○平岩弓枝『道長の冒険:平安妖異伝』新潮社 2004.6
ついさっき、街のカフェで最後の10ページほどを読み切ったところである。
本書は、2000年に刊行された「王朝妖異伝」(これは短編の連作らしい)の後に続く物語である。前編のことは知らないが、本編に限っていえば、舞台設定が平安京であり、主人公が藤原道長である必然性はほとんどない。その点はかなり期待はずれだった。
京が異常な寒波に襲われたある冬の夜、道長は、根の国の無明王に捕われた友人、真比呂を救出するために、猫の化身、寅麿の導きで、異世界へ旅立つ。雷の兄弟が暮らす天上の国、モグラに案内される地下の国、水龍、火龍、毘沙門天、雪女、梅の精など、善悪さまざまな異世界の住人たちと交流し、ついに目的を果たすというストーリーである。
だから、平安朝の風俗や史実が描かれたところはほとんどない。ところどころ、雅楽の曲名や楽器・衣装が使われているのが、多少の雰囲気づくりになっている程度か。
主人公が若き道長であるという設定もどうか。私は道長って好きなんだけどね。この造型はちょっと...はっきり言えば、作者の描きたい人物に、名前だけ借りてきたという感じがする。
たとえば夢枕獏の、もしくは岡野玲子の「陰陽師」のほうが、作品の出来は数百倍も上。
ひとことでいえば子供だましみたいな小説だ。だが、告白しておこう。私は子供だましに弱い。純真無垢な道長青年と、従者の寅麿が、絶体絶命の危機を脱した大団円に至って、ほの暗いカフェの片隅で、私はうるうる泣いてしまった。まあ、小説を読む愉楽なんて、こんなものかな。
ついさっき、街のカフェで最後の10ページほどを読み切ったところである。
本書は、2000年に刊行された「王朝妖異伝」(これは短編の連作らしい)の後に続く物語である。前編のことは知らないが、本編に限っていえば、舞台設定が平安京であり、主人公が藤原道長である必然性はほとんどない。その点はかなり期待はずれだった。
京が異常な寒波に襲われたある冬の夜、道長は、根の国の無明王に捕われた友人、真比呂を救出するために、猫の化身、寅麿の導きで、異世界へ旅立つ。雷の兄弟が暮らす天上の国、モグラに案内される地下の国、水龍、火龍、毘沙門天、雪女、梅の精など、善悪さまざまな異世界の住人たちと交流し、ついに目的を果たすというストーリーである。
だから、平安朝の風俗や史実が描かれたところはほとんどない。ところどころ、雅楽の曲名や楽器・衣装が使われているのが、多少の雰囲気づくりになっている程度か。
主人公が若き道長であるという設定もどうか。私は道長って好きなんだけどね。この造型はちょっと...はっきり言えば、作者の描きたい人物に、名前だけ借りてきたという感じがする。
たとえば夢枕獏の、もしくは岡野玲子の「陰陽師」のほうが、作品の出来は数百倍も上。
ひとことでいえば子供だましみたいな小説だ。だが、告白しておこう。私は子供だましに弱い。純真無垢な道長青年と、従者の寅麿が、絶体絶命の危機を脱した大団円に至って、ほの暗いカフェの片隅で、私はうるうる泣いてしまった。まあ、小説を読む愉楽なんて、こんなものかな。