○久保亨『社会主義への挑戦:1945-1971』(岩波新書:シリーズ中国近現代史4) 岩波書店 2011.1
第4巻は、1945年の抗日戦争勝利から1971年まで。巻の後半は、いよいよ私にとっても同時代史となる。1971年というのは、やや唐突に感じられる区切りだが、文革路線の行き詰まりのもと、対外戦略の大転換(西側諸国との関係改善)が徐々に図られ、1971年10月、中国が国際連合への復帰を果たしたことをもって、本書は終わっている。
本書はシリーズ全6巻の中で、いちばん読んでいてつらい巻であり、いちばん分かりにくい巻ではないかと思う。以下、おおまかな流れを追ってみよう。
1945年の戦争終結と同時に「抗日」という大義名分が失われ、激しい政治抗争が始まる。当面は、毛沢東と蒋介石のトップ会談によって国民党の優位が確認されたが、国民党政府は、経済政策の破綻によって民衆の信任を失い、外交面もアメリカの東アジア政策の方針転換(日本の復興優先)によって行き詰まった。軍事的勝利を背景に地域政権の樹立を続けてきた共産党は、1949年10月、中華人民共和国の成立を宣言した。…この戦後の4年間って、日本では語られることが少ないが、思想文化界は非常な活況を呈し、47年憲法と呼ばれるきわめて民主的な憲法も制定されているのだそうだ。知らなかった。あと、人民共和国の成立とアメリカの政策転換の先後関係も、私は逆に認識していた。
「人民共和国は当初から社会主義をめざしたわけではない」という指摘にも、え?と思った。当初、掲げられた目標は、諸党派の連合による新民主主義であった。しかし、冷戦の拡大、台湾海峡の緊張、朝鮮戦争に伴う経済的負担などを受けて、52~53年、共産党政権は社会主義化の早期強行へと大きく舵を切る。目的は経済発展(急速な工業化の推進)と軍事力の強化だった。
以後、百花斉放・百家争鳴(56~57年)→反右派闘争(57年)→大躍進政策(58~60年)→その修正(市場経済の一部復活)→文化大革命(65年暮れ~66年)→その収束期(67年~)と、中国の社会主義は、ジグザグの試行錯誤を繰り返す。根本には、急進的な社会主義に挑戦しようとする毛沢東と、比較的穏健な社会主義化をめざそうとした党内の多数派との闘争があり、さらに背景として、東西冷戦の厳しい国際条件と、大国ソ連とも歩調を同じくできない新興国中国の事情があった。本書は、共産党内の人間ドラマを描くことには筆を抑え、むしろ当時の中国を取り巻く国際情勢(インドとの国境紛争、東南アジア諸国との関係悪化、およびそれらの改善努力)について、詳しく語ろうと努めている。
小さな挿図ではあるけれど、文革や大躍進当時の写真(老照片)が多数掲載されているのも興味深い。また、本書の叙述のところどころ、著者が多くの原資料に実際に接していることが分かって、感慨深く思った。まだ十分なものではないけれど、近年、多くの史料が利用できるようになり、「ようやくこの時代についてある程度の実感を込めて描き出せるようになった」という著者の「あとがき」が印象的だった。同時代を正しく描き出すというのは、実はとても難しいことなのだと思う。
なお、本書はマクロな視点の中国現代史を学ぶには適しているが、ミクロな、つまり人々の生活レベルの中国現代史を理解するのに、いちばんいいテキストは映画だと思う。本書にも、映画『芙蓉鎮』が取り上げられている。
第4巻は、1945年の抗日戦争勝利から1971年まで。巻の後半は、いよいよ私にとっても同時代史となる。1971年というのは、やや唐突に感じられる区切りだが、文革路線の行き詰まりのもと、対外戦略の大転換(西側諸国との関係改善)が徐々に図られ、1971年10月、中国が国際連合への復帰を果たしたことをもって、本書は終わっている。
本書はシリーズ全6巻の中で、いちばん読んでいてつらい巻であり、いちばん分かりにくい巻ではないかと思う。以下、おおまかな流れを追ってみよう。
1945年の戦争終結と同時に「抗日」という大義名分が失われ、激しい政治抗争が始まる。当面は、毛沢東と蒋介石のトップ会談によって国民党の優位が確認されたが、国民党政府は、経済政策の破綻によって民衆の信任を失い、外交面もアメリカの東アジア政策の方針転換(日本の復興優先)によって行き詰まった。軍事的勝利を背景に地域政権の樹立を続けてきた共産党は、1949年10月、中華人民共和国の成立を宣言した。…この戦後の4年間って、日本では語られることが少ないが、思想文化界は非常な活況を呈し、47年憲法と呼ばれるきわめて民主的な憲法も制定されているのだそうだ。知らなかった。あと、人民共和国の成立とアメリカの政策転換の先後関係も、私は逆に認識していた。
「人民共和国は当初から社会主義をめざしたわけではない」という指摘にも、え?と思った。当初、掲げられた目標は、諸党派の連合による新民主主義であった。しかし、冷戦の拡大、台湾海峡の緊張、朝鮮戦争に伴う経済的負担などを受けて、52~53年、共産党政権は社会主義化の早期強行へと大きく舵を切る。目的は経済発展(急速な工業化の推進)と軍事力の強化だった。
以後、百花斉放・百家争鳴(56~57年)→反右派闘争(57年)→大躍進政策(58~60年)→その修正(市場経済の一部復活)→文化大革命(65年暮れ~66年)→その収束期(67年~)と、中国の社会主義は、ジグザグの試行錯誤を繰り返す。根本には、急進的な社会主義に挑戦しようとする毛沢東と、比較的穏健な社会主義化をめざそうとした党内の多数派との闘争があり、さらに背景として、東西冷戦の厳しい国際条件と、大国ソ連とも歩調を同じくできない新興国中国の事情があった。本書は、共産党内の人間ドラマを描くことには筆を抑え、むしろ当時の中国を取り巻く国際情勢(インドとの国境紛争、東南アジア諸国との関係悪化、およびそれらの改善努力)について、詳しく語ろうと努めている。
小さな挿図ではあるけれど、文革や大躍進当時の写真(老照片)が多数掲載されているのも興味深い。また、本書の叙述のところどころ、著者が多くの原資料に実際に接していることが分かって、感慨深く思った。まだ十分なものではないけれど、近年、多くの史料が利用できるようになり、「ようやくこの時代についてある程度の実感を込めて描き出せるようになった」という著者の「あとがき」が印象的だった。同時代を正しく描き出すというのは、実はとても難しいことなのだと思う。
なお、本書はマクロな視点の中国現代史を学ぶには適しているが、ミクロな、つまり人々の生活レベルの中国現代史を理解するのに、いちばんいいテキストは映画だと思う。本書にも、映画『芙蓉鎮』が取り上げられている。