○板橋区立美術館 江戸文化シリーズNo.21『関東南画大集合』
http://www.city.itabashi.tokyo.jp/art/
「南画」というタームを、私は明治の文学、特に夏目漱石との関連で覚えた。漱石は、随筆『思い出す事など』で「画のうちでは彩色を使った南画が一番面白かった」と語っているし、『猫』の苦沙弥や『三四郎』の広田先生は、”南画的世界の住人”と評されることがある。ふむふむ、なんだか浮世離れした世界のことだな、と思って読み流しながら、それ以上、調べたことはなかった。
この展覧会は、最初に、子供にも分かるように、南画の定義を説明してくれていて、ありがたい。南画とは、室町時代に中国から渡来した南宗画が元になり、日本独自の南画として確立したものであり、心象や個性の表現を大事にする点に特色があるのだそうだ。
分かりやすいのは、鋭い輪郭線を用いる北宗画(北画)に比べ、丸みを帯びた柔らかい描線を用いるのが南宗画→南画の特色であるという点。確かに、山水画を見ていると、山の稜線がほんわかと丸い。そうして、民家や樹木は、大地にどっしり根を下ろしているふうではなく、なんとなくよたよたして、空間に漂っている。言葉をかえると、山も樹も岩も、舟も家も、みんな、たまたまそこに留まっている生きもののような感じがする。
個々の作品を見ていこう。谷文晁は、江戸南画の大成者であるが、これまで特に好きな作品はなかった。『山水図』(双幅)は、なかなかいい。モコモコした山の膨れ具合が、私には水木しげるの描く大妖怪みたいに見える。今にも、山ひだから、ギョロリと大きな目がのぞきそうである。
椿椿山の『花籠図』は、精緻で繊細な花鳥画で、イギリスのファブリック・デザインを思わせた。奇抜な動物画(展覧会サイトに蜻蛉、カラス天狗の画像あり)を描く林十江もおもしろかったが、個人的なイチ押しは佐竹蓬平。人物も風景も飄々として、漱石の作品世界を形容する”南画的”に、いちばんふさわしいように思えた。
http://www.city.itabashi.tokyo.jp/art/
「南画」というタームを、私は明治の文学、特に夏目漱石との関連で覚えた。漱石は、随筆『思い出す事など』で「画のうちでは彩色を使った南画が一番面白かった」と語っているし、『猫』の苦沙弥や『三四郎』の広田先生は、”南画的世界の住人”と評されることがある。ふむふむ、なんだか浮世離れした世界のことだな、と思って読み流しながら、それ以上、調べたことはなかった。
この展覧会は、最初に、子供にも分かるように、南画の定義を説明してくれていて、ありがたい。南画とは、室町時代に中国から渡来した南宗画が元になり、日本独自の南画として確立したものであり、心象や個性の表現を大事にする点に特色があるのだそうだ。
分かりやすいのは、鋭い輪郭線を用いる北宗画(北画)に比べ、丸みを帯びた柔らかい描線を用いるのが南宗画→南画の特色であるという点。確かに、山水画を見ていると、山の稜線がほんわかと丸い。そうして、民家や樹木は、大地にどっしり根を下ろしているふうではなく、なんとなくよたよたして、空間に漂っている。言葉をかえると、山も樹も岩も、舟も家も、みんな、たまたまそこに留まっている生きもののような感じがする。
個々の作品を見ていこう。谷文晁は、江戸南画の大成者であるが、これまで特に好きな作品はなかった。『山水図』(双幅)は、なかなかいい。モコモコした山の膨れ具合が、私には水木しげるの描く大妖怪みたいに見える。今にも、山ひだから、ギョロリと大きな目がのぞきそうである。
椿椿山の『花籠図』は、精緻で繊細な花鳥画で、イギリスのファブリック・デザインを思わせた。奇抜な動物画(展覧会サイトに蜻蛉、カラス天狗の画像あり)を描く林十江もおもしろかったが、個人的なイチ押しは佐竹蓬平。人物も風景も飄々として、漱石の作品世界を形容する”南画的”に、いちばんふさわしいように思えた。