見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

北宋ミステリー画巻/中華ドラマ『清明上河図密碼』

2025-02-01 23:32:21 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『清明上河図密碼』全26集(中央電視台、優酷、2024年)

 北宋の都・開封の賑わいを描いた画巻『清明上河図』をモチーフにしたミステリー時代劇。画巻の作者として知られる張択端も劇中に登場する。主人公は大理寺の下級官吏の趙不尤。父親の趙離、弟の墨児、妹の弁児、そして妻の温悦と仲良く暮らしていた。趙不尤が温悦と出会ったのは15年前、都に帰還した官吏・李言の船が何者かに襲われ、李言と全ての船員が殺害された事件の晩だった。群衆に押されて河に落ち、着替えを求めて店に立ち寄った趙不尤は、同じく着替えを必要としていた温悦に出会う。温悦は李言の船を襲った水賊のひとりではないかという疑いを、趙不尤は微かに持っていた。

 いろいろ新たな事件があって、徐々に温悦の前身が明かされていく。温悦は船大工の娘だったが、幼い頃、両親を殺されて孤児となり、水賊の一味に拾われ、武芸を仕込まれて育った。15年前、何者かの指令を受け、李言の船を襲ったのも彼女たちだった。趙不尤は温悦の正体を知っても、一途に妻を護り続ける。開封府の左軍巡使・顧震は、かつての上官・李言を殺害した犯人を捜し求めて、温悦の関与を知るが、真の元凶はその背後にいると考える。大理寺をクビになった趙不尤は、開封府に転がり込み、顧震の下で15年前から現在に至る事件の解決に尽力する。

 さて、趙不尤の弟の墨児と妹の弁児は、本人たちには隠していたが、理由あって若き趙不尤が引き取った貰い子だった。大理寺の先輩だった董謙が何者かに殺害される前に、幼い息子と娘を趙不尤に託したのである。そして、その董謙こそ、温悦の家族を襲った犯人だった。自分の意思とは無関係に張り巡らされた因縁に困惑する温悦、墨児、弁児たち。しかし、結局、今ある家族の姿を大切にしようという決心に至る。そこに現れたのは、死んだと思われていた温悦の弟・蘇錚。彼は、両親の仇を討つため、董謙につながる人々を陥れようとするが、温悦は抵抗する。

 そして、最後に宮廷の大官にして貪官・鄒勉こそが全ての事件の黒幕であったことが判明する。鄒勉の娘と娘婿も傍若無人な悪役として登場するが、父親の鄒勉は、それを上回る冷酷・凶悪ぶりを見せる。このラスボスを裁判劇の舞台に連れ出し、悪事を糾弾する趙不尤の弁舌がクライマックス。圧倒的な民衆の賛同を得て、実際に開封府尹の審理に引き渡されることになる。このとき、鄒勉の意を受けた私兵が突撃するのを瓦子(劇場)の前で、体を張って阻むのは顧震と下僚の万福。

 善悪どちら側も癖のあるキャラが多くて面白かった。ルックスは全くイケていないけど、なかなかの頭脳派で、妻と家族思いの趙不尤。張頌文さん、いいドラマに当たったと思う。顧震は土いじりが趣味らしく、周一囲さんにしてはじじむさい役柄が大変よかった。その部下、お笑い担当のようで頭児(ボス)への忠誠心は厚い万福(林家川)も好き。墨児と親交を結ぶ学究肌の青年・宋斉愈役は郝富申くん!古装劇は初めて見たけど、どんどん出てほしい。

 『清明上河図』の虹橋を再現したセット、さらに画中の人物を全て再現したカットもあって、見応えがあった。ただ『清明上河図』には、女性の姿が非常に少ないと言われているので、画巻の世界をそのまま再現したら、こんなに女性の活躍するドラマにはならないだろう。

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あきらめない刑事たち/中華ドラマ『我是刑警』

2025-01-01 20:21:35 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『我是刑警』全38集(愛奇藝、中央電視台、2024年)

 大晦日に見終わったドラマ。おもしろかった~。ドラマは1990年代から始まる。平凡な若手警官だった秦川(于和偉)は、刑事捜査の資質を認められ、大学で法律を学び、職務に復帰したばかり。1995年1月、西山鉱山の事務所が強盗に襲われ、保安員ら十数名が殺害される事件が起きる。中昌省河昌市の警察隊は、1991年に彼らの同僚が殺害され、銃を奪われた事件との関連を疑う。まだ科学的な捜査設備の整わない中、過去の事件記録の読み直しと論理的な推論で徐々に犯人をあぶり出し、逮捕に至る。

 大きな功績を上げた秦川は、上司と衝突して、西山分局の預審科長(予審=被告事件を公判に付すべきか否かを決定すること?)で冷や飯を食うことになるが、この間にも大規模な食糧盗賊団を摘発するなど成果を挙げる。犯人たちはトンネルを掘って食糧倉庫に近づいていたら棺桶に行き当たってしまったという、これは本作で唯一笑えた事件だった。

 2001年、秦川は中昌省緒城市の刑偵(刑事捜査)支隊長に復帰。いくつかの事件を解決したあと、師匠と慕う刑事捜査の専門家・武老師(丁勇岱)からある事件の相談を受ける。2004年と2005年に昀城市で発生した短銃による殺人と金銭強奪事件。さらに2009年、軍の管轄区の門衛が殺害されて銃を奪われる事件が起き、2010年には渓城市の鋼材工場前で同様の金銭強奪事件が起きる。秦川は昀城と渓城の合同チームを作り上げようとするが、小役人の縄張り根性が邪魔をして、なかなか上手くいかない。彼らを嘲笑うように犯行を繰り返す犯人。当時、街頭の監視カメラは普及していたが、その映像を確認するには人海戦術にたよるしかなかった(今ならAIが使えるのかな)。しかし、とうとうネットカフェの検索履歴から犯人の相貌が明らかになる。その結果、悉皆調査で見逃されていた犯人の住居と家族が判明し、2012年8月、犯人・張克寒は昀城市で捕捉され、手向かおうとしたところを射殺された。

