見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2012秋@関西:弘法大師行状絵巻の世界(東寺宝物館)

2012-10-31 23:00:00 | 行ったもの(美術館・見仏)
東寺(教王護国寺)宝物館 秋期特別公開『弘法大師行状絵巻の世界-東寺と弘法大師空海-』(2012年9月20日~11月25日)

 10月初めに関西に来た時、この展覧会の前期を見ようとして、タッチの差で入館できなかった。心残りだったので、再チャレンジ。南北朝時代に作られた『弘法大師行状絵巻』12巻を、前後期に分けて全巻展示する展覧会である。10/22から後期が始まっている。

 後期は巻7~12の展示だというが、行ってみると初めに、いきなり巻9「講堂起工」の場面が開いていて、とまどう。奥に入ると巻8「東寺勅給」と巻7「高野結界」。巻8は、隣りに江戸時代の模本(金蓮院本)が並べてあったが、ものすごい改変というか再構成が施してあって、比較が面白かった。カメラ目線の牛が妙にデカいし、板間が全面畳敷きになっているし、装束も建築も全体に美々しく派手になっている。朱塗りの「朱」色もずいぶん違う(模本はオレンジ色に近い)。

 2階に上がると、巻10、11、12。巻7と10~12は、キャプションに「重要文化財」の表示がなかったので、はじめ、原本なのか模本なのか、よく分からなかった。というのも『弘法大師行状絵巻』といえば、原本にしろ模本にしろ、前半の空海入唐の場面を展示するのがお決まりで、後半の図像を見た記憶が全くなかったのだ。巻11は、承和10年の「東寺潅頂」の巻で、開いてる場面だけで、ざっと100人を超す華やかな大行列が続く。左の先頭は楽人たち(左右、オレンジと緑の装束)、続いて束帯姿の公家、僧侶は数人ずつ異なる色の袈裟を付ける。輿にかつがれた実恵。供奉の僧と童子が従い、見物の人々がこれを追う。巻12は、寛治2年の白河院の高野山臨幸だという。院は、丑の刻(午前2時)に高野政所を出立し、徒歩で登山したという。では、松明を持った侍臣たちに案内される、紫の装束の貴人が白河院か。まだ法体ではないんだな。

 おなじみの絵巻前半を見るより、かえって面白かったかもしれない。前期に観覧できなかったのは、結果的にラッキーだったのかも、と宝物館本尊(?)の千手観音像に感謝しながら、雨あがりの京都を後にした。
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2012秋@関西:宸翰(しんかん) 天皇の書(京博)

2012-10-31 21:49:52 | 行ったもの(美術館・見仏)
京都国立博物館 特別展覧会『宸翰(しんかん)天皇の書-御手(みて)が織りなす至高の美-』(2012年10月13日~11月25日)

 企画を知った時から友人と「渋いよね~」と言い合っていた。臆面もなく、こういう展覧会を開いてしまう京博が大好きである。分かりやすい「鑑賞ガイド」を置いたり、いろいろ工夫をしているけれど、どう考えても入館者数狙いの企画とは思えない。

 構成は、まず「宸翰のかたちと種類」で、時代を無視して名品に触れ、典型を学ぶ。後陽成天皇の大字「龍虎」「梅竹」は分かりやすくていいなあ。→次、早くも「書の手本 三筆と三跡」。空海の平素の走り書き(六行分)の断簡が美しくて見とれる。行成の『書簡(本能寺切)』は「水」や「楽」の字が優美で好き。「伝・行成筆」ばかり見ていると、印象が混乱してこのひとの真価が分からなくなってしまう。意識して真筆だけ見るように心がけたい。ここは同時代(平安前期)の天皇の宸翰として、後朱雀天皇の短い消息が展示されているが、これともう1点しか伝わらないそうだ。真面目そうな人柄のしのばれる筆跡である。「当今御筆 長久五年」という添え書きも同時代人によるのだと思うと、感慨深かった。

 次「宸翰様のはじまり」→「きらめく個性」と続き、嵯峨、高倉、後白河、後鳥羽、花園…と、書風も人柄も(治世の有り様も)個性豊かな天皇が次々登場。嵯峨天皇って「三筆」の一人に数えられているけど、『光定戒牒』が唯一の遺墨なのか。楷書・行書・草書を自在に行き来する見事な筆跡だが、巧みすぎて厭味に感じられるのは、乾隆帝みたいだ。近衛家熈がこれを双鉤填墨で写しているが、臨模にしか見えない。すごい。

