■高麗美術館 『朝鮮王朝の白磁と水墨画』(2022年9月1日~12月11日)
先週末、台風通過中の関西旅行レポートである。はじめに洛北の高麗美術館に向かった。朝鮮の白磁と水墨画から朝鮮時代の文人の姿に思いを馳せる展覧会を開催中。水墨画は17世紀~19世紀の作品が12件出ており、小品だが金正喜(1786-1856)の『山水図』が、明清の山水画に通じる繊細さで印象に残った。面白かったのは、白磁のかたちと本来の用途について説明があったこと。「果物や干し肉をお供えする」「ご飯をお供えする」「餅を入れる」「野菜を入れる」など、茶の湯の世界で愛でる白磁には、こういう説明はつかないので興味深く感じた。
2階は朝鮮の伝統的な部屋のしつらえを再現した展示だが、少しずつ展示品を変えているのだろう。今回は観音開きの立派な箪笥(李朝箪笥というのか)が多めで、どれも魅力的だった。また、別室のパネルに「京都・近江(滋賀)の朝鮮通信使遺跡」が紹介されていた。滋賀県の野洲~近江八幡~彦根には朝鮮人街道という街道筋があるのか…これは一度、歩いてみたい(※参考:朝鮮人街道を歩く)。
このあと、すでにレポート済みの承天閣美術館に寄り、奈良に向かう。
■大和文華館 『一笑一顰(いっしょういっぴん)-日本美術に描かれた顔-』(2022年8月19日~10月2日)
日本美術に描かれた人びとの表情にあらわれた美しさや魅力に迫る展覧会。今回、この展覧会をいちばん楽しみに1泊2日の関西旅行を企画した。途中、大和西大寺駅で腹ごしらえもして、準備万端、訪問したら、道路に面したゲートが閉まっている。え??と慌てた目に入ったのはこの掲示。
実は、9月17日(土)に発生した展示室の空調設備の不具合により、ずっと休館していたのだ。私の訪問の翌日、24日(土)からは再開の目途が立ったというお知らせである。ええ~。ホームページやツイッターで、当日の開館状況を確認すべきだったんだなあ、と悔やんだけれどもう遅い。そして時刻はすでに15:00過ぎ。今日の宿泊先は京都なので、これからどうすべきかを考える。
■松伯美術館 『本画と下絵から知る上村松園・松篁・淳之展』(2022年9月6日~11月27日)
最終的に私が下した結論は、学園前駅(近鉄奈良線)の北側にある松柏美術館に行ってみる、というものだった。同館は、上村松篁・淳之両画伯からの作品寄贈と近畿日本鉄道株式会社の基金出捐により1994年3月に開館した美術館で、上村松園・松篁・淳之三代にわたる作品・草稿等を収集・保管・展示している。以前から存在は知っていたが、一度も訪ねたことはなかった。
大和文華館は学園前駅から歩いて10分弱だが、松伯美術館はバスに乗る必要があるらしい。北口バスターミナルの5・6番乗り場(どれでもよい)からバスに乗って5分ほど、大渕橋停留所で下りる。展示棟は1階・2階を使って、ゆったりした展示スペースが設けられていた。本展は、上村松園・松篁・淳之三代の制作の試行錯誤の過程を、下絵や写生によって紹介。上村松園は狂女を描く『花がたみ』を制作するにあたり、京都・岩倉の精神病院に行って、院長先生の了解のもと、患者さんと一緒に過ごしたり、患者さんをスケッチしたりそたそうだ。「狂女の顔は能面に似ている」という発言は、なんとなく納得できるものがある。そして、作品の直接の下絵ではないけれど、女房装束の女性をさまざまなポーズで描いた線描のスケッチが、マンガのようで可愛らしかった。
『楊貴妃』は初めて見たかもしれない。見る機会の少ない『焔』も出ていて、得をした気分になったが、これは東博の所蔵なのだな。上村淳之の花鳥画も、リアルな写生から、色鮮やかで装飾的な作品ができていくのが面白かった。美術館から望む広大な大渕池は、ちょっと日本離れした風景だった。機会があれば、また来てみたい。