見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

花木とともに/花器のある風景(泉屋博古館東京)

2025-02-20 21:10:10 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館東京 企画展『花器のある風景』(2025年1月25日~3月16日)

 住友コレクションから花器と、花器が描かれた絵画を紹介し、同時開催として、 華道家・大郷理明氏より寄贈された花器コレクションも展示する。ちょっと珍しい視点の展覧会だけど、果たして楽しめるかな?と半信半疑で出かけた。

 第1展示室には、江戸~近代の花器が描かれた絵画を展示。村田香谷『花卉・文房花果図巻』には、中国の文人好みのさまざまなうつわ(磁器や古銅や竹籠、ガラスの器も)に彩り豊かな花と果物を自由に盛り付けた姿が続々と並び、豊かで満たされた気持ちになる。藪長水『玉堂富貴図』、原在中・在明『春花図』など、展示作品は中国趣味多めで、必然的に牡丹が多めなのは、大阪の大商人・住友コレクションの特色なのかな。たとえば江戸の庶民には、牡丹ってどのくらい身近な花だったんだろうか?

 竹内栖鳳・神坂雪佳の共作『曼荼羅華に籠』は、質素な蔓籠に白いチョウセンアサガオが一輪載っていて、和風な趣きを感じた。椿椿山の『玉堂富貴図』は大好きな作品。元来、玉蘭(白木蓮)・海棠・牡丹の組み合わせを描く中国趣味の画題だが、藤など独自の花を加え、淡彩でまとめた清新な画風は独自の境地を感じさせる。そのほか、確かによく見ると画面の隅に花器が描れている作品が挙がっていて、よく見つけたなあと苦笑してしまった。

 第2展示室には、茶の湯の花器を展示。青磁、古銅、竹の一世切などがストイックに並ぶ。しかしこれらは本来「花入」なんだよなあ…と思い返して、花を生けた状態を頭の中で想像してみる。青磁や古銅の花入には、やっぱり牡丹、あるいは椿、サザンカなど、大ぶりで色鮮やかな花を盛り盛りに飾り付けてみたい。舟形の釣花入には、朝顔や桔梗が似合いそう。中には鶴のように首が細かったり、口が狭かったり、何をどう生ければいいのか悩む花器もあった。

 第3展示室は「大郷理明受贈コレクション」の花器。19世紀後半~20世紀に制作された金属製(青銅、朱銅、白銅などの種類がある)の花器60件ほどが並んでいて壮観だった。実際に使われた状態の写真ネルが6~7件掲示されていて、それを見ると花器の3倍から5倍くらいある高さの花木を生けている。松とか梅とか、自立する強さを持った植物が多い。そして、植物を固定している水盤は驚くほど浅いのだ。生け花って、極限的に人工的な芸術なんだなあと実感した。

 私は雑に投げ入れたような花と花器のほうが安心する。梅原龍三郎の『餅花手瓶薔薇図』『壺薔薇』は、どちらも東アジアふうの磁器の花瓶に、西洋の花である薔薇を山盛りに投げ込んだ感じ。こういう自然な雰囲気のほうが好みである。

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珠玉のコレクション再び/少女たち(三鷹市美術ギャラリー)

2025-02-06 22:46:04 | 行ったもの(美術館・見仏)

三鷹市美術ギャラリー 『発掘された珠玉の名品 少女たち-夢と希望・そのはざまで- 星野画廊コレクションより』(2024年 12月14日~2025年 3月2日)

 京都・岡崎の神宮道の「星野画廊」は、画家の名前にとらわれず、埋もれていた優品を数多く発掘してきた老舗画廊。本展は、そのコレクションから、さまざまな年代や境遇の女性を描いた作品を紹介する。2023年夏に京都文化博物館で見た展覧会と同じタイトルを冠しているが、規模はややコンパクトで、完全な巡回展というわけではないらしい。