 私は高倉天皇の「唯一の遺墨」だという消息に惹かれた。異母兄の守覚法親王に宛てたもので、平明で穏やかな筆跡である。身内宛てのせいか、癖のある書体を隠そうとしていないところに好感が持てる。

 後白河院は例の『文覚四十五箇条起請文』、後鳥羽院も『御手印置文』。後白河院の手形が、長い指を行儀よく揃えているのに対し、後鳥羽院は、指の間を広げて、ぺたりと両手を押しあてているのが、なんだか生々しい(死の直前だったと言うしな)。花園天皇の書風はいいな~。

 中央の大展示室では「書の達人 伏見天皇」を特集。和漢の書を自在にこなしたというが、前期は漢文が目立つ。後期(11/6~)は、もう少し仮名文字が増えるようだ。ただし、小野道風筆『屏風土代』と伏見天皇による臨模を並べて見ることができるのは前期のみ。なぜか、漢詩の順序が一致しないのが不思議だった。

 後半「個性を受けつぐ」→「新しい書を求めて」は南北朝に入る。後醍醐天皇を筆頭とする「情熱の赤」の南朝の書風、「理知の青」の北朝の書風が合体して「個性の紫」を生み出す、という見立てが面白かった(いま記憶で書いているので、間違っていたらすみません)。私は、光厳、崇光など北朝の書をいいと思った。どんな生涯をすごし、どんな事蹟を残した天皇か、よく知らなくても、遺墨を見ていると、不思議になつかしく感じられてくる。

 最後の「新時代の書」は、江戸から一気に近代まで。大正天皇の一行書「仁智明達」が素晴らしくいい。床の間に飾りたい。最後は昭和天皇で〆る。

 あまりに面白くて、時間の経つのをすっかり忘れた。非常に多くの宸翰を残している天皇もいれば、わずか1点、または数点しか残していない天皇もいるんだなあ、と初めて知った。時代によるわけでもなく、必ずしも生涯の長さや書の巧拙によるわけでもないらしい。それと、仁和寺が「天皇家のアーカイブ」として果たしてきた役割の大きさを感じた。

 開館(9:30)とほぼ同時に入ったのだが、気がつけばもう12時過ぎ…。がーん。大津歴博行きは断念。強くなってきた雨空を見ながら、次の行き先を考える。
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2012秋@関西:蹴鞠 Kemari(天理参考館)

2012-10-30 22:40:52 | 行ったもの(美術館・見仏)
天理大学附属天理参考館 第67回企画展『蹴鞠 Kemari』(2012年10月3日~12月3日)

 正倉院展に行って(仏像館に寄って)、大和文華館に行って、あと1ヶ所くらい行けるだろうと思っていたとき、この企画展を見つけて、久しぶりに天理に行くことに決めた。同館3階の企画展示室を使って行われている展示で、出品リストには文物80件余+文書約50件が挙がっているが、それほど大規模な感じはない。ただ、めずらしい資料が多くて、面白かった。

 まず、蹴鞠(けまり)の鞠。二枚の円形の鹿革を馬革の帯で縫い合わせて括り、楕円球(窪みの少ないひょうたん形)を作る。軽くて柔らかく、中空なので、強く蹴るとへこむが、腰(繋ぎ目)を軽く叩くと戻るのだそうだ。以上、図録の解説から。

 沓は鴨沓(かもぐつ)という。平たい爪先が鴨の嘴に似ているから、という説もあるそうだ。牛革製。爪先~甲の部分が黒や濃茶なのに対して、足首カバー(紐で縛る)は少し薄めの色で、ツートンカラーのショートブーツみたいである。とってもオシャレ。

 鞠水干とよばれる装束も華やかでオシャレだ。やっぱり、大試合に臨んで士気を高めるための、ユニフォームの感覚に通じるものがあるのかな。日常着の美意識とはぜんぜん違うし、歌舞伎などの演劇的なコスチュームとも異なる。まあ展示品は、さかのぼっても明治くらいまでなので、古代の沓や装束が、全く同じだったかどうかは分からないけれど。烏帽子は落ちないように懸緒で固定する。蹴鞠とは全く関係なく、懸緒を用いた烏帽子姿を、肖像画やドラマで見たことがあるが、あれは必ず「為蹴鞠門弟」という理由を立てて、飛鳥井家(蹴鞠の宗家)から免状をもらうのだそうだ。面白い~。

 フィールドならぬ鞠場(鞠庭)にも定めがあって、四隅には、松、柳、桜などの式木を植える。このとき、基本的には邪魔にならないよう、低い枝を落とすのだが、同時に、プレーを面白くするための枝ぶりの工夫があるそうだ。なかなか深い!

