○出光美術館『新発見・長谷川等伯の美展』
http://www.idemitsu.co.jp/museum/
最近、出光美術館の展示は、なかなかいい。作品そのものを美的に見せることと、それを知的に楽しむための展示方法や解説のバランスがとてもいいと思う。
この展覧会は、新発見の2つの屏風(新たに等伯作品と認定された)を含め、長谷川等伯とその周辺の作品(狩野派、長谷川派、そして宗達)を取り上げたものである。
会場は3部構成になっていて、まず水墨画家としての等伯が出迎える。たぶん多くの人が私と同様、国宝「松林図屏風」で等伯の名前を覚えたはずだから、無難な選択だ。
それから、金泥屏風に華麗な花鳥を描いた色彩画家としての等伯が現れる。そうそう、これも等伯の一面なのよね。いちばん有名なのは、京都・智積院の国宝障壁画「桜図」「楓図」だろう。私は去年、初めて実物を見に行った。華麗にして繊細、「歓楽極まりて哀情多し」みたいな趣きがある。
最後の発見が、デザイナーとしての等伯。これには参った。香雪美術館蔵「柳橋水車図屏風」・出光美術館蔵「宇治橋柴舟屏風」・同館蔵「柳橋水車図屏風」の3作品がずらり並んだところは、この展覧会の圧巻である。沈み込むような金泥。遠近法を無視して、のたりと横たわった橋の存在感。ジャズシンガーの黒人女性のように肢体をくねらす柳の木。波間の柴舟では、チアガールのポンポンみたいな柴の束が、何事かささやきあう生き物のように左右に揺れている。すごい。ニューヨークあたりのカフェの内装に置いてみたいなあ。ちょっと動悸が早くなってしまった。
目録によれば、「等伯筆」と認められているのは香雪美術館のものだけで、あとの2作品は「不明(室町時代)」「長谷川派(江戸時代)」とある。私は3番目の作品だけは、以前、ここ出光美術館で見た記憶がある。この「写し崩れ」の江戸期の作品さえ、うわー、すごいなあ、と思って、今日まで忘れていなかった。しかし、「等伯筆」のデザインのとんがり具合は他を隔絶している。必見である。
会場の解説に「狩野派を現代の大企業にたとえるなら、長谷川派はベンチャー企業の雄と見ることができる」とあって、にやりとしてしまった。確かに、実は長谷川等伯って、成り上がり志向の、アクの強い人物だったらしいね。ホリエモンみたいに。