滋賀県長浜市北部の高月地域で行われる「観音の里ふるさとまつり」(10月15日)に行ってきた。以前の記録を探ったら、2010年に参加していた。当時は8月の開催だったのだな。前回は(若かったので)巡回バスを利用したが、今回は周遊バスツアーで楽をすることにした。Bコースは「長浜450年祭特別コース~戦火を乗り越えた仏さま~」で、私と友人は最後列の座席に着席した。定刻の9:30に出発。ガイドは、お年を召されたおじいちゃんだったが、写真撮影の可否確認とか、拝観ツアーの勘どころをよく分かっていて、安心できた。
■浄光寺(高月町落川)
素木のお厨子、錦の垂れ幕に半ば隠れるようにして、小さな十一面観音さまがいらっしゃる。お顔は人肌のような胡粉の彩色で、眉・目・髭を描き、唇も赤く塗ってある。なんとも親しみやすいお姿。
■高月観音堂(大円寺)(高月町高月)
十一面千手観音。戦乱の昔に兵火からのがれて岩上に立たれたとされ、火災から村人を守る「火除けの観音さま」として信仰されている。お厨子の前に黒漆塗の大きな前卓が置かれており、案内の方が「右から見るお顔、左から見るお顔、正面のお顔、そして机の表面に映るお顔、どれも印象が違います」と嬉しそうに解説してくれた。このおまつり、どのお寺・お堂を訪ねても、住民の方々が、我が集落の観音さまを誇らしげに紹介してくれるのが好き。
■渡岸寺観音堂(向源寺)(高月町渡岸寺)、高月観音の里歴史民俗資料館
渡岸寺観音堂は、周遊バスツアーとは別料金になっていたが、高月まで来てここの観音さまに会わずに帰るわけにはいかないので、もちろん拝観を申し込む。何もかも完璧すぎる十一面観音で、しばし時間を忘れてしまう。歴史民俗資料館は駆け足で参観。渡岸寺の門前は、門前市で賑わっていた。
■安楽寺釈迦堂(尾山釈迦堂)(高月町尾山)
己高山のふもと、白山神社の鳥居をくぐった先のお堂(収蔵庫)に大日如来と釈迦如来を安置する。半丈六といわれる大きな坐像。今回訪ねたお寺は、ほぼ全て神社と隣り合わせで、神仏習合の信仰のかたちが色濃く感じられた。また「観音の里」のイメージが強い高月だが、観音以外の古仏の存在を知ることができたのもよかった。
■福島屋(西浅井町大浦)
けっこう長くバスに乗り、賤ケ岳の下のトンネルを抜け、琵琶湖の最北端を通って、大浦地区にあるこちらのお店で昼食。味にも量にも大満足。普通のランチもやっているようなので、いつかまた来てみたいけど、車でないと無理だろうなあ。奥琵琶湖に来たのは初めてで、車窓の風景も珍しかった。
昼食後、琵琶湖岸を散策していたら、急な雨に降られてしまったが、傘を携帯していたので事なきを得る。天候の変わりやすさは日本海側の雰囲気。
■黒山石仏群(西浅井町黒山)
東光院というお寺の境内に、いつの頃からか、多くの石塔・石仏が集められており「黒山石仏群」と呼ばれている。整然と並んだ石仏には赤い前掛けが掛けられていて、守り伝える集落の人たちの優しさを感じた。
また、これとは別に、少し離れたところの道端には「二体地蔵磨崖仏」と呼ばれる岩(高さ1mくらい)が残されている。いつ、誰が作ったものかは全く分かっていない、とガイドさんはおっしゃっていたけれど、ネットで調べたら「嘉元二年」(1304)の銘が彫られているそうだ。
■安念寺(木之本町黒田)
「いも観音」と呼ばれる破損・老朽化した仏さまを私が初めて拝見したのは、2012年の長浜城歴史博物館の展示らしい。それから何度も、芸大美術館でも東京長浜観音堂でも拝見しているのだが、ついに初めて現地を訪ねることができて感無量だった。観音堂は、けっこう長い石段を登った山の中腹にあり、2020年に住民有志によるクラウドファンディング(私は終わってから知った)を実施して、修復したものである。あらためて当時の新聞記事を読んだら、未指定文化財のため補助金の対象外で、修理費(約150万円)は10戸の村人がすべて負担しなければならなかったそうだ。仏像ファンの間では、こんなに有名で、愛されている文化財なのに、10戸で守っていかなければならないのはつらいなあ。
いも観音さんを浮かべたという余呉川は少し離れたところにあって、次のお寺に向かう途中に川岸を通った。春は桜並木が見事だという。
■大澤寺(木之本町黒田大沢)
本尊は十一面千手観音だが、脇手も合掌手も身体も比べて異様に細く短くて、不思議なバランスである。しかし豪華な光背と宝冠が逆に目立つので、全体としては美しい。半円形の眉、豊かな頬と顎の肉づきが平安美人の印象である。
■赤後寺(高月町唐川)
のどかな家並みを抜けて、山を背後にしたお堂を見上げたとき、ああ、ここには来たことがある!という記憶がはっきりよみがえった。黒一色のお厨子には、向かって左に千手観音立像、右に菩薩立像と呼ばれる2体の仏さまが並んでいる。どちらも重量感にあふれた、飾り気のないお姿。特に千手観音立像は、わずか10本ほどの腕しか残っておらず、その全てが手首から先を失った状態なのに、痛々しさよりも、この世のものならぬ迫力を感じる。けれど住民たちは、こんな状態を余所の人々に見せては仏さまが可哀想だと思って、昭和40年代まで秘仏にしてきたのだという。その心根も尊いと思う。
■西野薬師堂・正妙寺(高月町西野)
西野薬師堂も下り立った瞬間、ああ、来たことがある、と感じた。ちなみに2010年の記事には「西野薬師観音堂」の名前で記している。古風で静謐な十一面観音と薬師如来、その左右にちょっと個性的な十二神将2体を安置する。
境内にはもう1つお堂があって、もとは西野集落の北、山の中腹に祀られていた正妙寺の千手千足観音像が、2017年1月から安置されている。立派なお堂(以前のお堂に比べれば十分広い)に移ることができてよかったねえ。
■冷水寺(高月町宇根)
わりと最近(2023年2月)、東京長浜観音堂で冷水寺の観音さまを拝見したので、あの観音さまに会えると思っていたら、小さなお堂にいらしたのは、記憶と違うお姿だった。お祀りされているのは、厳しめの表情をした黒いお姿の十一面観音坐像。東京で出開帳された鞘仏(内部に旧本尊を収める)とは異なる仏さまである。出開帳の際に、いろいろ調べて存在を知った「冷水寺胎内仏資料館」も参観することができて嬉しかった。「5、6人しか入れないので、みなさん交代で」と案内されるような小さな資料館。参道では、お茶とお菓子のふるまいをいただいた。ありがとうございました。
そして高月駅に戻り、予定の16:10より少し早めの解散。駅前の露店がもう終わっていたのが残念だったが、ご朱印も久々にたくさんいただけて、充実した1日だった。