 このドラマは、捜査が犯人にたどりつくまで、視聴者も秦川らと一緒に耐えるケースが多くて、かなりストレスフルなのだが、張克寒の事件だけは(秦川らが知らない)犯人の動きを同時並行で追っていく描き方だった。他の事件では、逮捕された犯人が、それぞれ印象深い供述をするのだが、張克寒は現場で射殺されてしまうため、この描き方を選んだのではないかと思う。

 次いで秦川は、2014年1月に清江市で起きた事件にかかわる。山上のテント拵えの賭博場が何者かに爆破され、多数の死傷者を出したというもの。爆破現場の草を刈り、土を攫う捜査を何日も続け、ついに犯行に使われたと見られるリモコンを発見する。これが手がかりとなって二人組の犯人を逮捕。

 しかし清江市には「清江両案」と呼ばれる積年の未解決事件があり、刑事たちの心痛の種になっていた。秦川は、特に婦女や児童が犠牲となった凶悪な未解決事件の重点的な再捜査に乗り出す。「清江両案」は1998年、警官が殺害されて銃を奪われ、続いて銀行の支店長一家が殺害された事件。「東林案」は林城市東林県で、三人の小学生が性被害に遭い、殺害された事件。「良城案」は1997年に始まる連続婦女殺人事件。「草河案」は若い女性の連続殺害事件。いずれもDNA鑑定や指紋鑑定など、新しい(そして費用のかかる)捜査方法の適用によって解決に至る。

 ただし実験室での鑑定だけで万事が解決するわけではない。東林案では、DNA鑑定によって、犯人は近隣住民の「顧姓の者」と血縁の可能性が高いという結果が示される。東林県の刑事・陶維志(富大龍)は、この可能性を頼りに、家譜や郷土史を読み込み、石碑を探し、車どころか自転車でも通えないような僻地の集落を訪ね歩く。この黄土平原の風景が素晴らしくよかった。

 タイトルを聞いたときは、難事件を次々解決するスーパー刑事が主人公かと思ったのだが、全然違って、ものすごく厚みのある群像劇だった。武老師と秦川の師弟関係(おじさんになった秦川を川児と呼び続ける)もよいし、ちょっと嫌な上司・胡兵(馮国强)も好きだった。汚い恰好で執念だけが取り柄の陶維志も、二人の刑事仲間とあわせて、だんだん好きになった。また、このドラマでは刑事たちだけでなく、犯人やその家族たちも、それぞれ生きた人間が描かれていたと思う。90年代から2000年代の中国では、とにかく金銭を得ることが人間の尊厳と結びついていたということを嚙みしめた。

 なお、ずっと舞台になる中昌省(架空の省)は、序盤の事件では暗くて雪深い北国なのだが、張克寒の事件では長江流域の重慶らしく、清江では背景に少数民族の舞踊が登場し(貴州とか雲南?)、東林案は西北地方の風景である。

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1930年代の金融抗争/中華ドラマ『追風者』

2024-12-15 21:10:01 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『追風者』全38集(愛奇藝、2024年)

 1930年代の中国、国民党と共産党の抗争を背景に、金融業界に進んだ青年の奮闘と成長を描く。日本でも人気の王一博の主演ドラマなので、すでに日本でも配信・放映されているらしい。会計学校を卒業した苦学生の魏若来(王一博)は、上海で中央銀行への就職を目指していた。試験の成績は抜群だったが、共産党の革命拠点のある江西省出身であることが難点となった。しかし中央銀行の高級顧問である沈図南(王陽)は、若来の才能を惜しみ、私人助理(私設秘書)として身近に置き、金融業を学ばせる。若来もよく期待に応え、二人は師弟の交わりを結ぶ。

 あるとき、若来の兄・若川が上海に現れるが、彼は共産党の地下党員となっていた。そして共産党員の摘発を任務とする偵緝隊(警察隊)に見つかり、命を落とす。若来は兄がやり残した任務を継ぎ、兄を陥れた共産党内の裏切者への復讐を決意する。

 沈図南の妹・近真(李沁)は、ドイツ留学帰りで軍備に詳しいエンジニアという変わり者だったが、共産党の地下党員にして女スナイパーという、兄の知らない顔を持っていた。近真は、洋裁店の店主と見せて実は地下党員同志の徐諾(王学圻)と語らい、若来を共産党に勧誘することを考える。共産党は革命拠点に銀行を設立したものの、経済や金融に詳しい人材を必要としていた。若来は、次第に近真の正体に気づくが、共産党に対しては警戒を緩めなかった。

 沈図南は三民主義の信奉者で、国民党政府のために働くことに喜びを感じていた。しかし国民党の有力者には私利私欲で動く者が多かった。1932年の第一次上海事変の後、中央銀行は上海復興のための建設庫券(債券)を発行したが、有力者たちはその価格を操作して私腹を肥やした。割りを食ったのは庶民である。義憤に駆られた魏若来は、中央銀行と沈図南に別れを告げ、近真らに協力して、国民党政府の腐敗を告発する。その結果、本格的に追われる身となった若来と近真は、上海を離れ、江西省の共産党根拠地・瑞金に赴く。沈図南は自分の信条に従い、国民党の側に留まりながら、妹たちの逃亡を助ける。

