〇大倉集古館 特別展『浮世絵の別嬪さん-歌麿、北斎が描いた春画とともに』(2024年4月9日~6月9日)
本展は、いわゆる版画ではなく肉筆浮世絵に焦点をあて、17世紀の初期風俗画と岩佐又兵衛から始まり、菱川師宣、喜多川歌麿や葛飾北斎をはじめとした数々の著名な浮世絵師たちの活躍を、肉筆美人画を通じて幕末までたどる。また、艶やかで美しい春画の名品も合わせて紹介する。
大倉集古館には、そんなに熱心に通っているわけではないが、浮世絵をテーマにした展覧会は珍しいように思う。いま「これまでの展覧会」のリストをざっと見てみたが、関連するのは2007年の『江戸の粋』くらいだろうか。実は、今回の展示先品(約90件)、「大倉集古館」と記載されているのは1件しかなく、あとは他館からの出陳でなければ「個人蔵」なのである。大倉家の私的なコレクションなのか、全く違う所蔵者がいるのかはよく分からない。
無款の『遊楽図屏風』(17世紀前~中期)は秋の山野で音楽と散策を楽しむ男女を描く。高い位置で結んだポニーテールみたいな女性の髪型が近世初期らしくてよい。同じく無款で、立ち姿の別嬪さんをひとりずつ縦長の画面に描いた『役者と美人図』2幅は、いわゆる『寛文美人図』のカテゴリーに入ると思ったが、1幅は「役者」すなわち男性を描いている。また『邸内遊楽図』(摘水軒記念文化振興財団)の2図は、もっぱら若衆たちを描いており、作者あるいは制作依頼者の理想とする虚構の世界なのではないか、という解説が添えられていた。なるほど、江戸の「別嬪さん」は女性に限らないのだな、と納得した。
私は、頭髪を小さくまとめた小顔の女性の図がかわいいと思う。時代が下ると、左右を大きく膨らませた髪形が普通になり、遊女は、ごしゃごしゃと簪(芳丁/よしちょう、というのか)を前髪に指すようになるのはあまり好きではない。18世紀前期の、懐月堂安度や宮川長春はかなり好き。安度『立美人図』(千葉市美術館)には惚れ惚れした。肉付きのよい身体を大きくひねった姿態に匂い立つ色香がある。たっぷり着物を着込んで、首から下は一切肌を見せていないのに色っぽいのだ。
地下1階は「めくるめく春画の名品」の展示にあてられている。前期展示は9件で1件を除いて個人蔵。チェックはないが、15歳未満の鑑賞を制限する旨の掲示がされている。鳥文斎栄之『源氏物語春画巻』は、王朝風俗の男女が交歓する図だが、男性は全裸になっても烏帽子は脱いでいないので、笑ってしまった。国貞の『金瓶梅』は登場人物を日本ふうに置き換えたもの。やっぱり春画でも何らかのキャラ設定があるほうが、想像が広がって面白いんだろうな。