 京都文化博物館の展覧会は、正直、人も多く出展数も多くて疲れてしまった記憶があり、今回のほうが気持ちよく参観することができた。私が好きなのは笠木治郎吉の作品。『下校の子供たち』は、歴博の企画展示『学びの歴史像』で出会ったことが忘れられない。2019年の歴博の展示では作者名も明示されていなかったように思うが、近年、画家について、ずいぶんいろいろなことが分かってきたようだ。同じく明治後期に活躍した「作者不詳(Tani)」氏のことも、いつか分かるようにならないかな。『客を迎える少女』『覗き見する少女』など、ひめやかな好奇心の覗く眼差しが魅力的である。

 北野恒富、島成園などの有名画家の作品も実は混じっている。岡本神草の『拳の舞妓』(両手を広げ、正面を向いた舞妓のアップ)も出ていた。神草の『拳を打てる三人の舞妓の習作』の原状を復元したのも星野画廊さんなのだな。甲斐荘楠音は『畜生塚の女』もいいが、着物姿の女性がグラスのストローをもてあそんでいる『サイダーを飲む女』も好き。玉村方久斗は日本画における前衛を追求した画家だそうで、素朴絵みたいな『貴人虫追い図』『竹取物語』がおもしろかった。

 星野画廊、いつか京都で時間のあるときに立ち寄ってみたい。笠木治郎吉のゆかりだという、かさぎ画廊(鎌倉と横須賀)も行ってみたいな。

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2025年1月展覧会拾遺

2025-02-03 23:51:27 | 行ったもの(美術館・見仏)

台東区立書道博物館 東京国立博物館・台東区立書道博物館連携企画『拓本のたのしみ-王羲之と欧陽詢-』(2025年1月4日~3月16日)

 この年末年始は、三井記念美術館の『唐(から)ごのみ』展で弾みがついて、東博→書道博物館と拓本を眺めてまわった。本展は、石碑が亡失した天下の孤本、王羲之や唐の四大家ら歴代名筆の拓本、そして拓本に魅せらせた明清文人の高雅な世界など、拓本の持つ魅力とたのしみ方をさまざまな視点から紹介する。王羲之については、京博の上野本『十七帖』や五島美術館(宇野雪村コレクション)の『宣和内府旧蔵蘭亭序』も来ていて眼福だった。展示解説の端々に、歴史上の有名な書家をマンガふうに表現したキャラクターが使われていて、かわいい。アクスタにしてくれないかなあ…。

日本民藝館 特別展『仏教美学 柳宗悦が見届けたもの』(2025年1月12日~3月20日)

 仏教美学に関わる資料展示と、柳宗悦が直観で見届けた具体的な作物の提示によって、柳が悲願とした「仏教美学」を顕彰する。入館して、大階段下の展示ケースに近づいて、あれ?と思った。いつも展示品に添えられている、黒い札に朱書きの、同館独特のキャプション札がないのである。以前、あの文字を書ける人は限られているので、いつまで続けられるか、みたいな記事を読んだことがあったので慌てた。実は、今回の特別展に関しては、おそらく直観を大事にするために、あらゆるキャプションを意図的に外したようである(併設展の展示は、いつものキャプションつきだった)。

 地域も時代も異なる作品が醸し出す美のハーモニーには心が洗われたように思った。しかし、やっぱり私は直観では生きられない人間なので、大展示室前に用意されていた細かい文字のリストを手に取って、気になる作品の地域や時代をチェックした。写真は唐代の女子俑に台湾パイワン族の首飾り。ほかに記憶に留めたいのは、動物の造型の中にあった『猫型蚊やり爐』(瀬戸、19世紀)。玄関ホールの壁に掛かっていたデカい拓本『水牛山般若経摩崖』(南北朝時代)は、肥痩のあまりない、素朴な文字を好ましく感じた。

根津美術館 企画展『古筆切 分かち合う名筆の美』(2024年12月21日~2025年2月9日)