 その後、沈図南は共産党討伐を使命とする特派員を命じられ、偽紙幣をばら撒くなど、経済的な手段で共産党根拠地にゆさぶりをかける。沈図南の部下となった、もと偵緝隊隊長の林樵松(張天陽)は、攻撃の手段を選ばず、彼の仕掛けた爆弾で沈近真は命を落とす。正式に共産党に入党した魏若来は、共産党根拠地で採掘した鎢砂(タングステン)をドイツの商人に売り込み、国民党側の企む数々の障害を突破して交易に成功。1934年10月、共産党は長征の途に就いた。そして1936年末、再び上海を訪れた若来は、埠頭で沈図南の姿を見る。

 基本的に共産党の評価を爆上げする作りになっているのは、まあこの時代を舞台にする以上、仕方ないだろうとゆるい気持ちで見ていた。こういうドラマが面白いかどうかは、敵対側の描き方による。本作は、政治的信条は信条として、異なる道を行く妹と愛弟子を全力で助ける沈図南がカッコよくて目が離せなかった。ただ、最後は共産党根拠地で人々が幸せに暮らしている様子を見て、信条そのものが揺らいでしまうのは、ちょっと残念。

 好きだったのは張天陽さんの林樵松。何をやっても好きな俳優さんだが、古装劇以外で見たのは初めてかもしれない。頭の悪い、ダメな弟分の彪子を可愛がっていて、彪子が死んだあとは、自分も早晩死ぬ覚悟を固めていたように思う。沈図南の従来の秘書・黄従匀もよかった。魏若来に嫉妬しながら、脇目も振らずに沈図南に付き従い、最後は沈図南を護って命を落とす。演者の宋師さんはこれがデビュー作のようだ。本作には男女のパートナーシップも描かれるが、心に残ったのは、男性と男性の、BLではないけど特別に親密な関係だった。その最たるものは魏若来と沈図南。ラストシーンは、いかにも続編あります的な匂わせに感じられたが、さてどうなるだろう。

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多民族世界のラブコメ/中華ドラマ『四方館』

2024-10-25 23:46:56 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『四方館』全39集(愛奇藝、2024年)

 東方の大国大雍(架空の王朝)の都・長楽城には、諸国の民が、交易や旅行・移住など、さまざまな理由で訪れていた。彼らの入国を掌るのが四方館。于館主のもと、東院・西院の二つの部署が置かれていた。

 元莫(檀健次)は定職もなく、父母の遺産で暮らす、酒好きの青年。16年前、父親の元漢景は四方使(外交大使)として焉楽国に赴いた際、政変に巻き込まれ、赤子の公主を助けるために、妻とともに命を落としてしまった。以来、ぼんやりと過ごしてきた元莫だが、ある日、焉楽国から流れ着いた少女・阿術と出会い、一緒に暮らすことになる。大雍の文字を学び、お金を稼いで、長楽城の戸籍を獲得することを目標とする阿術に影響されて、元莫も四方館の西院に出仕。西方の大国・焉楽国の康副使との交渉、宗教集団・紅蓮社の追及、焉楽国に対抗する西方五国との同盟など、次第に外交の才を発揮していく。

 【ややネタバレ】やがて阿術は、元莫の両親が命に代えて守った焉楽国の公主であることが判明。康副使は王権の簒奪者である龍突麒に仕えながら、貧しい村に隠した阿術の成長を密かに見守ってきた恩人だった。しかし阿術の幼なじみの少女・阿史蘭は、龍突麒の差し向けた軍勢に村が焼き払われた恨みを忘れず、自分は旧国王の血を引く公主であると虚偽を申し立てる。それをそそのかしたのは、焉楽国の刺客集団・無面人を率いる白衣客。阿史蘭は、危ない罠であることを知りつつ、復讐のため、白衣客に協力する。阿術は、幼なじみを救うため、自分こそ真の公主であることを明らかにし、阿史蘭は絶望して命を絶ってしまう。

 公主の責任を自覚した阿術は、龍霜公主として焉楽国に帰還する。付き従うのは四方使となった元莫。そして白衣客は、旧国王が身分の低い女性に産ませた男子、つまり阿術の弟だったことが判明する。白衣客は、龍突麒を殺害し、自ら王座に就こうとするが、元莫らと同盟諸国の協力によって阻まれ、西方に平和が訪れる。

 こうしてまとめてみると、よく考えられたストーリーなのだが、ラブコメ要素多めで、なかなか話が進まないので、私は最後までドラマに乗り切れなかった。主人公カップルはタイムスリップした現代っ子を見ているようだった。まあ中国ドラマらしく、過酷な経験を通じて、最後はずいぶん大人になるのだけど。

 むしろ脇役には魅力的なキャラが多かった。前半は王昆吾と尉遅華の武闘派カップルが楽しかったし、後半は安修義と林素素に涙した。安修義を演じた張舒淪さんは、『君子盟』の皇帝もよかったけど、この役で完全にファンになった。序盤は自尊心が高く、怒りっぽいのにヘタレという、典型的な嫌われ者のお坊ちゃんなのだが、最後は四方館の新しい館主に推されるに至る。人間的に成長した後のたたずまいが別人のようで感心した。今後も注目していきたい。

 北漠国の多弥王子も好きだった。演者の徐海喬さんは『夢華録』の欧陽旭の人か。今回も主人公カップルの気持ちを軽く騒がせる役だが、最後は阿術と元莫の危機を救う。あと、中間管理職の苦労の絶えない于館主(魏子昕)、一人娘の尉遅華に甘い父親の鄂国公(黒子)も好きだった。黒子さんみたいに、悪役の多かった俳優さんが人の好い父親役を演じていると微笑ましくて嬉しい。