 私は、確か正月の下鴨神社で、実際の蹴鞠を1回だけ見たことがあり、思ったより俊敏な運動神経を要求されるスポーツなんだな、と驚いたことがある。多くの平安男子たちがハマった気持ちも分かるような気がした。

 ついでに久しぶりの常設展も、時間の許す限り見ていく。西アジアの考古品の中に、正倉院展を思い出す、花弁形の長杯やガラスの杯があって、興味深かった。
 
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2012秋@関西:清雅なる仏画(大和文華館)

2012-10-29 23:03:55 | 行ったもの(美術館・見仏)
大和文華館 特別展『清雅なる仏画-白描図像が生み出す美の世界-』(2012年10月7日~11月11日)

 白描図像が持つ特有の観賞性に注目し、その魅力を紹介するもの。白描図は大好きだ。西洋画のスケッチ(下絵)も好きだが、東洋絵画、特に宗教画(仏画)の場合、対象に強い「規範性」があり、絵師は己を殺して、これを正確に写し取ろうとする。その謹直な線がはらむ緊迫感が、なんともいえず、好きだ。ただし、規範に従う心持ちが強く出ている白描図もあれば、とりあえず全体を把握することを優先した結果、けっこう細部が「ゆるい」白描図もあって、これはこれで魅力的だと思う。

 「規範性」の美を感じたのは、たとえば『戒壇院厨子扉絵図像』(奈良博)。1巻1116.0cmつまり10メートルを超える大作で、展示ケースでは2場面しか見られないが、図録に縮小版ながら全場面(たぶん)が収録されているのが嬉しい。この図録「買い」だと思う。散華し、楽を奏する菩薩たち(?)の図が6枚あるが、やわらかな身のこなし、ほのかな胸のふくらみが女性的である。『千手観音二十八部衆図像』(東博)は、大画面をすきまなく埋め尽くした複雑な図像を丁寧に写している。

 一方で、思わず、笑いがこぼれてしまうのは、『火頭金剛曼荼羅』(MIHOミュージアム)とか『大威徳明王図像』(東博)とか…尊像自体は謹厳なのだが、脇役たち、眷族や邪鬼や化仏などに注目すると、どこかユーモラスで楽しい。とりわけ気に入ったのが『伽耶城毘沙門天図像』。左上の霊鷲山の図と、その隣に書き添えられた、鳥頭の羽人図がかわいい。個人蔵だというから、次に見る機会は、なかなか無いかもしれないなあ。

 いや、そもそも大きな博物館の所蔵品であっても、こうした白描仏画は、美術作品というより、その「資料」として扱われるから、展示機会は少ないのではないかと思う。文化庁の『阿弥陀鉤召図(あみだこうしょうず)』なんて、初めて見た!(※文化財オンライン

 出陳作品は、全てが白描図というわけではなく、集積された図像が、仏画制作にどのように活かされたか、という観点から、彩色仏画や、複数の図像から再構成されたとおぼしき仏画も紹介されている。根津美術館の『十二因縁絵巻』には嬉しい再会。好きなんだ、この作品。金剛峯寺蔵『善女龍王像』のような名品もあれば、大津絵みたいに素朴な可愛さ全開のもの、なんだこれは?的な構成(天台大師・伝教大師・慈覚大師を山水図に配置)もあり、面白かった。ただ、作品の保存に配慮した会場の照明だと、よく見えないものもある。図録がGETできてよかった。『金胎仏画帖』や『華厳五十五所絵』は、現在、各館・個人に分有されているものを集めて通観できる機会となっており、その点でも貴重な展覧会である。

 追伸。近鉄の車内で、同館「無料招待デー」(PDFファイル)の広告を見かけた。やるなあ。平日なので、来られる人は限られると思うが、これで「また来てみよう」と思うファンを少しでも獲得できれば、安い広告料かもしれない。

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2012秋@関西:第64回正倉院展(奈良博)

