この秋、注目の京都国立博物館に関する雑誌・書籍をまとめて紹介。
■雑誌『日経おとなのOFF』2014年10月号「ずらり国宝 絶対見逃せないBEST25」 日経BP社 2014.9
「秋の6大国宝展覧会完璧ガイド」と名打って、京博の「京へのいざない」、根津美術館の「名画を切り、名器を継ぐ」、三井記念美術館の「東山御物の美」、京博の「国宝 鳥獣戯画と高山寺」、サントリーの「高野山の名宝」、東博の「日本国宝展」(開始順)で展示される約200件の国宝から、美術関係者の投票によって「絶対見逃せない国宝ランキングBEST25」を紹介する。第1位は『鳥獣人物戯画』。さまざまな分野の関係者の声を総合しているので、ランキング自体は、あまり面白くない。ただ、それぞれの作品に対するコメントは、曲者ぞろいで面白い。
山下裕二先生が語る「これも国宝にするべきでしょう!」は、いちいちうなずきながら読んだ。応挙の国宝指定は1点のみで、それに比べると琳派の絵画の指定数は多い。「これは国宝指定に携わる文化審議会で、琳派の研究者の影響力が大きいことも無関係ではないでしょう」って、やっぱりそういうことってあるんだな。後半のミニ特集「今一番行きたい!1泊2日の京都旅」では、ちょい贅沢なランチやディナーに使えるレストラン、「町家一棟貸し」プランも紹介されている。これはもう少し閑散期の京都でゆっくりするときに見直そう。
■雑誌『芸術新潮』2014年11月号「大特集・大人の修学旅行は、京都国立博物館で」 新潮社 2014.10
「5年にわたる建て替え工事を経て、ついにリニューアルオープンした京都国立博物館の平常展示館『平成知新館』」(本文記事)を直球で特集。山下裕二先生と千宗屋氏が、着物姿でツアーコンダクターをつとめる。イラストは山口晃画伯という豪華布陣。
山下先生が「でも特別展はともかく、平常展示館って、一般の人はなかなか行かないよね。(略)リニューアル前はなんだか暗いさびしい空間という感じだったし」と振り返っている。確かに私も、80~90年代までは、わざわざ平常展示を覗こうとは思わなかった。でも90年代の末頃から、博物館がホームページを立ち上げると、特別展のほかにも平常展示館の特集展示の情報が、東京からでもチェックできるようになって、あ、これ見たいな、と思って、立ち寄るようになった。
千宗屋さん(1975年生)は仏像少年だったそうで、1983年の『弘法大師と密教美術』、1986年の『比叡山と天台の美術』などを印象深い展覧会として挙げていらっしゃるが、私の記憶に鮮烈なのは、1998年の『王朝の仏画と儀礼』。山下先生も「泉武夫さんが担当した集大成的な展覧会で、素晴らしかった」と絶賛している。京博の展覧会は、一人の学芸員が全責任を負うのだそうだ。「これは東博や奈良博にはないことで、京博のいい面として今後もぜひ継承してもらいたい」とエールを送っている。そうか、京博の展覧会が「行ってみて損なし」と感じるヒミツはこのへんにあるのかもしれない。
そのあと「京博で見るべき厳選70点!」が紹介されているが、必ずしも現在展示中の作品にこだわらず、若冲や蕭白も入れてくれているのが嬉しい。あと山下先生いわく「京博は中国絵画のコレクションが充実しているから、日本の絵画と比較しながら見ると面白いんです」というコメントに納得した。リニューアル前もそうだったけど、リニューアル後も、日本絵画の展示室のすぐ横に中国絵画があるプランでよかった。東博は、中国絵画の展示室を「東洋館」に分離しちゃったことで、日本美術の流れを理解しにくくしているんじゃないかなあ。
■橋本麻里『京都で日本美術を見る:京都国立博物館』 集英社クリエイティブ 2014.10
平成知新館のリニューアルオープンに合わせて作成された京博コレクションガイドブック。コンセプトは「平成知新館でみることのできる所蔵・寄託作品の中から約115点をピックアップ」とある。リニューアル記念の「京へのいざない」展に出ている名品は、だいたい網羅されているのではないかと思う。京博で売っている名品図録(新版)が「寄託品等は載っていない」残念なものであることを思うと、こっちのほうが絶対にお得。仁和寺の『孔雀明王像』(北宋時代)も神護寺の『伝頼朝像』もちゃんと載っている。
逆に「京へのいざない」展に出ていない、若冲や蕭白、宗達の『風神雷神図屏風』(建仁寺)や狩野山楽・山雪『梅花遊禽図襖』(妙心寺・天球院)まで掲載されているのはありがたい。カラー写真が多いし、日本美術の流れが時代順に整理されているので、外国人旅行者の方が、京博の参観記念に買っていくのにも手頃だと思う。
コレクション紹介にとどまらない「コラム」で、非常に感心したのは、京博の「社寺調査」の活動について書かれた箇所。毎年、ここと決めた京都およびその近隣の社寺へ全学芸員が揃って出向き、1週間~2週間かけて所蔵品すべてを調査するという研究活動を行っているそうだ。仏像だけでなく、絵画の専門家、書の専門家、染織の専門家などが一団となり、連係プレーで調査にあたる。こういう活動から、社寺との信頼関係が生まれ、文化財の新発見や、学術研究の進展が生まれ、学芸員の力量も育まれるのだと思う。博物館の活動を「展覧会の観客動員数」だけで考えている偉い人たちに、ぜひ読んでもらいたい。
気になったのは、所載の「平成知新館フロアマップ」が現状と異なっており、1階の彫刻展示室の隣りが「特別展示室」になっていること。開催中の「京へのいざない」展では、2階の「絵巻」展示室と入れ替わっている。今後、京博はどうするつもりなんだろう? 開館記念展が終わったら、最初のフロアプランに戻すのだろうか。
※おまけ※
■雑誌『目の眼』2014年12月号「特集・東京国宝博物館『日本国宝展』を歩く:国宝の力-祈り、信じる」 目の眼 2014.11
東博『日本国宝展』の参考資料としては、本誌がおすすめ。会場のフロアプラン、展示風景写真も豊富。