見もの・読みもの日記

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芸術と科学の部屋/ルドルフ2世の驚異の世界(Bunkamura)

2018-02-07 23:16:04 | 読んだもの(書籍)
Bunkamuraザ・ミュージアム 『神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界』(2018年1月6日~3月11日)

 神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世(1552-1612)は、オーストリア大公国ウィーンで誕生。少年時代をスペインで過ごし、24歳で「神聖ローマ帝国皇帝」として即位した。33歳の時、首都をウィーンからプラハに移すと、科学者や芸術家を庇護し、芸術作品、科学機器、動植物や珍奇な自然物などを集め、驚異のプライベートコレクションを築き上げた。彼の名前は、もちろん知っていた。豊かな顎髭のせいでしもぶくれに見える、筒形の黒い帽子をかぶった肖像にも見覚えがあった(たぶんアルチンボルドやブリューゲルの関係)。だが、明確な人物像は頭の中になくて、ぼんやりした興味でこの展覧会を見に行った。

 会場に入るとすぐ、思わぬ作品に出会った。南蛮絵画の名品『泰西王侯騎馬図屏風』である。神戸?サントリー?どっち?と思って確かめたら、神戸市立博物館のほうだった。ああ、こっちのほうが躍動感があって私は好きなのだ。特に左端の人物がよい、と思って解説を読んだら、描かれた四人は「神聖ローマ皇帝ルドルフ2世、トルコ王、モスクワ大公、タタール汗」を表しているという。左端の黒馬にまたがった、細身で長身で、まだ髭の少ない、とがった顎とばら色の頬が若々しい人物のモデルが「ルドルフ2世」だと知って、私は驚愕してしまった。あのねじくれたオヤジ顔の肖像と同一人物!?

 次の部屋には、さっそくそのオヤジ顔の肖像画があった。髭と頭髪には白いものが混じっている。うーむ、人間というのはよく分からんと思い、さっきの騎馬像を反芻しながら眺め入った。それから同時代の美術作品と科学、特に天文学に関する資料の数々。絵画では作者不詳の『バベルの塔』(16世紀後半)やサーフェリーの『村の略奪』(1604年、ブリューゲルに類似)が印象的だった。作者不詳のティコ・ブラーエ(天文学者、1546-1601)の肖像画あり。頭が半分禿げ上がったような不思議な髪型をしている。そして、天文学関係の古書がたくさん出ていて、これはすごい!と思ったが、プラハやヨーロッパから持ってきたものではなくて、千葉市立郷土博物館、東海大学付属図書館、国立天文台などからの借用だった。ガリレオ・ガリレイの望遠鏡(複製)もコスモプラネタリウム渋谷から出陳されていた。

 絵画コレクションに戻ろう。先述のルーラント・サーフェリー(1576/1578-1639)はルドルフ2世のお抱え画家のひとりである。ルドルフ2世が集めた珍しい動物を題材に多くの動物画を描いた。ただの写生ではなく、ノアの箱舟やオルフェウスの神話に仮託している。また、動植物を題材に寓意的な細密画を描いたヨーリス・フーフナーヘルも面白い。私はヤーコブ・フーフナーヘルも好き。アルチンボルドもルドルフ2世に寵愛された画家のひとりで、植物や野菜を組み上げて『ウェルトルムスとしての皇帝ルドルフ2世像』を制作している。決して美形とは言えない肖像画だが、四季を掌握する神ウェルトルムスに擬せられた皇帝はとても喜んだという。余談だが、ルドルフ2世は生涯独身だった。展覧会の公式サイトが皇帝を「ハプスブルク家のスーパー・オタク」呼ばわりしているのはいかがなものか、と思いながら、こういう趣味に徹した人生もいいよなあと憧れる。

 最後にルドルフ2世の宮殿にあった「クンストカンマー(驚異の部屋)」(+動物園)を映像で紹介し、その蒐集品の一部を展示する。宝石、貝殻の杯、からくり時計、アストロラーベ、望遠鏡など。実は、これらは現在スウェーデンのスコークロステル城が所蔵する。ルドルフ2世の死後、ボヘミアは30年戦争の舞台となり、プラハ城のルドルフ2世のコレクションの多くは、1648年のプラハの戦いでスウェーデンに略奪されたのである。なんだか最後に悲しい結末を見てしまった。展示品は金工品や科学機器が多かったが、動植物コレクションはもう残っていないのかな。往時の「クンストカンマー」を偲んで、国内の博物館からイッカクの牙も展示されていた。
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