2012-10-28 23:49:21 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良国立博物館 特別展『第64回 正倉院展』(2012年10月27日~11月12日)

 今年はやめておこうかなあ…と思いながら、やっぱり行きたくなって、週末スケジュールを調整して、飛び出していく。今回は開催初日に観覧。昨年と同じで、朝8時半頃に行って、テラスの行列の三折目に並んだ。これ以上早く並んでも、あっと言う間に会場内がいっぱいになってしまうので、同じことだと思う。今年の見ものは琵琶とか瑠璃の坏とか、あまり小さいものではないので、人だかりの後ろからでも大丈夫だろう、とも予測。

 第1室。最初のブロック(南側)は大混雑なので、突き当たり(東端)の琵琶あたりから行こうかな、と思って、ぎょっとした。テレビカメラが入っていたのだ。初日の朝って、マスコミ取材が入るのか。そこは避けて、折り返しの後半ブロック(北側)から見始める。初めに『木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)』。見覚えがあると思ったが、双六盤にしては罫線がないなあ、と初めて気づく。別の展示ケースには、『黄瑠璃双六子(きるりのすごろくし)』をはじめ、緑、朝緑、藍など色ガラス製の双六の駒。各色15枚ずつ伝わっているが、藍色は1枚しか伝わらないそうだ。今年の大河ドラマ『平清盛』を思い出してしまうが、劇中の双六の駒よりずっと小さい。シャツのボタン、あるいは肝油ドロップくらい(←今でもあるのかしら)。

 さらには『双六筒(すごろくのつつ)』『双六頭(すごろくとう=サイコロ)』も、ぬかりなく取り合わせてあって、感激した。双六筒には、よく見るとタンポポのような草花が金銀で描かれていたが、華美ではなくて、よく使いこまれた感じがした。聖武天皇も双六に興じられたのだろうか(後白河法皇みたいに)。

 図録の解説を読んだら、大中小計6個のサイコロの1つ(小)は、表裏の目の組み合わせが7になっていないという。え!裏面に鏡が用意されていたのだから、ちゃんと確認しておけばよかった。

 ここで混雑の中、前半ブロックに立ち戻る。今回は楽器が中心で、『甘竹簫(かんちくのしょう)』『鉄方響(てつのほうきょう)』は、実際に演奏してみたときの録音が会場に流れている。『螺鈿紫檀琵琶(らでんしたんのびわ)』は、パネルの拡大写真を見たら、螺鈿で表わされた迦陵頻伽が驚くほど可愛い(図録にも掲載)。『紅牙撥鏤撥(こうげばちるのばち)』は、華麗な細工もだが、その薄さに驚く。

 第2室の展示物は『瑠璃坏(るりのつき)』だけで、最前列で見たい人は列に並ぶ方式。ポスターで見るより濃い印象の藍色である。そして銀製の台脚・受座の細工が素晴らしい。西アジアの産であることは間違いないだろうけれど、よくまあこの極東の地まで伝わり、今日まで損なわれずにきたものだ。今回は、関連してガラス製品の展示が多かったが、『雑色瑠璃(ざっしょくのるり=さまざまなガラス玉)』も面白かった。

 あと『密陀彩絵箱(みつださいえのはこ)』が面白かった。躍動感あふれる文様をよく見ると、口を大きく開けたユーモラスな怪鳥・怪魚が描かれている。正倉院文物の装飾って、キレイ・カワイイだけじゃないんだな、と思った。

 いま、奈良博のサイトで「出陳品一覧」(PDFファイル)を参照しながら記事を書いていて気づいたが、ネット上の「出陳品一覧」には「前回出陳年」が載っていて、とても参考になる。しかし、会場内で配られていた印刷版の「出陳目録」だと、このデータがない(初出陳に○だけ)。どうしてだろう?

