〇『成化十四年』全48集(浙江冠亜文化伝媒股份有限公司、愛奇藝、2020年)
久しぶりに軽い古装劇が見たくなって、昨年、一部で評判になっていたこのドラマを見始めた。時代は明の成化年間。主人公の唐泛(官鴻)は、殿試二甲第一に選ばれた抜群の頭脳と推理力を誇る天才だが、武芸はからきし駄目。平和主義者で、美味しいものが大好き。小さいときに両親を亡くし、離れて暮らす姉のことをいつも思っている。いまは下級官吏として、人々の訴えを聞いたり、事件を捜査したりしている。
ある殺人事件の調査から、唐泛は錦衣衛北鎮撫司の小隊長格の隋州(傅孟柏)と知り合う。隋州は、かつて辺境に従軍し、瓦剌人(オイラート)との激しい戦闘を経験したことがあり、いまも悪夢に悩まされている。あまり他人を寄せ付けないが、熱い心情の持ち主。特技は武術と料理。なぜか唐泛は、小侍女の冬児を連れて隋州の家に転がり込み、奇妙な共同生活が始まる。一方、成化帝の信任する若き太監・汪植(劉耀元)は、特務機関である西廠の提督(督公)として、同じ事件にかかわり、唐泛と隋州に一目置くようになる。
最初の事件が3~4話を使って一件落着したあと、舞台と趣向を変えて、次の事件が起きる。そしてまた次の事件という具合で、ははあ、こうやって短い謎解きエピソードをつなげていく展開なのだなと、10話くらい見たところで理解した。特定のエピソード限りで退場する人物もいるが、唐泛・隋州の周辺に居残る人物もいる。
鉄市と呼ばれる異民族の集住地域(北京城内にあったのだろうか?)に暮らす、オイラートの少女・ドゥルラと巨漢の従僕・ウユン。婚家を追い出された唐泛の姉・唐瑜とその連れ子・澄児。唐瑜に惚れた天才医師の老裴など。そして一件落着すると、みんなでテーブルを囲み、肩を寄せ合って賑やかに食事をするのだ。時には、隋州の下僚の薛凌、皇帝に伺候しているはずの汪植も加わっていて、楽しそうだった。
さて【ネタバレ】終盤は、それまで独立に見えていた個々のエピソードが一気に集約していく。序盤から、さまざまな事件の裏に見え隠れし、じわじわと存在感を増していくラスボスは李子龍(王茂蕾)。唐朝の末裔で明朝の転覆を狙っているという設定だったかな。むしろ「我是生意人(私は商売人だ)」とうそぶくのが憎々しい。成化帝に恨みを持つ人々、父を殺された青歌姑娘や、先々代・景泰帝の長公主でありながら郡主に降格された固安郡主を抱き込み、明に敵対する異民族オイラートを手玉に取り、さらに宮中の三悪人、首輔の万安、東廠の尚銘(太監)、錦衣衛の万通を利用して、皇城を襲撃する。
危険に身をさらしながら、皇帝を守り抜こうとする唐泛、隋州、汪植ら。彼らを救うのもまた、これまでのエピソードで培われてきた人のつながりである。その中で、汪植に忠誠を尽くしてきた丁容(余銘玄)が、老獪な尚銘の口車に乗って裏切るのは辛いエピソード。しかし、李子龍の野望を阻止した功績により、兵権を与えられて都を離れることになった汪植は、檻車に乗せた丁容を連れて旅立つ。「私はこいつがいることに慣れすぎているから、離れられない(舎不得)」と言って。これもひとつの「愛のかたち」と思いたい。
汪植は実在の人物で、中国語wikiには「南蛮を討伐したとき捕獲されて都に運ばれ、宦官にされた」という記述がある。別の記事には、ヤオ族の出身とも。ドラマでは、孤独な小太監時代を万貴妃に救われて以来、貴妃と貴妃の愛する皇帝を守ることを絶対の使命と心得ている。しかし友のいない、孤独な人生を歩んできた汪植は、唐泛、隋州に会えたことに感謝を告げる。聡明で傲岸不遜だが、女子供にやさしく愛嬌があって、魅力的なキャラクターだった。従僕の丁容との関係は『那年花開月正圓(月に咲く花の如く)』の杜明礼・査坤を思い出すところもあった。
時代背景をよく知らないので、調べてみて初めて、成化帝が自身の乳母で19歳年上の宮女である万貴妃を寵愛したことを知った。「明史」によると、万貴妃は性質が陰険で、他の妃嬪が妊娠すると手下の宦官を使って堕胎させたという。ただし中国語wikiでは、異説もあり「争議」になっている。このドラマの成化帝と万貴妃は(万貴妃と対立したといわれる皇太后も)好感の持てる人物に描かれていた。