 根津美術館の古筆展、はじめから行くつもりで、全く説明を読んでいなかったのだが、あらためて開催趣旨を眺めたら「本展では、当館の所蔵に新たに加わった重要文化財『高野切』を含む、平安から鎌倉時代にかけて書かれた、館蔵の古筆切を中心に展示します」とある。えっ?現代でも高野切が新たにコレクションに加わるなんてことが起きるのか?! 新収の高野切は、古今和歌集巻第19の旋頭歌4首が書かれた1幅で、第三種の書風。「軽快でのびやかな筆線」と評されている。高野切は第一種が至高と言われるけれど、私は第三種もかなり好きだ。

 『源氏物語奥入断簡』にも目が留まった。『源氏物語奥入(げんじものがたりおくいり)』は藤原定家による『源氏物語』の注釈書。2022年には新出の断簡が発見され、2023年に五島美術館で展示されたが、今回展示の断簡は、すでに知られていたものらしい。「いにしへのしずのをだまきくりかへし」という、伊勢物語所収の和歌が記されていた。

 なお、古筆について私の推しは、やや癖の強い藤原定信(石山切・貫之集)とバランスのとれた藤原教長(今城切)である。

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道教の神様たち/博物館に初もうで+常設展(東京国立博物館)

2025-01-31 23:13:38 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 特集『博物館に初もうで-ヘビ~なパワ~を巳(み)たいの蛇(じゃ)!-』(2025年1月2日~1月26日)

 1月も最終日となってしまったが、新年の東博初参観の記事をまだ書いていなかったので書いておく。今年は京博の『巳づくし』展が先になって、そのあと、東博を見に行った。

 干支の特集展示は、ナーガ上のブッダ坐像(タイ)とかパイワン族の祖霊像(台湾)とか、日本以外の造形が目についた。つまみが蛇になっている『金印 漢委奴国王』も出ていて、ホンモノ?!と思ったら、さすがに模造だった。「ヘビは中国の後漢から見た南方の異民族を示しました」という解説には納得。

 関東では弁財天といえば江ノ島だが、北条時政が子孫繁栄を願って江ノ島の岩屋に参籠すると、弁財天が現れ、時政の願いを叶えることを約束して、大蛇となって海に消えたと言われている。北条氏の三つ鱗文の由来でもあるのだが、長い目で見ると、この願い、叶ったような叶わなかったような…。

 私がいちばん目を奪われたのは『天帝図』(元~明時代)である。中央には道教の神様である玄天上帝。足元に玄武(絡み合った亀と蛇)を描くのがお約束。背後には、北斗星の旗と剣を持った二人の従者が控える。前方には、関元帥(関羽、赤面)、黒衣の趙元帥(趙公明、黒面、黒虎に跨り金鞭を持つ)、馬元帥(馬霊耀、白面、華光大帝→黄檗宗では華光菩薩)、温元帥(温瓊、青面、温太保とも)の四元帥が従う。狩野探幽、徳川吉宗の蔵を経て、霊雲寺に伝わったという。「霊雲寺」という文字を見て、2023年の『中国書画精華』で見たことを思い出した。全体画像は当時の「1089ブログ」に掲載されているので、私の好きな部分を挙げると、まずはこの、応援団の団旗みたいにデカくて黒い北斗七星の旗。

趙元帥の足元にうずくまるのは黒虎(黒豹?)。ウナギイヌみたいでかわいい。

 道教の神様は設定が細かいので、調べれば調べるほど面白い。

 もうひとつ、楽しかった特集は『拓本のたのしみ-明清文人の世界-』(2025年1月2日~2025年3月16日)。碑拓法帖と明清時代の文人による関連資料を展示し、書の拓本に魅せられた明清文人の世界を紹介する。台東区立書道博物館との連携企画を名打っていたが、三井記念美術館『唐(から)ごのみ』と共通・関連する作品も多かった。

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あれもこれも盛りだくさん/HAPPYな日本美術(山種美術館)