 『螺鈿紫檀琵琶』は、前回出陳が2000年とあって、思わず自分のブログを検索したら、2010年の『螺鈿紫檀五絃琵琶』とも、2009年の『紫檀木画槽琵琶』とも別物なんだな、ということが分かった。正倉院には、五絃琵琶1点と四絃琵琶は5点が伝わるらしい。「出陳品一覧」リストを見ると、2000年以降に1回でも出陳されているものは稀だということが分かる。やっぱり20年くらい通い続けないと、宝物の全貌は見えてこないんだな…。
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川越祭り2012

2012-10-25 20:44:57 | なごみ写真帖
10月20日、川越祭りの宵山に行って来た。市制施行90周年を記念して、29台の山車が全参加。ふーんとしか思わなかったが、2010年の参加が17台という自分のメモを読んで、今年は異例に盛大だったんだな、とあらためて認識した。

※相変わらず、おキツネ様が好きな私。西小仙波町の素戔嗚尊の山車。


※同じ素戔嗚尊の山車なのに、違う衣装のおキツネ様が乗っている。あれっ? お色直しをするのか、それとも1台に1匹(?)ではないのか。


※松江町一丁目の龍神の山車。なぜかエテ公。


※末広町の高砂の山車。へうげものを思わせる風貌。


※仲町の羅陵王の山車(県指定文化財)。乗って動いているところを初めて見たー!


最上部に人形を乗せずに曳行している山車が多かったように思う。宵山って、そういうものだったらかしら? 「弁慶の山車」とか、せっかく行き合ったのに…。
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東京大学ホームカミングデイを覗きに行く

2012-10-24 23:20:10 | 行ったもの2(講演・公演)
○東京大学 第11回ホームカミングデイ(2012年10月20日)

 最近は、どこの大学でも「ホームカミングデイ」と称して、卒業生を呼び込む行事が盛んである。私は東大の卒業生ではないのだが、面白そうな展示や講演がいくつもあるので、覗きに行ってみることにした。校門ではプログラムを配っているが、別に記帳を求められるわけでもなく、ふらりと中に入ることができる。

特別フォーラム『グローバル化する世界で学ぶ、働く、生きる』(12:30~14:00、於:安田講堂、講師:ロバート・キャンベル、村山斉)

 開始時間に少し遅れてしまったので、檀上では濱田純一総長が、最近の東大の動きについて話していた。それから赤門学友会副会長(会長に代わり)の挨拶があり、両講師と、モデレーターの江川雅子理事・卒業生室長が登壇した。日本の大学で日本文学を教えるアメリカ国籍のキャンベル氏と、アメリカを中心に活躍する宇宙科学者の村山氏に、グローバルな働き方をするようになったきっかけを聴く。

 どちらの先生の話も面白かったが、まずはキャンベル先生から。最初の来日先は九州大学だった。そこで中野三敏先生に師事し(そうだったのか!)九州各地の大名家や旧家に残された古本の調査に参加する。そのとき、大学の図書館や研究室で学んできた日本文学史というものが音を立てて崩れ去る体験をし、フィールド・ワークの必要を痛感して、日本に残ることを選択した。

 キャンベル先生によれば、アメリカの日本文学研究は「世界文学」の中で、○○文学や××文学との相関性を考えることに主眼を置いているという。日本の大学で行われているような、一つの作品(あるいは資料)を徹底して読み解くような研究は、研究以前の「作業」と看做されている。しかし、お互いが、その違いから学ぶことは多い。なるほど。キャンベル先生の「日本文学論」というより「日本文学研究論」、もっと聞いてみたいと思った。

 村山先生は、自分が異文化に飛びこんでいった体験談も面白かったが、江川理事から「東大に優秀な研究者を招聘するためのアドバイス」を求められての答えがさらに興味深かった。まだまだ日本の社会は、外国人が生活するにはハードルが高いという。銀行、保険、住宅など…。そこで、村山先生は大学事務に任せておかず(おけず?)自分の所属する研究機構のホームページに、来日した外国人研究者が直面するであろう困難と、その乗り切り方を掲載しているという。

 モデレーターが、事前に準備してきた質問から離れない紋切り型の進行だったのが残念だった。お二人とも、自由に暴走させたら、もっと面白い話が聞けたと思う。

■社会科学研究所 講演会 坂野潤治名誉教授(社会科学研究所元所長)『西郷隆盛と明治維新』(15:00~17:00、赤門総合研究棟5階センター会議室)

 当ブログ「読んだもの」に、たびたびご登場いただいているとおり、私は坂野潤治先生の愛読者である。お姿を拝するのは、坂野先生が所長だった当時(1995年頃)以来、およそ15年ぶりで、よろよろと覚束ない足取りで登場されたときは、ああ、お歳を召されたなあ、と思った。いまどき珍しい手書きのレジュメ4枚が配られたが、「これ以上書くと、翌日腕が上がらないんだよ」と嘆いていらした。

 しかし、話し始めると、著書さながらに明晰。西郷隆盛は「議会主義者」「開国・攘夷棚上げ論者」「中央集権国家論者」であったという、近著『日本近代史』(ちくま新書)でも展開されていた、ユニークな西郷像を語り、征韓論や西南戦争における西郷しか論じない日本近代史は「的外れ」であると批判する。

 「ユニークな」と評したが、これは著者の独創ではなく、勝田孫弥著『西郷隆盛伝』(明治27-28年)がタネ本だそうで、「最近の学者は新しい文献ばかり読んで、さかのぼって古い文献を読もうとしない」というのは、含蓄あるお言葉だった。この日のお話は、また新書(?)出版の予定があるらしい。楽しみ!

