〇三井記念美術館 特別展『小村雪岱スタイル-江戸の粋から東京モダンへ』(2021年2月6日~4月18日)
2020年に没後80年を迎えた小村雪岱(1887-1940)は、商業美術の世界で時代を先導する足跡を残した「意匠の天才」。装幀や挿絵、舞台装置画、貴重な肉筆画や版画など、江戸の粋を受け止め、東京のモダンを体現した雪岱の作品を総合的に紹介する。
私が初めて雪岱の作品を見たのは、ブログを遡ってみたら、2009年の暮れ、埼玉県立近代美術館の企画展『小村雪岱とその時代』だったようだ。ブログには、その前に小学館の『全集日本の歴史』14巻『「いのち」と帝国日本』の月報で、雪岱の『青柳』に出会ったことも書き留めてある。その後、2018年の川越市立美術館の大規模な特別展『生誕130年 小村雪岱-「雪岱調」のできるまで-』にも行っているので、本展の展示品は、だいたい見た記憶のあるものだった。
冒頭には、雪岱が装幀した泉鏡花の『日本橋』が展示されていて、堂々と里帰りを主張しているようで微笑ましかった。これ、27歳の雪岱が鏡花に抜擢された最初期の仕事なのだな。若さと瑞々しさがあふれ、心浮き立つようなデザイン。鏡花と組んだ装幀の仕事はどれも好き。『青柳』や『雪の朝』など、江戸情緒あふれる情景の色やかたちを大胆に単純化した、モダンな木版多色刷も雪岱の独壇場に感じられるが、多くは本来、肉筆画で、雪岱の没後(1941年から1943年頃)、遺された稀少な雪岱の肉筆画が戦災により失われてしまうことを危惧した人々によって版画化計画が推進されたのだそうだ。知らなかった。
本展には、あまり見たことのなかった雪岱の肉筆画(絹本着色、紙本着色)を数多く見ることができて興味深かった。鳥や虫など小さな生きものに目を向けた作品もあるけれど、やっぱり『月に美人』『こぼれ松葉』などの美人画が好き。鈴木春信の錦絵がさりげなく並べてあると、影響を受けたというより、同タイプの女性が好みなんだなと思う。興味深かったのは、模写習作で、『源氏物語絵巻・宿木』や法隆寺金堂壁画の観音菩薩図を写したり、法華寺の十一面観音菩薩像をスケッチしたりして、完成品の商業美術とは、ずいぶん違った印象を受けた。
吉川英治『遊戯菩薩』をはじめとする時代小説の挿絵墨画は、主題こそ伝統回帰的だが、白と黒の使い方がものすごくモダン。舞台装置原画も数点あり。展示品は、一部の個人蔵を除き、清水三年坂美術館から来ていた。同館の2010年の雪岱展にも、駆け込みで無理やり見に行ったことを思い出す。あわせて清水三年坂美術館所蔵の蒔絵や七宝焼、現代作家の一木造の新作なども楽しむことができ、お得な展覧会である。