2025-01-30 22:16:59 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展『HAPPYな日本美術-伊藤若冲から横山大観、川端龍子へ-』(2024年12月14日~2025年2月24日)

 山種美術館の新春企画は、いつもお正月らしい華やかな気分を味わうことができるので、毎年、楽しみにしている。今年は、長寿や子宝、富や繁栄など、人々の願いが込められた美術に焦点をあて、現代の私たちにとってもラッキーモティーフといえる作品を紹介する。

 冒頭は横山大観の『天長地久』(だったかな)。斜面に点々を連なる松林。大観の松はすぐに分かる。三人の画家が松竹梅を競作したセットが2件出ていたが、どちらも大観は松を描いていた。竹内栖鳳の「梅」が私の好み。春の大地が、茶色から若草色に変わりゆくところが、和菓子の色合いのようで美しかった。干支の巳を描いた小品もいくつかあったが、奥村土牛が描くとヘビもりりしく愛らしくなる。

 めでたい「生きもの」のセクションには鶴が多数。すらりとした立ち姿は美しく、饅頭みたいにまるまった姿(古径『鶴』)も可愛い。若冲の墨画『鶏図』(個人蔵)が何食わぬ顔で混じっていたのには笑ってしまった。鳥たちに囲まれて、なぜか『埴輪 猪を抱える猟師』(古墳時代)と、木製の『迦陵頻伽像』(室町時代)が展示されていた。どちらも個人蔵。

 三角帽子をかぶった『猪を抱える猟師』は、右目と左目がアンバランスで、口もひん曲がっており、不思議な表情をしている。しかし鼻筋が通っていて横顔はイケメン。ビートたけしに似ているなあと思いながら、この埴輪は見たことがあると思い出した。記録を調べたら、2019年の『日本の素朴絵』展に出ていたもので、のちに『芸術新潮』上で「古墳時代のビートたけし」と呼ばれている。

 『迦陵頻伽像』は、細見美術館の『末法』展などで見たものだと思う。キャプションに「にこやかでやさしい表情」とあったが、私はこの微笑みが逆に恐ろしいのだが…。覚園寺の日光菩薩の光背に付いていた可能性があるという。鎌倉の覚園寺、そんなに大きな仏像があったんだっけ。久しぶりに行ってみたくなった。

 川端龍子は、象のインディラ来日に触発された『百子図』、わんこにしか見えない獅子と牡丹を描いた『華曲』など大作も展示されていたが、『鯉』2幅が恐ろしくよかった。左に黒い真鯉2匹と緋鯉1匹、右に真鯉2匹がたゆたっている。初めて名前を聞いた新井洞巌(1866-1948)の『蓬莱仙境図』も気に入った。山の緑がきれい。最後の南画家と呼ばれているそうだ。

 富士図は、青を基調とした土牛の『山中湖富士』と小松均の『赤富士図』がきれいだった。司馬江漢の『駒場路上より富嶽を臨む図』(個人蔵)というオマケつき。10人ほどの人々がぎゅうぎゅうに寄り集まって富士を遠望する図。マンガみたいな筆致である。

 下村観山の『寿老』は、雪舟作品を思わせる妖しさ。鹿が頭を撫ぜられてなついている。品のいい大黒天の絵があると思ったら、『オタケ・インパクト』の尾竹竹坡の作品だった。

 第2展示室には、生まれたばかりの仔牛を描いた山口華楊の『生』が出ていたが、この作品はこういう狭くて薄暗い空間のほうが合っているように思った。若冲の『伏見人形図』には口元がゆるむが、『蛸図』(個人蔵)はぞわぞわして不思議な作品。めずらしい個人蔵作品をたくさん見ることができてお得感もあり、楽しかった。

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2025年1月関西旅行:中国陶磁・至宝の競艶(大阪市立東洋陶磁美術館)

2025-01-22 21:17:54 | 行ったもの(美術館・見仏)