 講演会のあとの懇親会で、少しお話をさせていただき、社研および近隣の研究所(社情研=現・情報学環、明治文庫)の蔵書の豊かさ、研究環境の素晴らしさについて「あれだけ資料が揃っていて本が書けないのは、よほどの怠け者だ」とおっしゃっていた。しかし、東大をリタイアした現在、「昭和10年代の研究を続けるには身近に資料がなくなっちゃったから、じゃあ幕末期の資料なら自宅にあるから、幕末研究を始めたんだ」と意外な内幕も…。

※当日のレジュメの一部

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2012秋、デパートの展覧会(東京)

2012-10-24 21:34:55 | 行ったもの(美術館・見仏)
デパートのイベントスペースで開催される展覧会にも面白いものがある。この秋、行ったものメモ。

■松屋銀座店 『ベルサイユのばら展』(2012年9月13日~24日)

 1972年から73年にかけて「週刊マーガレット」に連載された池田理代子作「ベルサイユのばら」の連載開始40周年を記念する展覧会である。第1章・コミック、第2章・舞台(宝塚)、第3章・映像(アニメ)、第4章「そして今」では、朝日新聞土曜日別冊朝刊に連載中の4コマ漫画「ベルばらKids」(へ~知らなかった)が取り上げられていた。私は、雑誌連載当時、小学6年生から中学1年生で、ジャスト・ベルばら世代だと思っている。もっとも高校生の先輩もコミックを読んでいたし、ずっと下の後輩も宝塚にハマっていたなあ。観客は、自分と同世代が多いかと思ったら、もっと上の白髪のおばあさまもいらっしゃったし、学生ふうの若い女子も熱心に見ていた。男性の姿もけっこうあって「あなたとベルばらのつながりは?」って聞いてみたくて仕方なかった。

 宝塚のコーナーは、衣装、ポスターなど品評しながら見ている人が多く、コミック原画はセリフを読みながら、じっと見入っている人が多かった(私も)。思えば、名場面・名セリフの連続だったし、当時の少女マンガの常識を超えるようなキャラクターもたくさん登場していた。→公式サイト

■新宿タカシマヤ 『辻村寿三郎 人形展 平家物語縁起~清盛、その絆と夢~』(2012年10月4日~15日)

 むかしから「平家物語」好きの私は、今年の大河ドラマ『平清盛』を面白く見ている。各地で開かれる関連イベントも楽しませてもらっている。春に目黒雅叙園で開催された『人形師 辻村寿三郎×平清盛』展も見に行った。寿三郎が5年の歳月を費やした「平家物語縁起」全80作品が集結、というコピーに釣られたのである。しかし、第1部(2012年3月16日~4月22日)を見に行ったら、その半数程度しか展示されていなくて、第2部も見ないと全貌が明らかにならない(その代わり、全くテーマの異なる人形作品が、かなりの数、展示されている)という、ムゴイ構成で、がっかりした。

 その点では、今回の展覧会のほうがずっといい。「平家物語」の思いつく場面・主要登場人物は、ほぼ網羅されているように感じたし、「付録」の展示も不動明王や仏像シリーズで、きちんと平仄が合っている。熱病の清盛は、着物の前を大きくはだけ、裸の胸に大きな数珠を垂らし、右手には剣のようなもの(法具か)を握っている。水分を失い、黒ずんだ顔に、らんらんと光る眼(まなこ)。私は今年の大河ドラマの「汚い」と言われ続けた清盛は、この寿三郎の清盛像に、かなり影響されているのではないかと思うのだが、どうだろう。→NHKプロモーション。図録も購入。

■日本橋タカシマヤ 『山本高樹 昭和幻風景 ジオラマ展』(2012年10月18日~30日)

