緊急事態宣言がようやく解除されて、2年ぶりの本格的な展覧会シーズンが始まった感じである。忙しいけれど、うれしい。
■丸善・丸の内本店4階ギャラリー 第33回慶應義塾図書館貴重書展示会『蒐められた古(いにしえ)-江戸の日本学ー』(2021年10月6日~10月12日)
国学者・橋本経亮(つねすけ、1759-1805)の「香果遺珍」(橋本が書写・蒐集した約1,200点にも及ぶ旧蔵資料群)を中心に、松平定信、本居宣長、上田秋成、藤貞幹、狩谷棭斎など、江戸時代の好古と蒐集の文化に関する資料80点を展示する。関連文献を読んだら、「香果遺珍」は、戦後まもなく寄贈されたにもかかわらず、未整理のままで研究者が利用できない状態だったそうだ。2013年度に予備的調査を開始し、2020年度末に整理を完了したという。こういう地道な資料整理の努力は、今も多数の図書館・文書館で行われているのだろうな。頭が下がる。
■たばこと塩の博物館 特別展『杉浦非水 時代をひらくデザイン』(2021年9月11日~11月14日)
日本におけるモダンデザインのパイオニアとして知られる杉浦非水(1876-1965)の足跡を、非水の故郷にある愛媛県美術館所蔵のコレクションを中心に、東京美術学校時代の作品から晩年のデザインまで約300点(展示替え有)の展示でたどる。非水の代表作(三越のポスターなど)は何度もいろいろなところで見ているが、図書の装幀、図案集、生涯にわたって描き続けた写実的な植物スケッチ画など、新しい面を知ることができて収穫だった。非水と妻の翠子(アララギ派の歌人)の写真や非水の遺愛の品など、アーカイブ資料が充実していたのも面白かった。
■埼玉県立近代美術館 企画展『美男におわす』(2021年9月23日~11月3日)
江戸時代から現代まで、日本の視覚文化のなかの美少年・美青年のイメージを、浮世絵・日本画・彫刻・挿絵・マンガ・写真といった幅広いジャンルから紹介し、人々が理想の男性像に何を求めてきたかを探る試み。ふだん敬遠しがちな現代美術も「美男」という切り口が示されていると、入りやすくて楽しめた。マンガは、よしながふみなど2000年代以降の作品はよく知らないのだが、竹宮恵子が表紙を飾った雑誌「JUNE」や魔夜峰央の「パタリロ!」は懐かしかった。安田靫彦や松岡映丘の描く若武者は確かに美少年ないし美男である。それから、高畠華宵の存在はしみじみ大きいと思う(美少年文化についても、美少女文化についても)。
作品では、吉川観方の『入相告ぐる頃』を久しぶりに見ることができて嬉しかった。朱鞘の刀でカッコつける少年たちがかわいい。三宅凰白の『楽屋風呂から』は初見。芝居が跳ねて、一風呂浴びた役者二人(ひとりは女形)が見交わす視線の艶めかしさにどぎまぎする。しかし、全体を通してこの展覧会の「美男」の境界線(何が排除されるのか)はよく分からないところがあった。
■神奈川県立歴史博物館 特別展・開基500年記念『早雲寺-戦国大名北条氏の遺産と系譜-』(2021年10月16日~12月5日)
伊勢宗瑞(北条早雲)を開基とし、大永元年(1521)北条氏綱が建立したとされる早雲寺の開基500 周年を記念し、寺宝等を展示する。金湯山早雲寺は、箱根湯本にある大徳寺派の寺院で、北条五代の墓所があることでも知られる。一回くらい行ったことがありそうだが、記憶にない。展示の見どころは、北条五代の肖像画で、早雲寺に16世紀の古本が伝わるほか、何度も写され、北条氏ゆかりの地に伝えられている。以前、歴博の『日本の中世文書』展で、北条氏だけは東アジアのスタンダードに則り、日付全体または日付の上半分にかかるように家印を押したと知って以来、北条氏の文書を見るときは気にしているのだが、やっぱりそのような形式の文書が出ていた。
というわけで、明日から関西行きである。11月は忙しくなりそう。