 架空世界の物語ではあるけれど、「外交」や「移民」を中心に据えて描くのは、多様な民族と境を接してきた中国らしくて面白かった。逆に大雍国の皇帝が全く登場しないのは、中国ドラマとしては珍しいと思った。

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鉄道と家族の現代史/中華ドラマ『南来北往』

2024-09-25 23:12:16 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『南来北往』全39集(中央電視台、愛奇藝他、2024年)

「南来北往」は、あちこち、せかせか動き回ることをいう成語である。ドラマの始まりは1978年、主人公の汪新(白敬亭)は中国東北地方の寧陽駅の管区内で「乗警」として働き始めたばかりの若者。私は80~90年代によく中国旅行に行っていたのだが、長距離列車に乗ると、必ずこわもての乗警(鉄道警察官)が乗っていて、身分証や切符をチェックにまわってきた。今は知らないが、なつかしい。

 汪新は幼い頃から父親と二人暮らし。父親は列車長で、鉄道関係者の社宅のようなところに住んでいる。機関士見習いの牛大力、牛大力の憧れである服務員の姚玉玲らもご近所住まい。汪新は、中学の同級生だった馬燕(金晨)のことをいつも気にかけていた。馬燕の父親・馬魁は経験豊富な乗警だったが、あるとき犯人を取り逃がし、しかも犯人が列車から転落して死亡したため、殺人罪に問われて12年間投獄されていたのである。母一人娘一人で苦労をしてきた馬燕。ようやく服役を終えて戻って来た馬魁は、乗警の仕事に復帰し、汪新の師父となる。

 こそ泥、人さらい、刃傷沙汰など、さまざまな事件に遭遇しながら警官として成長していく汪新。馬魁も汪新の素質を認め、期待をかけるようになる。しかし馬燕と汪新の結婚だけはどうしても許さない。馬魁が殺人罪に問われた事件の日、汪新の父親・汪永革は同じ列車に乗務しており、馬魁に落ち度がないことは証言できたはずなのだ。それをしなかった汪永革を、馬魁はどうしても許せなかった。

 【ややネタバレ】あるとき、馬魁に詰問されたショックで昏倒した汪永革は、健忘症を発症してしまう。記憶を失う前に真実を明らかにする決意を固めた汪永革は、事件の日、誤って犯人を突き落としたのは自分だったと告白する。母親のいない汪新をひとりにすることができず、汪永革は事件を黙秘したのだった。動揺する汪新と馬燕。しかし、少しずつ時間をかけて、過去のできごとを受け入れ、馬魁の許しを得て結婚にこぎつける。これが90年代初頭(二人とも30代?)だったと思う。

 1996年の旧正月、馬魁と汪新は麻薬密売組織の黒幕を追って、沿線都市の哈城にいた。黒幕とは、常連の乗客として馬魁たちと旧知の間柄で、汪新の同僚・姚玉玲と結婚した資産家の賈金龍だった。手下とともに逃亡した賈金龍は、列車の車内で馬魁と汪新と対決することになる。そして賈金龍は捕えられたが、揉み合いの末、馬魁は刺殺されてしまう。いや、最終話ですよ。ここでハッピーエンドにしないところが中国ドラマらしい…。最後は2017年、馬魁の墓参に集まった家族・友人たちと、最新鋭の鉄道車内で、定年退職を迎えた蔡小年(汪新の同僚)が、鉄路の発展を祈念するスピーチで全編が終わる。

 実際は、もっとさまざまな人々が入り乱れ、70年代末から90年代の地方都市の生活風景がリアルに展開する。80年代半ばくらいまで、列車内のカオスなこと(座席の下や網棚で寝ていたり)は凄まじいのだが、人情の濃密さには、ちょっと憧れを感じる。攫われた娘を探すため、いつも列車に乗っている盲目の爺さん(倪大紅)(もちろん無賃乗車)と、それを許容する服務員とか。車内に置き去りにされた赤ん坊を実子同然に育てることになる馬魁夫婦とか。近所住まいの人々が家族のように一緒に祝う結婚式の描写もよかった。

 姚玉玲に振られた牛大力が、一念発起して深圳に渡り、ひとまずの成功を収めたらしいのに対して、賈金龍になびいた姚玉玲は、最後にちらりと零落した姿を見せる。こういう運命のすれ違いは、実際に中国社会のあちこちであったのだろう。

 馬燕は、自分で商売をやりたいと父親に懇願し続けるのだが、昔気質の馬魁はなかなか許さない。どうして馬燕は、こんな父親を棄てて飛び出さないんだろうと何度か思ったが、やっぱり中国人にとって家族の重要さは日本人とは違うのだろうか。なお、頑固一徹の馬魁だが、料理や掃除など、家のことは当たり前にする父親である。このドラマ、本当の主人公は馬魁(丁勇岱)だったように思う。そして裏主人公は汪永革(劉鈞)で、もうろくしてヨボヨボしながら、馬魁よりも長生きするのがおもしろかった。どちらも、いま中国ドラマで父親役には欠かせない俳優さんだと思う。

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娯楽作で学ぶ現代史/映画・ソウルの春

2024-08-27 22:57:53 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇キム・ソンス監督『ソウルの春』(角川シネマ有楽町)

 話題の韓国映画を見てきた。1979年12月12日、全斗煥と同志の秘密組織ハナ会グループが、粛軍クーデター(12.12軍事反乱)によって政権を掌握する顚末を描く(登場人物の名前は微妙に変えてある)。