 連続テレビ小説「梅ちゃん先生」のオープニングに作品が使われたことで、一躍、人気を博したジオラマ作家・山本高樹氏の展覧会。私は、雑誌「荷風!」の表紙写真で覚えた作家さんである。会場にも、四角ばった風貌の荷風先生が登場する、エロな昭和の街角ジオラマがいくつも並べられていた。小学生くらいの女の子が、連れ込み宿の前でアンニュイに客引きをする娼婦のお姉さんを興味深げに眺めているかと思えば、一方でおじいちゃんが、お祭りや駄菓子屋の店先を食い入るように眺めていた。「そうよ、むかしは縁日の夜店といえばさ…」みたいな昔がたりに熱が入るおばさんたち。ジオラマって、楽しいんだよなあ。
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2012秋、特集陳列など(東京国立博物館)

2012-10-23 00:22:06 | 行ったもの(美術館・見仏)
まとめてメモしておく。

■本館・特別1室、特別2室 特集陳列『平成23年度新収品』(2012年10月10日~10月21日)

 江戸時代後期の画家、岡本秋暉(おかもとしゅうき)の作品が目立ったのと、他本にあまり類のない図像を含む『新百鬼夜行絵巻』の模本が面白かった。



■本館・16室(歴史資料) 東京国立博物館140周年特集陳列『徳川本の世界-多様性とその魅力』(2012年9月11日~11月4日)

 東博が所蔵する18,000件ほどの和書のうち、12,000件あまりは、昭和18年に徳川宗敬(むねよし)氏(一橋徳川家第12代当主)から寄贈されたものだという。平成21年度(2009)から全収蔵品の基本データを整備を行っているそうだが、基本調査完了のあかつきには、ぜひ東京大学総合図書館が所蔵する南葵文庫との比較をやってほしい。南葵文庫は、徳川頼倫(よりみち)氏(紀州徳川家第15代当主)が寄贈したもの25,330部(96,101冊)で、「紀州徳川家伝来の2万冊」を含む、と紹介されている。

・『歴代御陵図享保大和改メ之部』より天武天皇御陵の図


・『毛氈製造手続覚書』


■本館・特別1室、特別2室 東京国立博物館140周年特集陳列『秋の特別公開 贈られた名品』(2012年9月15日~30日)

 上記の期間、全館的に行われた140周年記念イベント「秋の特別公開」の中心企画。数多い寄贈品の中から国宝・重要文化財の指定を受けた優品を選りすぐって公開するという、ゴージャス企画だった。しかも、館蔵品なので、写真撮り放題である。いや、館蔵品でも国宝室は撮影禁止だったような気がする…。

 なので、畏れ多くも『平治物語絵巻・六波羅行幸巻』もカメラに収めてきたので、ここに貼り付け。 





■本館・11室(彫刻) 東京国立博物館140周年特集陳列『館蔵仏像名品選』(2012年9月25日~12月2日)

 いつも館蔵品と寄託品で展示を構成している同室だが、今回は館蔵の優品13件(19体)だけで構成。そのため、あまり見慣れないお姿もあって嬉しい。しかし、同時に開催されている「トーハク仏像選手権」は、国立博物館としてどうなの?と問いたくなる私は頭が固いのか…。こんなことをしていると、お寺さんに信用されなくなるんじゃないかと思うのだが。「1089ブログ」の記事は、学芸員ではなく広報室の方が書いていることが救いではある。
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地域と時代の個性/中国 王朝の至宝(東京国立博物館)

2012-10-22 22:52:22 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 日中国交正常化40周年 東京国立博物館140周年 特別展『中国 王朝の至宝』(2012年10月10日~12月24日)

 日本の国宝・重文に当たる「一級文物」約60%というという大型展覧会だが、日中関係の冷え込みの影響か、あまり話題になっていない。むしろ同時開催の『出雲』展のほうが混雑している様子だった。まあそれは、私にはありがたいことなので、京博で観覧した『出雲』展は後日にまわし、平成館に入る。

 この展覧会は、「同時代に栄えた2つの王朝の代表的な文物を対決させるという新たな手法」によって、6つの章が設けられてる。すなわち「蜀と夏・殷」「楚と斉・魯」「秦と漢」「北朝と南朝」「長安(唐)と洛陽(隋)」「遼と宋」。完全な同時代に並存・対峙していた2つの王朝もあれば、むしろ時系列的に継承(簒奪?)関係の王朝もあるのだが、まあいいことにするか。

