○朝日カルチャー公開講座《リレー対談》日本・アジア・世界'07
参議院選挙前日の土曜日、新宿・住友ホールで行われた、上記の公開講座を聴きにいってきた。企画者によれば、当初は、参議院選挙の結果を踏まえて、今後の日本の針路について語る予定だったが、国会の会期延長によって、図らずも投票日前日の対談となってしまった由。ただ、どの講師も、明日の選挙がどうなるかというような卑近な問題にはあまり触れず、もっと大きな構えで、日本・アジア・世界の本質的な課題を取り上げていたと思う。
■小森陽一×藤原帰一 日米安保体制と憲法問題
朝10:00からの対談だというのに、藤原先生、最初からハイテンションで飛ばしてくれて、面白かった。冒頭、小森陽一さんが、文学者らしく「我々のことばは、誰に届いているのか」というコミュニケーションの問題を提起したのに対して、藤原帰一さんは、精密な術語を用いて行われる学術コミュニケーションの意義と、多くの人に分かる言葉で語ることの重要性を同時に説いた。後者の営みがなければ、社会科学は痩せてしまう。しかしまた、「多くの人に分かることば」とは、多くの人の思い込みに絡め取られる危険性を持っているという。
そのあと、藤原さんが、戦後日本の政治、外交、平和運動のプロセス(直接の危機から解放されたとき、人々は発言を始める)を一気呵成に振り返り、適所適所で小森さんがまとめと注釈を入れる。実にいいコンビネーションで話が聞きやすかった。両氏は同じ東大の先生だが、「よく会うけど、話したのは初めて」だという。いや~また聞きたいな、おふたりの対談。
■藤原帰一×神野直彦 日米関係と日本経済の行方
講師陣の中で、私が、唯一、ご本人も著書も存じ上げなかったのが神野直彦先生。財政学を専門とする経済学者である。このコマでは、日本国内に広がる地域内格差の実態について話してくださったが、国際政治学者の藤原帰一さんとは、ちょっと話の接点を見つけられなかったようで、消化不良に感じた。
■高橋哲哉×姜尚中 「愛国心」教育と靖国問題の本質を問う
ここから午後のコマ。おふたりの対談を聞くのは何度目になるだろう。たぶん、両氏は、ご当人どうしも飽きるくらい(?)このテーマの対話を繰り返していらっしゃるのではないかと思う。なので、テーマの緊張感に反して、まったりした雰囲気の対談だった。ただ、指摘されていたことは、けっこう重要だと思った。靖国をめぐる対立が、賛成=保守ナショナリスト/反対=民主リベラルという二項対立でなくなってきている、という点である。
70年代の保守勢力は、A級戦犯合祀に反対しつつ、靖国神社の護持を訴えていた。ところが、90年代の保守勢力は、リビジョニスト(歴史修正主義)の極限であり、東京裁判自体の不当性を主張している。彼らは、昭和天皇の意図さえ、尊重すべきものと考えていない。グローバリズムの侵食、地域経済の疲弊によって、実体としての「パトリ(故郷)」が失われるとともに、理念としての「愛国」が頭をもたげているとも言える。
■姜尚中×神野直彦 東アジア情勢と日本の経済的役割
再び、神野直彦さん登場。姜先生は「今日は神野さんとお話できることをいちばん楽しみにしてきました」と挨拶。ほぼ初対面ということらしい。同じ東大の先生なのになあ。姜尚中氏は、政治学者であるけれど、いつ頃からだったか、地域社会の再生に非常に関心を抱いている、と語っていらした。それから、実際に株式投資をやってみた、という話も。そういう経済学への素直な関心(好奇心)によって、神野さんの学識と魅力が引き出され、非常に面白かった。
神野直彦さんのお名前を知ったのは、この日、最大の収穫。ぜひ著書を読んでみたい。このコマだったか、そのあとの質疑セッション(藤原、姜、神野氏が登壇)での発言だったか、姜尚中氏が、地域再生に努力している保守の人々と、もっと対話していきたいと語っていたのも印象的だった。やっぱり、経済(生活)を離れて政治(主義主張)だけを語るのは、危ういことかも知れないな、と思った。いろいろなお土産を胸に、19:00を過ぎた会場を後にした。