大阪市立東洋陶磁美術館 大阪市・上海市友好都市提携50周年記念特別展『中国陶磁・至宝の競艶-上海博物館×大阪市立東洋陶磁美術館』(2024年10月19日~2025年3月30日)

 2024年が大阪市と上海市の友好都市提携50周年にあたることを記念する特別展。同館のホームぺージには「本展の主な見どころ」4点が掲載されている。

 第一に、出品作品50件のうち、海外初公開作品19件を含む日本初公開作品22件が含まれており、さらに最高級ランクの「国家一級文物」10件が含まれていること。展示構成としては、第1室「至宝精華」に上海博物館所蔵の12件が展示されており、このうち一級文物が6件だった。元時代の『青花牡丹唐草文梅瓶』とか、展覧会のメインビジュアルにもなっている『緑地粉彩八吉祥文瓶』(清時代・乾隆)とか、黒の濃淡のみで絵付けした『琺瑯彩墨竹茶碗』(清時代・雍正)とか、目を奪われる名品揃いの中で、私が惹かれたのは『釉裏紅四季花卉文瓜形壺』(明時代・洪武)。私はこれまで「釉裏紅」という技法をいいと思ったことが一度もなかったのだが、初めてその魅力が分かったように思った。

 見どころの第二は、清朝宮廷御用磁器の希少なアップルグリーン色の作品が日本で初出品されていること。全く事前情報を仕入れていなかったので、展示室で『蘋果緑釉印盒』(清時代・康煕)を見たときは呆然とした。手のひらに収まるくらいの小さなやきものだが、人間が造ったものとは思えない、絶妙の味わいがある。

 上海博物館の所蔵品は第1室以外にも展示されている。上海博物館には、これまで“空白期”と呼ばれていた明時代・15世紀の正統・景泰・天順の三代(1436-1464)の景徳鎮磁器の優品が多数所蔵されており、第7室「至宝再興」には、近年の研究と再評価によって注目されているこの“空白期”の作品14件を展示する。これが見どころの第三。『青花玉取獅子文盤』(明時代・正統~天順)は、飛び跳ねまわるような獅子のトボけた表情がかわいい。

 さらに「至宝競艶」と題した3つの部屋で、上海博物館と大阪市立東洋陶磁美術館コレクションの比較・共演を楽しめるのが、見どころの第四。しかし、超一級の上海博物館の優品に対して、ひけをとらない東洋陶磁美術館コレクション、やっぱりすごい。大阪の、いや日本の宝だとしみじみ思った。

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2025年1月関西旅行:大シルクロード展(京都文化博物館)

2025-01-21 22:50:32 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都文化博物館 特別展・日中平和友好条約45周年記念『世界遺産 大シルクロード展』(2024年11月23日〜2025年2月2日)

 一年ほど前、東京富士美術館でやっているなあと思ったが、我が家から八王子は遠くて行き逃してしまった。そうしたら、ちょうど京都に巡回しているというので見て来た。洛陽、西安、蘭州、敦煌、新疆地域などで発見されたシルクロードの遺宝約200点が来日しており、「世界遺産認定後、中国国外で初めて行われる大規模展覧会」という触れ込みである。世界遺産登録っていつ?と思って調べたら、2014年に「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網」の名称で登録されていた。

 私は1980年代のシルクロードブームを記憶しているけれど、当時はあまり関心がなかった。90年代には、年1回の中国ツア-旅行を繰り返して、新疆地域にも河西回廊にも行った。本展は文物のほかに、遺跡や景勝地の大きな写真パネルが掲示されていて、ベゼクリク石窟!高昌故城!天水の麦積山!!など、懐かしさで息が荒くなってしまった。

 展示品は基本的に撮影自由。本展のメインビジュアルになっていたのが、この『瑪瑙象嵌杯』(5-7世紀)。1997年に新疆ウイグル自治区イリ州の古墓から出土したものだという。