 それにしても、あの広大な中国大陸の各地から、これだけの名品を集めてくれたことに感謝する。省級博物館を挙げるだけでも、河南博物院、湖北省博物館、湖南省博物館、山東博物館、陝西歴史博物館、山西博物院、遼寧省博物館、浙江省博物館…。毎年、10日以上の夏休みを中国旅行に費やしているが、このうち1つか2つを訪ねるのがせいぜいである。”二巡目”を楽しめるのは、いつのことだか。

 これだけ広範な地域の多様な文物を眺めると、その違いが「時代差」なのか「地域差」なのか、よく分からなくなる。いいなーと思ったのは「殷」の青銅器のシャープな造型。たまたま、そういう器だけ集めたのかもしれないので、早計な判断はよくないが、うにょうにょした生命感やどる南方の造型とは、一線を画す印象。手前の照明によって背景に浮かび上がった「爵」のシルエットが美しかった。

 一方で、原始的な生命感の躍動を感じる「楚」の漆器の造型も好きだ。荊州博物館は2011年に行ったばかりなので、これ見たかもしれない、と思った文物もいくつかあったが、フォトチャンネルに上げた写真と見比べると、羽人も鎮墓獣も微妙に異なる。たぶん類似の文物を何種類か所蔵しているのだろう。まさか日本には持ってこられまい、と思っていた服飾資料も来ていて、びっくりした。薄汚いボロ切れだと思って、多くの観客がスルーしていたが、前4-前3世紀の絹織物がここまで残っているのは奇跡だと思う。現地の博物館の薄暗い照明(確か職員が調整中だった)の下では分かりにくかった刺繍もよく見えて感激したが、図録の写真図版でさらに感激。

 「秦」の、絡み合いながら地を這う2匹の『龍』も気に入った。ブルドッグみたいに鼻のつぶれた丸顔。四肢が失われているので蛇かと思った。また石彫かと思ったら青銅製だという。本来は、左右に2匹ずつ計4匹が尻尾を絡み合わせる造型だったらしいが、半分は失われている。図録を読んだら、1993年に盗難車の中から発見されたそうだ。ううむ、謎の文物。始皇帝陵の跪射俑、跪俑(水禽の飼育者?)も初来日。跪く動作に合わせた、衣服の皺の表現が細かいなあ、と感心した。「秦」「漢」以降の文物は、全体に人間味が増して、理解しやすくなる。

 そして、最後が特別出品・南京市博物館所蔵の阿育王塔(北宋時代)。公式サイトに「高さ119センチ」と書いてあるのだが、こんなに、遠目にも目立つほど、巨大だとは思わなかった。奈良博の『聖地寧波』展で見た銀製の阿育王塔より、ひとまわり大きいのではないかと思う。そして近づいて、技巧の精緻さに瞠目する。面白いなあ…さまざまな仏伝説話の場面、仏像、霊獣、吉祥句「皇帝万歳」「重臣千秋」「天下民安」「風調雨順」などが刻まれている。登場人物は純中国風でなく、長い手足がどことなくインド風。逆さに象を捧げた人物は何者だろう? 2008年、南京市長干寺出土。2009年4月に公開されたときの写真が、新華網(中国語)のサイトに残っていた。

 このほかにも本展には、2000年代に発見された文物がいくつか紹介されている。2001年に成都市青羊区金沙村で発見された「蜀」の金沙遺跡はそのひとつ。私が四川省を旅行したのは2001年だから、同遺跡の文物は見ていないよなあ、と思ったら、2004年、東京都美術館で『よみがえる四川文明 三星堆と金沙遺跡の秘宝展』という展覧会を見た記録があった。うわー覚えていない。90年代出土・発見の文物はさらに多数。まだまだ何が掘り出されるか分からない国である。

展覧会公式サイト

 中国好きとしては、特集陳列『尚意競艶-宋時代の書-』(2012年10月2日~11月25日)も楽しめてよかった。台東区立書道博物館との連携企画である。

 同時開催の特別展『出雲-聖地の至宝-』(2012年10月10日~11月25日)は見ずに帰ってきたのだが、両展に限り、東博パスポートは「入場スタンプ枠1つ」で観覧することができるという小さな注意書を、さっき、東博のサイトで見つけた。じゃあまた行ってみるか、と現金なことを考えている。
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