 チョン・ドゥグァン少将(全斗煥)は、10月に起きた朴正煕暗殺事件の捜査本部長として強大な権力を手中にしたが、陸軍参謀総長はこれを警戒し、信頼のおけるイ・テシン少将を首都警備司令官に任命するともに、ドゥグァンを首都ソウルから遠ざける人事を計画する。危機感を抱いたドゥグァンは、参謀総長の罪をでっちあげて部下に拉致させ、同時に大統領から参謀総長取り調べの承認を得ようとしたが、大統領は疑念を抱いて認可を与えない。進退きわまったドゥグァンは、大統領の判断を無視し、実力行使に突っ走っていく。

 ドゥグァンの周りに集まったハナ会メンバーの将校たち(年齢や階級はドゥグァンより上)は、事態が深刻化するにつれて、権力欲と保身を天秤にかけて右往左往する。ドゥグァン自身は最初から大望を抱いた英雄ではないが、さすがに肝が据わっており、抜群の判断力と瞬発力で危機を切り抜けていく姿は、憎たらしいが魅力的である。ドゥグァンの腹心(親友?)らしいが、傍らでおろおろしてるだけの小物のノ・テゴン少将、実は盧泰愚(ノ・テウ)がモデルと知って、あとで驚いた。

 しかし当人が小物か大物かに関係なく、軍において指導的な地位にあれば、軍事部隊を動かすことができる。上官の命令には絶対に従うのが軍隊というものだ。ドゥグァンはハナ会の将校たちを通じて、ソウル近傍に駐屯中の部隊にソウル進撃を命じる。一方、首都警備司令官のイ・テシンも、ハナ会の影響の及んでいない部隊に応援を要請する。強大な軍事力が首都の近傍に控えている怖さ(北の脅威に対する防備がリスクにもなっている)。あと、漢江が防御線になるソウルの地理をあらためて認識した。

 なんとか内戦を食い止め、ソウル市民の安全を守ろうとするイ・テシンだが、いちはやく米国大使館に逃げ込んだヘタレの国務部長官や、指揮権のヒエラルキーにこだわり、口先では俺がドゥグァンを説得するといきまく、無能な参謀次長の存在が反乱側を利することになり、万事休す。最後まで、単身でドゥグァンに詰め寄ろうとしたイ・テシンは反乱軍に取り押さえられる。高笑いするドゥグァン。数日後、大統領はあらためてドゥグァンに求められた書類にサインをするが、日付を書き添え「事後決裁だ」と言い添える。文人政治家の最後の抵抗は虚しいが、気持ちは分かる。「こうしてソウルの春は終わった」というナレーション。

 史実に基づいているので、結末がくつがえることはないと分かっていても、手に汗握る展開で、おもしろかった。ただ、ドゥグァン=悪、イ・テシン=善の対立が平板に過ぎる感じはした。後々まで振り返って「おもしろさ」を味わうには、もう少し善悪未分化の人物が描かれているほうが私の好みである。それでいうと『KCIA 南山の部長たち』の朴正煕には、そういう魅力があったが、本作の全斗煥は、わりと単純な悪役(しかも大悪人ではない)に振り切っている。これは作品の性格の差なのか、二人の政治家に対する、現在の韓国人の標準的な見方なのか、ちょっと気になる。

 なお、史実では、イ・テシンに当たる人物は張泰玩(チャン・テワン)というらしい。作中の名前は、民族英雄の李舜臣(イ・スンシン)に重ねているのだろう。ソウルの光化門広場に立つ巨大な李舜臣の銅像をイ・テシンが見上げるカットが一瞬だけある。

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第1季からパワーアップ/中華ドラマ『唐朝詭事録之西行』

2024-08-16 14:44:38 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『唐朝詭事録之西行』全40集(愛奇藝、2024年)

 2022年に公開された『唐朝詭事録』の続編である。前作はまあまあ楽しめたが、エピソードによっては退屈なものもあり、私は「ハマる」ほどではなかった。それが今回は激ハマりしてしまった。本作は第1季の登場人物そのままに「降魔変」「仵作之死」「風雪摩家店」「千重渡」「通天犀」「雲鼎酔」「上仙坊的来信」「供養人」の8つのエピソードで構成されている。

 「降魔変」の舞台は長安。大唐第一の絵師・秦孝白は成仏寺に降魔変の壁画を描いていたが、壁画の魔王が抜け出して人を襲う怪事件が起きる。大理寺少卿の盧凌風は、魔王との対決で重傷を負い、墓守に左遷されていた蘇無名が呼び戻される。最終的に事件は解決し、公主と太子を狙った国家転覆の陰謀を未然に防ぐことができたが、乱戦の中、盧凌風は公主に「娘(かあさん)」と呼びかけてしまう。孤児として育った盧凌風の母親が公主であることは前作で明らかになったが、一部の者だけが知る秘密だった。

 その後、皇帝は譲位を表明し太子が即位(これ玄宗なのか)。盧凌風は寒州雲鼎県の県尉に降格され、任地に赴くことになる。政治的な雲行きの危うさを察した蘇無名も職を辞し、桜桃とも別れて長安を離れるが、結局、一行は「仵作之死」の舞台である拾陽県で集合し、西を目指すことになる。博学と弁舌の蘇無名、安定の武闘派・盧凌風、やや無鉄砲な女侠の褚桜桃、絵画と観察力の裴喜君、毒薬にも詳しい神医・費鶏師が、それぞれの得意技を発揮して、チームで難事件を解決していく展開がとてもいい。昭和生まれの私には懐かしい「戦隊もの」みたい。

