変わるドリーム・スリラー

映画『ドリーム・シナリオ』オフィシャルサイト

 1974年に出版された筒井康隆の「おれに関する噂」という小説をご存知だろうか。ある一般人の男性が、テレビや新聞といったマスコミから一斉に個人的な事情を報道されてしまう話である。その後は、筒井康隆お得意のスラップスティックの展開があって、唐突に報道が終わって、誰でもない誰かに戻る。

 本作品の場合はマスコミではなくて、他人の夢に登場するのだが、その後の展開は筒井康隆の小説によく似ている。ある個人の情報が社会的に広まるとき、当該の個人には、利益と不利益がもたらされる。有名になるためにはそれなりの実績が必要だが、何もなしに、ただ有名になった場合は、利益よりも不利益のほうが圧倒的に大きい。

 本作品では、夢とは別にSNSがあるようなストーリーになっているが、現実世界ではSNSが夢の代わりを務めている。つまり本作品は、行き過ぎたネット社会では、罪のない誰かを簡単に陥れることができる実態を、夢として象徴的に描いていると言えるのではないか。
 してもいない行動、ありもしない犯罪を一方的に拡散され、ひどい濡れ衣を着せられる。違法行為はしていないから、法的な制裁を受けることはないが、実際の生活では、それと同等の扱いを受けてしまう。
 無条件の信頼関係にあると思っていた家族の態度も急変し、信頼が幻想であったことを思い知らされる。自分の不作為と無辜を主張しようとする主人公の行動は、ことごとく裏目に出る。このあたりのニコラス・ケイジの演技は、名人級だ。

 人間が潜在意識を共有することはないと思うが、被害妄想を共有することはあり得る。その被害妄想によって特定された加害者を相手に、全員が攻撃的な態度をとることも、十分あり得る。集団ヒステリーみたいなものだ。個人が相手ならいじめや村八分となり、相手が国家なら、戦争になる。
 起きてもいないことで被害を訴え、被害者ヅラをして敵を攻撃しようというのは、軍国主義者の常套手段だ。プーチンやネタニヤフのやっていることはまさにそういうことである。ネットで特定の個人に罵詈讒謗を浴びせるのも、病んだ精神性の成せる業だろう。それを助長しているのがネット社会という訳だ。インターネット普及前の世界と、普及後の世界の決定的な違いがそこにある。

 本作品はSFだが、人類がインターネットによって獲得したのは利便性だけでなく、自分で考えることを停止した愚かさでもあることを、いみじくも描き出してみせた。ニコラス・ケイジは主演だけでなく、製作にも名を連ねていることから、おそらくその問題意識を持っているに違いない。
 筒井康隆の小説が発表された50年前は、インターネットはまだ普及していなかった。にもかかわらず個人事情が世の中に晒される危機を描いてみせたのは、小説家の天才的な慧眼だと言っていい。