 マニ教の僧侶に送られた年賀の手紙(11世紀初め)。縦書きで左から右へ読むソグド文字で書かれている。受取人への敬意を示すために極彩色の絵を添える。マニ教とかソグド文字と聞いてわくわくするようになったのは、比較的最近のこと。

 『草花文綴織靴』(1-5世紀)。1995年に新疆ウイグル自治区ニヤ遺跡の墓地から出土。女性被葬者が履いていたというくるぶし丈の愛らしいブーツ。一目見て、これは見たことがある!と確信したのだが、どこで見たのか思い出せない。2005年の江戸博『新シルクロード展』があやしいのだが、残念ながら自分の参観記録には記述がなかった。

 『献馬図』。唐太宗の葦貴妃墓出土。これも見たことある!と興奮したもの。2005年の江戸博『新シルクロード展』のサイトが残っていて「世界初公開」の文字とともに画像が掲載されていた。まあ私は、所蔵元の昭陵博物館にも行っているので、現地で見ているかもしれない。

 武威市雷台墓出土の『車馬儀仗隊』の一部や、敦煌壁画『反弾琵琶図』の模写も懐かしかった。一方、もちろん初めて見る出土品も多数あった。2000年以降にも貴重な文物が出土し続けていることには、単純に感歎する。

 『連珠対鹿文錦帽子』(7-9世紀)は、このところ中国ドラマで宋代の「帽妖案」に接していたので目に留まった。

 あと、洛陽の白居易故居遺跡から出土した石硯(円形)というのがあって、しみじみ眺めてしまった。

 展示会場の出口に巨大なラクダの剥製が展示されていた(東京富士美術館所蔵)。1985年に開催された『中国敦煌展』を記念し、敦煌研究院の段文傑院長から池田大作氏に贈られたもので、常書鴻氏が「金峰」「銀岳」と名づけたのだそうだ。40年を経ても大事に保存されていてよかったね。

 また、本展の文物は、中国国内27か所の博物館から集められたもので、その写真付き紹介パネルもあった。いやあ、知らない博物館がたくさん誕生しているんだなあ…行ってみたい。

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2025年1月関西旅行:抱一に捧ぐ(細見美術館)他+後日談

2025-01-20 22:16:25 | 行ったもの(美術館・見仏)

細見美術館 琳派展24『抱一に捧ぐ-花ひらく〈雨華庵(うげあん)〉の絵師たち-』(2024年12月7日~2025年2月2日)

 1泊2日の新春関西旅行、日本美術関係の見たものをまとめておく。2日目は大阪で少し遊んだあと、京都で細見美術館に寄った。

 江戸琳派を確立した酒井抱一(1761-1828)は、文化 6年(1809)、身請けした吉原の遊女とともに下谷根岸の百姓家に移り住む。同所はのちに「雨華庵」と呼ばれ、晩年の作画の場、弟子たちを指導する画塾となり、抱一没後は門下の絵師たちに継承された。本展は「雨華庵」ゆかりの絵師たちを多角的に蒐集した「うげやんコレクション」の協力を得て、江戸琳派の作品を展覧する。

 酒井抱一、作品はよく知っているけれど、これまで閲歴にはあまり興味がなかったので、姫路藩主の孫として生まれ、37歳で出家、50歳を目前に吉原の遊女を身請けするなど、なかなかドラマチックな人生だなとあらためて思った。抱一の没後、「雨華庵」を継いだのは、養子の鶯蒲、鶯一、道一、抱祝。彼らの作品は、いかにも江戸琳派らしい、さわやかな美学を受け継いでいる。この中では、私は比較的、抱祝の作品をよく見ているけど、抱祝の没年が1956年と聞くと、環境や趣味の激変の中で、抱一の後継者が途絶えてしまったのもやむを得ないかと思う。

楽美術館 新春展『様相の美 文様の美』(2025年1月7日〜4月20日)