 前作の陰鬱な怪奇趣味はやや薄まり、論理的な「謎解き」に力点を置いたエピソードが多いのもよかった。「供養人」は童女の何気ないひとことが犯人捜しの鍵になる。私は中国語の七割くらいしか理解できていないので「不好惹」(なめてはいけない)の意味を初めて覚えた。「仵作之死」と「供養人」に出て来た古代の仵作(検死人)による死因の調査方法、あれは創作なのか、何か典拠があるのか気になる。

 荒唐無稽を突きつめたようなエピソードが「千重渡」で、大河(たぶん黄河)を船で渡ろうとした一行は、水中の怪物「破蜇」に出会う。 鮫の頭、蠍の尾、蟹の爪、蛸の足、蝙蝠の羽根を持つ(五不像)ウルトラ大怪獣みたいなやつ。この怪物と槍の使い手・盧凌風の対決が迫真のアクションで手に汗を握ってしまった(どう考えてもCGなのだが)。

 前作では青臭さの残る青年だった盧凌風が、徐々に世間知を身に着け、蘇無名とのバディ感を強めているのも嬉しい。「雲鼎酔」では唐の国禁を破って毎晩夜市が開催されている状況に怒るのだが、当地の庶民のためという前任県尉・司馬亮の意図に最後は理解を示す。「上仙坊的来信」では殺害された被害者の悪行三昧が明らかになるにつれ、容疑者の女性たちへの追及を取りやめる。本当の悪人は許さないが、基本は義理より人情の物語なのである。

 「風雪摩家店」で盧凌風らは摩什大師の舌舎利を得るが、これは鳩摩羅什が火葬されても遺言どおり舌が焼け残ったという伝説を踏まえているのだろう。「通天犀」の舞台となった寒州城はたぶん涼州(武威)で、武威にはゆかりの羅什寺塔が残る。「雲鼎酔」は盧凌風の任地・雲鼎県城が舞台だが、犯罪集団の本拠地に人々の意識を失わせる酒池があったのは、酒泉を念頭に置いているのかもしれない。そして最後の「供養人」は敦煌が舞台で、莫高窟で旅人のガイドを務める利発な少年が登場する。私は30年近く前、一回だけ河西回廊を旅行したことがあって、むちゃくちゃ懐かしかった。現地の風景は、もうすっかり変わっているんだろうなあ…。

 最終話は、一行が陰謀渦巻く長安へ呼び戻されるところで終わる。第2季が第1季より面白いというのは滅多にない事例なので、第3季にも大いに期待したい。ところで、雲鼎県で盧凌風の部下になった捕手の策龍(張層層)が好きだったんだけど、第3季の出番はないですかねえ。あと無骨一辺倒の盧凌風には剣より槍のほうが似合うと思うのだが、「通天犀」で失われた(?)槍は戻ってこないだろうか。

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古さと新しさ/中華ドラマ『金庸武侠世界・鉄血丹心』

2024-07-30 22:14:59 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『金庸武侠世界・鉄血丹心』全30集(騰訊視頻)

 仰々しいタイトルになっているが、原作は永遠の名作『射鵰英雄伝』である。私は2003年(李亜鵬)版で中国ドラマ・武侠ドラマの世界に足を踏み入れ、2008年(胡哥)版2017年(楊旭文)版を見てきたので、これが4作目になるが、やっぱり面白いと思う。

 南宋末年、江南の牛家村に暮らす郭嘯天と楊鉄心の両家は金兵に襲われる。郭嘯天は命を落とし、身重の妻は草原に流れ着いて郭靖を生む。楊鉄心は行方知れず、身重の妻は金の六王爺・完顔洪烈に見初められ、その庇護の下で楊康を生む。そして18年後、郭靖と楊康の物語が始まる。…というのが導入のあらましなのだが、このドラマは、初回から郭靖と楊康が成年の姿で登場し、さらにそれぞれの伴侶となる黄蓉、穆念慈との出会いまで描いてしまう。二人の両親の物語は、その後、物語が進んだところで回想として挟まれる。

 なるほど、この長大な物語を全30集に収めるには、こういう省略もありかもしれない。しかし私は、モンゴルの草原を舞台にした郭靖の少年時代の物語が大好きなので、ちょっと残念でもあった。そこを省略してしまうと、江南七侠の師父たちとの絆も、幼なじみの哲別(ジュベ)や華筝(コジン)との関係も、父親同然のテムジン(チンギスハン)に逆らうことの苦悩が、ずいぶん薄くなってしまうように思う。まあ中国人なら、物語を全部知っている視聴者が多いだろうから、脳内補完して楽しむのかもしれないが。

 主人公の郭靖は「笨」(愚か、不器用)が本分である。少年時代は、いくら修行をしても武芸が身につかないのだが、その素直さを誰からも愛され、さまざまな秘儀を授けられる。郭靖を演じた此沙は、今どきのイケメンという認識だったので、合わないんじゃないか?と思っていたが、繊細で誠実な人柄が感じられて意外とよかった。包上恩は、気の強さも茶目っ気も、一途な愛情もまさに黄蓉。この二人なら、ずっと助け合って、どんな困難も乗り越えていくだろうなあと後半生がイメージできた。

 王弘毅の楊康はちょっと線が細いと思ったが、その分、闇落ちして破滅していく姿に哀れを感じた。本作は、楊康も欧陽克も、死の間際に愛する人の幻影が迎えにくる(欧陽克の場合は母親)演出で、悪役に優しかった。楊康は、漢人と金人のアイデンティティに引き裂かれてしまったわけで、不幸な生い立ちだったと思う。趙の完顔洪烈も、報われない愛情に執着するところが人間的で大変よかった。『射鵰』の映像作品は、金人やモンゴル人の描き方も見どころ。本作の金人男性は編み込みのツインテールみたいな髪型だったが、あれは正しいのかな? モンゴル人は、チンギスハン(王力)はよいとして、ジュベやコジンがあまりモンゴル系らしくないのは不満だった。

