〇『無間』全40集(騰訊視頻、2023年)
このところハマる中国ドラマがなくて、何話か見ては撤退するものが続いていたので、思い切って今まであまり見たことのないジャンルに手を出してみた。本作は、抗日戦争末期の上海を舞台とする陰謀劇である。
孤児院育ちの陸風(靳東)は、謎の男・閃官によって特工(スパイ)として育成された。日本留学から帰国した陸風は閃官から76号(親日政権の汪兆銘/汪精衛政府と日本軍によって設立された特務工作機関)への潜入を命じられる。さらに閃官は陸風に天皇特使の暗殺を指示。陸風がこれを実行したことで、76号は信用を失墜して瓦解、陸風も追われる身となる。
閃官は独自の特務組織「幽霊機関」を率いて、軍統(軍事委員会調査統計局、国民党の秘密工作組織)副局長の牧渓鶴に奉仕していた。陸風の孤児院時代の幼なじみ・霍飛は幽霊機関の一員となっており、やはり孤児で閃官を義父として育った花向雨に思いを寄せている。しかし花向雨は、日本から帰国の船で知り合った陸風と心を通わせ合っていた。
やがて陸風は共産党員の陳浩民に出会い、自分の父親・苗長天が「火鳳凰計画」(張作霖暗殺計画)に参加しながら、仲間の裏切りによって命を落としたこと、その裏切り者が閃官であることを知る。閃官は日本の間諜だった。次いで閃官は陸風の殺害を霍飛ら配下の者に命じるが、陸風は軍統の牧渓鶴に接近して庇護を受ける。その実、陸風の本心は軍統にはなく、共産党の特工・沈嘯の手引きで入党を申請するとともに、閃官への復讐を誓う。この頃、閃官・牧渓鶴らの注目は「繁星計画」と呼ばれる日本間諜の名簿の存在だった。解読された名簿には、閃官の名前とともに陸風の名前が記載されていた。これが陸風を危機に陥れるための謀略とは知らず、動揺する花向雨。しかし陸風は、まだ自分の真実の生い立ちと信条を花向雨に告げることができない。「私は誰?」「あなたは誰?」に悩む人々。
花向雨もまた、自分の父親を捜していた。その結果、義父と思っていた閃官が実の父親であることを知る。閃官は清朝の遺老で、彼に忠誠を尽くす優秀な特工たちを養成し、日本人を利用し、国民党や共産党を排斥して清朝の復興を夢見ていたのである。
さて、米国政府の使者が中国を訪問し、国民党政府と会談を行うことになった。会談が成功すれば、日本軍には決定的な打撃となる。延安の共産党指導部は、米国代表の安全を確保することを沈嘯・陸風らに指示した。閃官は会談の阻止と陸風の抹殺を特工たちに命じる。陸風は、途中で合流した花向雨とともに米国代表を守り抜き、多くの仲間の犠牲を払いながら、米軍の駐屯基地に送り届けた。これによって日中戦争の帰趨は決まり、閃官は、陸風と花向雨の面前で、かつて清朝皇帝から下賜された毒酒を仰いで自決する。
以上は、かなり省略したあらすじで、ドラマはもっと登場人物が多く、人間関係も複雑に込み入っている。最も複雑な性格付けをされているのが閃官で、張志堅さん無茶苦茶よかった!やっぱりこのひとは腹黒い役が巧い。どんな修羅場に登場するときも、自分では武器を持たず、手勢の者たちに守られながら颯爽と黒い長袍をなびかせて現れる。家族や王朝へのこだわり、自決方法のオールドファッションなところも素晴らしくよかった。
逆の立場になるのが沈嘯。はじめは親日テロ組織76号の所長として登場し、反派(悪役)として死んで終わりかと思ったら、実は代号「青衣」という共産党の高級特工で、陸風を導く役割を担う。演者の奇道さんは、本作の導演・編劇も担当している。渋いおじさんだけどイケメンになり切れない愛嬌があって好き。沈嘯と、小心者の上司・任主任(石文中)の奇妙な連帯意識も面白かった。謀略家の牧渓鶴(王志文)と、ボスの頭脳についていけない左教官(曹磊)も微笑ましく、見ているうちに、じわじわ愛着の湧くキャラが多かった。みんな生き残ってもらいたかったのであるが…。
女性では、はじめ76号の一員で、最後まで陸風と行動をともにする藍冰(啜妮)がよかった。陸風が好きなの?沈所長じゃないの?と思ったが、終盤の回想で、沈嘯は父親代わりだったんだな、と分かった。小柄で子供っぽいところが役に合っていた。ふだん見ないジャンルのドラマを見たことで、新しい俳優さんを知ることができた。対立する勢力間の謀略戦というのは、どの時代を舞台にしても面白いと思うが、日本のドラマには、こういう舞台ってあるのだろうか。
「無間」を試聴したいと思い探していますが
どこの視聴動画サイト(テレビ)でご覧になりましたか?Amazonプライム、みるアジアの2つの会員です。ジン・ドンさんが気になっています!
よろしくお願いします。
抗日戦争を背景にしたドラマは、なかなか日本向け(日本語字幕付き)で公開される機会は少ないですね。おもしろい作品もあるのですけど。