 続いて楽美術館に寄った。今回は、樂焼では珍しく、文様に焦点をあてた展覧会。確かに楽焼というと無地または自然な釉薬の流れを愛でるものが多いように思うが、意図的な文様を施したものもいくつかある。二代・常慶の『赤樂菊文茶碗』が、初めて楽茶碗に文様が入った例として紹介されており、その後も文様入りは赤楽茶碗が多い印象だった。十六代(当代)吉左衞門の『富士之絵赤樂茶碗』は、赤楽茶碗に黒い影が入っていて、釉裏紅を思わせた。

 この日は、久しぶりに晴明神社にも立ち寄って、羽生結弦くんのアイスショーの成功祈願をして帰京した。

 さて、その翌日(成人の日)、東博と書道博物館を訪ねるついでに、根岸の「雨華庵」跡に立ち寄ってみたくなった。ネットで検索すると「根岸5-11-36」という番地が出てくる。書道博物館から徒歩15分程度の距離があるが、ぶらぶら歩いていくことにした。ネットには、書道用品販売の精華堂の建物の写真が載っている記事もあるが、行ってみると、ふつうのマンションになっていた。精華堂さんは2012年に破産し、社屋も取り壊されたらしい。

 今はもう、何も痕跡はないのだろうか、と思ったら、隣りの歯医者さん(根岸5-11-35)のブロック塀の前に「酒井抱一住居跡」(2015年2月、台東区教育委員会)の説明板が立っていた。

 地図を見ると、南東にちょっと下れば吉原である。このあたり、抱一の時代にはどんな環境だったのか、調べながら歩いてみたい。

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2025年1月関西旅行:巳づくしなど(京都国立博物館)

2025-01-19 21:49:02 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 名品ギャラリー(1階)

 先週末に書いていた名品ギャラリー(3~2階)レポートの続きである。

・『京都の仏像・神像』(2025年1月2日~3月23日)

 1階の大展示室(彫刻)、階段下には愛宕念仏寺の金剛力士立像がお出まし。中央の展示台には安祥寺の五智如来坐像が戻った。展示ケースに唐風装束の凛とした小さな女神様がいらっしゃると思ったら、高山寺の善妙神立像だった。同じく高山寺の白光神立像も白一色のお姿に赤い唇が印象的な美貌。また、膝の上に横たわる幼児(童神)を抱いた女神坐像は市比賣神社のもので、2階の特集『日本の女性画家』とあわせて、女性的なものへの注目を感じた。

・新春特集展示『巳づくし-干支を愛でる-』(2025年1月2日~2月2日)

 新春恒例の干支特集。縄文時代の土器、根付、鱗文の能装束、十二神将の巳神像など。東福寺の明兆筆『五百羅漢図』から、大蛇の口の中で座禅を組む羅漢の図が出ていたのが面白かった。

・『墨蹟-禅僧の書』(2025年1月2日~2月9日)

 正月から地味な特集を組むなあと思ったけど、嫌いじゃない。寺院で所蔵しているものが多いので、やっぱり京都ならではの特集だと思う、

・特別公開『名刀再臨-時代を超える優品たち-』+特集展示『新時代の山城鍛冶-三品派と堀川派-』(2025年1月2日~ 3月23日)

 重要文化財の刀剣3口の寄贈と寄託を受けたことを記念する特別公開。刀剣は1口ずつ公開されることになっており、1月2日~26日は『太刀(銘・国安)』の展示だった。国安(くにやす)は鎌倉時代に栄えた京の刀工集団・粟田口派の一人。1942年、旧国宝(重文)に指定された後、所在不明だったが、現在の所有者から申し出があり、80年ぶりに発見されたものだという。

 同時開催の特集展示では、新刀期(慶長年間以降)の山城(京)鍛冶の双璧をなす三品派と堀川派の名品を紹介する。私は刀剣の魅力はよく分からないのだが、坂本龍馬所用の刀(銘・吉行、子孫の坂本家に伝わったが釧路火災で鞘などを焼失)など、歴史的な由来のあるものは面白かった。