 黄薬師(周一囲)、洪七公(明道)、欧陽鋒(高偉光)、段智興(何潤東)は、全体に若い配役だなあと思ったが、悪くはなかった。それより大収穫!と感じたのは、老玩童・周伯通の田雷と裘千仞・裘千丈2役の趙健。どちらも魅力ある滑稽さを演じなければならない難役。田雷は『大江大河』の史紅偉、趙健は『三体』の魏成を演じた俳優さんである。これからも気にして追いかけたい。

 本作の映像は、構図も光の使い方も凝っていたが、ハッキリした高画質の美しさではなく、むしろ古い映画を見るような、黄色っぽい画面が多かったように思う。あと、アクションを接近カメラで撮ることが多くて独特だった。登場人物の内面の葛藤や覚醒を宇宙空間のようなCGで表す演出も面白かった。いろいろな意味で古さと新しさが同居した作品である。

 なお、この『金庸武侠世界』には、監督の異なる「東邪西毒」「南帝北丐」「華山論剣」「九陰真経」という4単元(全30集)が含まれると聞いている。全編公開が待ちどおしい。

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謎解きは半歩ずつ/中華ドラマ『慶余年2』

2024-07-15 21:58:33 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『慶余年』第2季:全36集(上海騰訊企鵝影視文化伝播有限公司他、2024年)

 2019年の第1季から待つこと5年、ようやく続編が公開された。私は配信開始から少し遅れて視聴を始めたので、第1季と比べて辛めの評価を受けていることは、漏れ聞こえていた。しかしそれは期待値が上がり過ぎた結果で、公平に見れば、十分おもしろかったと思う。

 南慶国の勅使として北斉国に送られた范閑は、その帰路、二皇子の使者・謝必安から二皇子の謀略の次第を聴かされ、同僚・言冰雲の刃を受けて倒れる(ここまでが第1季)。范閑死すの報せは、たちまち南慶国に伝わるが、これは范閑と言冰雲が仕組んだ芝居だった。范閑はひそかに南慶国に潜入し、二皇子に捕えられたと思しい、亡き滕梓荊の妻子を探すが見つからない。

 范閑は再び勅使の列に戻り、生きていたことを明らかにして堂々の帰国。皇帝を偽った罪は不問に付され、監査院一処の主務に任命される。さらに科挙の責任者の大役を果たして宮廷の重臣となり、林婉児との結婚も許される。この厚遇には理由があり、范閑が慶帝と葉軽眉(監査院の創設者)の間の子供だったことが本人に明かされ、周囲も知るところとなる。

 おもしろくないのは、范閑と敵対する二皇子。都を追放された長公主とのつながりも消えていない。一方、太子とその生母の皇后は、二皇子一派に対抗するため范閑との友好関係を保っていたが、范閑も皇子の一人と知って動揺する。慶帝は、范閑以外の臣下や皇族たちへの冷酷な振舞いを徐々に垣間見せる。

 林婉児と結婚した范閑は、南慶国の財力の根本である「内庫」を相続するが、その内庫には全く資産がないことが判明する。そこで南慶国の商人たちに投資を呼びかけ、当面の資金を調達するとともに、内庫の商品を製造している江南の実情を探りに出かける。江南で范閑を待ち受けていたのは、この地方を牛耳る明家の老婦人と息子の当主・明青達。范閑は旅立ち前に慶帝を狙った刺客と大立ち回りを演じて負傷し、まだ内力が回復していない。あわやの危機を救ったのは、北斉国から駆けつけた海棠朶朶。持つべきものは友人である。

 というのがだいたいの粗筋だが、問題は何ひとつ解決せず(むしろ雪だるま式に増えて)第三季に持ち越した印象である。まあ范閑の父親が明らかになり、林婉児と結婚したことが多少の「進展」と見做せないわけではないが。滕梓荊の妻子の安否は不明のまま。監査院院長の陳萍萍が何を考えているかは相変わらず謎(今季は妙に筋トレに励んでいたのと贅沢な私生活を送る自宅が出て来た)。范閑の守護者・五竹は、彼にそっくりの「神廟使者」との一戦があって、尋常の人間ではない(ロポットかアンドロイド?)ことだけは明らかになった。科挙の縁で范閑の門下生になった史闡立の活躍はこれからかな。彼の故郷・史家鎮は、長公主と二皇子が私腹を肥やすための密貿易の現場だったが、太子が捜査の手を伸ばしたときは、村ごと焼き滅ぼされていた。この真相究明も道半ば。

 北斉行で活躍した高達の出番が序盤だけだったのは残念。新たな登場人物では、辺境暮らしが長く、太子と二皇子の権力争いから一歩身を引いた大皇子に好感を持った。大皇子に嫁入り予定の北斉大公主は、美人なのにちょっとトロくて微笑ましい。演じる毛暁彤うまいなあ。監査院一処で范閑の下僚となった鄧子越を演じる余皑磊も好きな俳優さんなので嬉しい。陳萍萍や范閑らの収賄・蓄財を批判して慶帝に嫌われ、あっという前に消された硬骨の老臣・頼名成を畢彦君など、名優を贅沢に使うドラマである。明青達の寧理は第三季の活躍に期待していいのだろうか。