参議院選挙前日の土曜日、新宿・住友ホールで行われた、上記の公開講座を聴きにいってきた。企画者によれば、当初は、参議院選挙の結果を踏まえて、今後の日本の針路について語る予定だったが、国会の会期延長によって、図らずも投票日前日の対談となってしまった由。ただ、どの講師も、明日の選挙がどうなるかというような卑近な問題にはあまり触れず、もっと大きな構えで、日本・アジア・世界の本質的な課題を取り上げていたと思う。
■小森陽一×藤原帰一 日米安保体制と憲法問題
朝10:00からの対談だというのに、藤原先生、最初からハイテンションで飛ばしてくれて、面白かった。冒頭、小森陽一さんが、文学者らしく「我々のことばは、誰に届いているのか」というコミュニケーションの問題を提起したのに対して、藤原帰一さんは、精密な術語を用いて行われる学術コミュニケーションの意義と、多くの人に分かる言葉で語ることの重要性を同時に説いた。後者の営みがなければ、社会科学は痩せてしまう。しかしまた、「多くの人に分かることば」とは、多くの人の思い込みに絡め取られる危険性を持っているという。
そのあと、藤原さんが、戦後日本の政治、外交、平和運動のプロセス(直接の危機から解放されたとき、人々は発言を始める)を一気呵成に振り返り、適所適所で小森さんがまとめと注釈を入れる。実にいいコンビネーションで話が聞きやすかった。両氏は同じ東大の先生だが、「よく会うけど、話したのは初めて」だという。いや~また聞きたいな、おふたりの対談。
■藤原帰一×神野直彦 日米関係と日本経済の行方
講師陣の中で、私が、唯一、ご本人も著書も存じ上げなかったのが神野直彦先生。財政学を専門とする経済学者である。このコマでは、日本国内に広がる地域内格差の実態について話してくださったが、国際政治学者の藤原帰一さんとは、ちょっと話の接点を見つけられなかったようで、消化不良に感じた。
■高橋哲哉×姜尚中 「愛国心」教育と靖国問題の本質を問う
ここから午後のコマ。おふたりの対談を聞くのは何度目になるだろう。たぶん、両氏は、ご当人どうしも飽きるくらい(?)このテーマの対話を繰り返していらっしゃるのではないかと思う。なので、テーマの緊張感に反して、まったりした雰囲気の対談だった。ただ、指摘されていたことは、けっこう重要だと思った。靖国をめぐる対立が、賛成=保守ナショナリスト/反対=民主リベラルという二項対立でなくなってきている、という点である。
70年代の保守勢力は、A級戦犯合祀に反対しつつ、靖国神社の護持を訴えていた。ところが、90年代の保守勢力は、リビジョニスト(歴史修正主義)の極限であり、東京裁判自体の不当性を主張している。彼らは、昭和天皇の意図さえ、尊重すべきものと考えていない。グローバリズムの侵食、地域経済の疲弊によって、実体としての「パトリ(故郷)」が失われるとともに、理念としての「愛国」が頭をもたげているとも言える。
■姜尚中×神野直彦 東アジア情勢と日本の経済的役割
再び、神野直彦さん登場。姜先生は「今日は神野さんとお話できることをいちばん楽しみにしてきました」と挨拶。ほぼ初対面ということらしい。同じ東大の先生なのになあ。姜尚中氏は、政治学者であるけれど、いつ頃からだったか、地域社会の再生に非常に関心を抱いている、と語っていらした。それから、実際に株式投資をやってみた、という話も。そういう経済学への素直な関心(好奇心)によって、神野さんの学識と魅力が引き出され、非常に面白かった。
神野直彦さんのお名前を知ったのは、この日、最大の収穫。ぜひ著書を読んでみたい。このコマだったか、そのあとの質疑セッション(藤原、姜、神野氏が登壇)での発言だったか、姜尚中氏が、地域再生に努力している保守の人々と、もっと対話していきたいと語っていたのも印象的だった。やっぱり、経済(生活)を離れて政治(主義主張)だけを語るのは、危ういことかも知れないな、と思った。いろいろなお土産を胸に、19:00を過ぎた会場を後にした。