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2025年1月関西旅行:名品ギャラリー3~2階(京都国立博物館)

2025-01-14 23:11:31 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 名品ギャラリー(3~2階)

 初春三連休の関西旅行はまず京博から。私は常設展モードの京博が大好きなので、今月は各室をじっくり紹介する。

・『京焼における仁清-御室仁清窯跡出土陶片の胎土分析からみる製陶技術-』(2025年1月2日~3月16日)

 凝ったかたち、華やかな色彩のやきものが並ぶ、お正月らしい展示室。蓮の花に蓮の葉を被せたような『色絵蓮華香炉』は、「蓮の寺」法金剛院の所蔵だと知って納得してしまった。仁清といえば色絵だと思っていたが、実はシンプルな轆轤成形の美しさも見どころ。また、仁清窯址からは、さまざまな「写し」のた陶片が出土している。ホンモノの志野と仁清の志野写し、ホンモノの信楽と仁清の信楽写しを見比べて、その技術の確かさに感銘を受けた。

・『日本の須恵器と韓国の陶質土器』(2025年1月2日~3月16日)

 日本の古墳時代を代表するやきもの「須恵器」と、朝鮮半島古代の新羅で製作された陶質土器を展示し、その親縁関係を示す。「提瓶」と呼ばれる形の須恵器は初めて見た。扁平な丸型の水筒なのだ。また、革袋をつぶしたような「革袋形提瓶」もあった。日本の古代については、まだまだ知らないことが多い。

・『神々の伝説-八幡・厳島-』(2025年1月2日~ 2月9日)

 豪華な『八幡宮縁起』2巻のうち1巻と、野趣あふれる『厳島縁起絵巻』2巻を展示。面白かったのは後者。天竺の足引宮は善哉王の寵愛を受け、身籠っていたが、嫉妬深い后妃たちの企みで、山中で斬首される。しかし王子は動物たちに助けられて成長し、母の頭蓋骨を探し当てて、母を蘇生させる。善哉王と足引宮と王子は、足引宮の故郷に身を寄せるが、善哉王は足引宮の妹に気を移してしまう(ええ~)。足引宮と王子は、流浪の果てに安芸国に至り、祀られる。この摩訶不思議な物語が、迷いのない素朴な線と、赤と緑とわずかな黄色で表現されている。こういう絶対に教科書に載らない物語のおもしろさが、もっと知れ渡ったらいいのに、と思う。

・『十二天屏風の世界』(2025年1月2日~2月9日)

 滋賀・聖衆来迎寺の『十二天屏風』(12幀のうち6幀)、京都・雲龍院の『十二天屏風』、京都・高山寺の『十二天屏風』(6曲1隻)を展示。特に聖衆来迎寺の十二天は、衣の文様の描き込みが精緻で華やか。くるりと輪になった蛇を持つ水天像と、人頭幢(人頭のついた短い杖)を持つ焔摩天像が特に美麗。

・『松竹梅の美術』(2025年1月2日~2月9日)

・『日本の女性画家』(2025年1月2日~2月9日)

 近世~幕末明治の女性画家の作品を展示。徳山玉瀾は池大雅の妻。「池玉瀾」と呼ばれることも多いが、本人は徳山姓を名乗ったという。作品は、素人目には大雅かな?と思うくらいよく似ている。玉蘭、清原雪信あたりは知っていたが、江馬細香、張紅蘭、橋本青江など、よく知らなかった名前もあり、人となりや生涯の簡潔な紹介も興味深かった。

・『塩都・揚州の繁栄と芸術-袁江・王雲筆「楼閣山水図屛風」』(2025年1月2日~2月9日)

 『楼閣山水図屛風』8曲1双は、袁江と王雲の二作品を一対にしたもの。もともと巨大な作品(大判の涅槃図くらい)に高さ50センチくらいの展示台が付いているので、さらに背が高くなっている。

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