 第一季に比べるとアクション(武闘)シーンは少なめだったが、見せ場(范閑vs刺客、五竹vs神廟使者)はスリリングで手抜きがない。あと、若若がただの貞淑な女子ではなく、外科医の才能に目覚めるのも面白かった。

 本編が、大学生の長慶が葉教授に読ませる創作物語の形式を取っているのは第一季と同じ。ただ冒頭で葉教授が周りの人々に「范閑は死んだんですか?」と繰り返し聞かれていたり、第二季を読み終わったあと「また何年も待たされるの…」とため息をつくなど、メタ物語に念が入っている。第三季、配役をなるべく変えずに作ってほしいなあ。

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金融業界の裏表/中華ドラマ『城中之城』

2024-06-07 23:48:50 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『城中之城』全40集(中央広播電視総台、愛奇藝他、2024年)

 見たいドラマが少し途切れていたので、豪華な配役に惹かれて本作を見始めた。上海の陸家嘴金融貿易区という「金融城」を舞台に、銀行、証券、信託、投資、不動産等に関わる人々を描いたドラマである。

 陶無忌は、程家元ら同期とともに深茂銀行に入社し、銀行員生活のスタートを切った。彼の憧れは、同行副支配人の趙輝だった。就職活動中の恋人・田暁慧とともに、早くお金を稼いで家を買い、結婚することが目下の目標だった。

 突然、深茂銀行上海支店支配人の戴其業が、不慮の交通事故で亡くなった。葬儀で顔を合わせたのは、かつて大学で戴其業に金融学を学んだ四人の中年男性。四人のうち、趙輝、蘇見仁、苗彻の三人は、深茂銀行の同僚でもあった。出世頭は副支配人の趙輝だが、愛妻・李瑩を亡くしてから、一人娘の蕊蕊の幸せだけを願い、万事質素に控えめに暮らしていた。目下の心配事は、蕊蕊の眼病が悪化し、失明の恐れがあること。趙輝には、少年時代に命を助けられた呉顕龍という恩人がいて「大哥」と呼んで家族同様に付き合っていた。今は顕龍集団という不動産会社の会長である呉顕龍は、蕊蕊のための募金を立ち上げ、多額の寄附集めに成功する。その裏に、何かのからくりがあることを趙輝はうすうす気づいていたが、何も言えなかった。

 浜江支店の副支配人・蘇見仁は直情径行、かつて趙輝と李瑩を争って破れたことを、今も根に持っている。その後も恋多き人生を送っており、程家元は蘇見仁の隠し子だった。苗彻は深茂銀行の監査部門に所属し、義に厚く、理非を重んじる態度から「苗大侠」と仇名されている。趙輝とは家族ぐるみの親友。

 最後の一人である謝致遠は、遠舟信託という信託会社の総裁である。手段を選ばない経営で事業を拡大しており、趙輝の弱みを握って、深茂銀行の資金を吸い上げようと画策していた。そのため謝致遠が用意したのは、趙輝の亡き妻・李瑩に瓜二つの子連れシングルマザーの周琳。謝致遠の指示に従って、趙輝に近づく周琳だが、趙輝は警戒心を緩めない。かえって、たちまち周琳に惚れてしまう蘇見仁。しかし周琳の気持ちは趙輝に傾き、二度目の失恋を味わう蘇見仁。怒りのあまり、蘇見仁は趙輝の車に隠しカメラを仕掛け、ついに趙輝が呉顕龍に不正な便宜を図っていた証拠を入手する。

 中年男女の恋模様はひとまず置いて、謝致遠は、違法行為が露見して牢獄入りとなる。謝致遠の妻・沈婧は、復讐のため、趙輝と呉顕龍に近づく。蘇見仁のことは早急に「始末」させた呉顕龍だったが、沈婧の甘言には騙され、手を組む約束をする。

 その頃、趙輝の勧めで監査部門の苗彻に師事していた陶無忌は、次第に趙輝の不正の証拠に迫っていく。そして、ついにその訴えは党の紀律検査委員会の取り上げるところとなる。絶対絶命に追い込まれた趙輝は自殺を企てかけるが、周琳と蕊蕊、そして陶無忌の説得によって思いとどまり、静かに連行される。

 私は、日本語でも金融関係の用語に疎いので、まして中国語にはなじみがなく、序盤は何が起きているのか理解するのに苦労した。終盤は盛り上がって、まあまあ面白かったと思う。主な登場人物は、生き馬の目を抜く金融業界で生きる人々だが、田暁慧の母親は、ふつうの中年婦人であるにもかかわらず、娘のために投資に手を出して稼ごうとする。はじめは安心できる商品で満足していたのだが、株価(証券?)の上下動に熱くなって、ついに全財産を失ってしまう。しかもその価格を操作していたのが、叔母の沈婧に抱き込まれた田暁慧だったという皮肉。母親の命まで失いかけて、田暁慧は真人間に立ち戻る。こういう悲劇は、おそらく実際にあったのだろうな。本作(原作小説)の設定は2018年頃だというが、中国の投機加熱のニュースは何度も見てきた。現在もその傾向は続いているようだ。

 普通の人間を不正に踏み切らせるのも家族(あるいは家族に近い親密な人間関係)なら、立ち戻らせるのも家族というのは、中国人には納得のいく描き方なのかなと思った。オジサン俳優陣の中では、珍しく悪人役の涂松岩(謝致遠役)、可愛げのあった馮嘉怡(謝致遠役)がよかった。苗彻役の王驍は役得。しかし、上海のサラリーマンは、あんなきっちりした背広姿で出勤し、仕事が終わると日本風あるいは韓国風の居酒屋で酔いつぶれてるのか。もはや映像では日本社会と区別がつかなくなっている。

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