見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

後期リピート/椿椿山展(板橋区美)+江戸絵画お絵かき教室(府中市美)

2023-04-30 19:03:44 | 行ったもの(美術館・見仏)

「春の江戸絵画まつり」の二大イベント、どちらも後期をリピートしてきた。

板橋区立美術館 『椿椿山展:軽妙淡麗な色彩と筆あと』(2023年3月18日~4月16日)

 図書館勤めの友人から貰った招待券で入場。花鳥画は『玉堂富貴・遊蝶・藻魚図』が退場して、金地墨画の『蘭竹図屏風』がメインになっていた。これは大倉集古館所蔵だそうだが、あまり見た記憶がない。『花卉図屏風』(田原市博物館)は墨画と淡彩画を交互に貼り交ぜているので、眺める角度によっては、墨画だけに見えたり、淡彩画だけに見えたりする。椿山の墨画は、墨の濃淡が個性的で、たとえば風に揺れる竹の葉の一部だけが濃く、あとは薄墨で背景に沈んでいるような感じがおもしろかった。『蕃殖図』は、草の生い茂る庭をフラットにスケッチしたような作品で、東洋絵画のお約束みたいな余白がないのが新鮮だった。

 人物画は渡辺崋山関係以外は入れ替わり。『佐藤一斎夫妻像』(2種類、東博)と『佐藤一斎像画稿』(東京藝大)を見ることができた。そして楽しかったのは山水図。大好きな『久能山真景図』(山種美術館)に加えて、この作品のもとになったと思われる、久能山のスケッチを含む『山海奇賞図稿』(巴江神社※田原市博物館の隣りにあるらしい)と『山海奇賞図巻』(静岡県立美術館)が出ていた。前者には白描で、後者には着彩で、松並木の上り坂が描かれている。どちらも旅の手控え帳なので小さな横長の画面だが、作品にする際は、縦長の大画面に再構成し、坂道に二人の人物(赤い衣の僧侶と青い衣の従者)を配している。

府中市美術館 企画展・春の江戸絵画まつり『江戸絵画お絵かき教室』(2023年3月11日~5月7日)

 本展は観覧券に半額割引券が付いているので、2回目は半額(350円)で鑑賞できた。むちゃくちゃお得でありがたい。作品は大幅な入れ替わりがあり、個人的には後期のほうが楽しかったように思う。応挙の『狗子図屏風』(個人蔵、安永7年)は、応挙にしては「うるうる」の少ない、ディズニー映画のような元気な子犬たちで私の好み。芳中の『狗子図』は昭和のマンガみたいな顔で笑ってしまった。

 「花を描く」では多様な牡丹の描きかたを学ぶ。これ、菖蒲や朝顔みたいに花の姿がパターン化しないので難しいと思う。水墨、蘆雪の『寒山図』(個人蔵)は長く伸びたトラがかわいい。若冲の『雨竜図』や菅井梅関『蛸図』には不意を打たれて笑ってしまった。応挙の『猿図』は、雪の積もった枝の上で白色のサルが薄墨色のサルにマウンティングしているように見える。応挙の水墨画は「緻密な作品制作で溜まったうっぷんでも晴らすかのように、大胆で大ぶりで、『本当に同じ画家?』と思うほど」と解説にあった。私は応挙のこういう作品も好き。

 墨画の「付け立て」の例として、後期は亜欧堂田善の『山水人物図押絵貼屏風』が来ていた。これ千葉市美の『亜欧堂田善』展でも見たはずだが、第二扇の人物図で、高士(?)に従う従者の背中の荷物に地球儀が載っている。あと第五扇に鷹匠らしき人物がいて、その鷹が頬かむり(目隠し?)していることにも初めて気づいた。

 「中国に学ぶ」には、伝・徽宗筆『狗子図』(嵯峨美術大学・同短大附属博物館)が出ていた。茶色いふかふかした子犬が体をひねって背を向けている。短い尻尾がかわいい。「輸入された中国の絵を日本の画家が写したものかもしれない」というのは、まあそうだろう。この子犬のポーズが、狩野派や森狙仙にもしっかり受け継がれている。

 「虎の研究」では、岸駒『猛虎図』(本間美術館)を見た小学生くらいの男の子が「こわい!カッコイイ!」と大興奮だった。その気持ちはよく分かるが、同時に私は、与謝蕪村の『豊干経行図』にもやられた。これ、ほとんど人面虎である。「あえて拙く、たどたどしく描いているのに妙に自信に満ちた蕪村の絵は(略)ディープな魅惑に満ちている」という図録の解説がたいへんよい。林十江『唐人物図』もカッコよかった。最後は上様・家光の『兎図』で〆め。これもだんだん不気味にも見えてくる、不思議な絵だ。

 展示室の外には「お絵描き」体験コーナーが設けられていて、好きなワークシート(お手本と簡単な解説つき)と必要な画材セットを借りて、模写してみることができる。展覧会が始まってすぐに来たときは、あまり人の姿がなかったが、今回はかなり席が埋まっていた。

 これは大好きな「蘆雪の雀」の模写。筆ペンの扱いが思った以上に難しかった。

 

 「描く」ことに焦点をあてた展覧会、ありそうでなかったので、大成功ではないかと思う。子どもも大人も、みんな楽しそうだった。

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2023黄金週始まる

2023-04-29 08:28:19 | なごみ写真帖

ゴールデンウィークの大型連休が始まった。もう現役世代ではないので、休めるときはしっかり休もうと思い、5/1(月)2(火)は有休を取った。なので、表向きは9連休である。

けれども、どうやら飛び込みの作業が入りそうで、メールチェックは欠かせない…。まあ出勤の必要はなさそうだが、テレワーク環境の進化は良し悪しである。

桜が終わった家のまわりは、足元の植え込みやプランターが春の花盛り。

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「妖かし」大活躍/新・陰陽師(歌舞伎座)

2023-04-27 22:30:36 | 行ったもの2(講演・公演)

歌舞伎座 新開場十周年記念・鳳凰祭四月大歌舞伎:昼の部『新・陰陽師』(4月23日、11:00~)

 夢枕獏の小説『陰陽師 滝夜叉姫』をもとに、市川猿之助が脚本・演出を手掛けた舞台。4月に入ってから、これは見たいなあと思ってチケットを探したら、意外なことにまだ日曜のチケットがあった。残っていたのは1等席だけだったので、けっこうな出費になったが、思い切って購入した。

 本作は、歌舞伎座の新開場杮葺落公演(2013年)から約10年ぶりの上演だが、初演とは全く趣きを変えた「古典歌舞伎仕立て」のスタイルだという。私は初演を見ていないので、比較はできないが、全体としては「古典歌舞伎」の雰囲気が濃いように思った(あまり見ていないけど)。

 発端「賀茂社鳥居前の場」は朱雀帝の御代。東国では不作が続き、苦しい生活を強いられている民人は、左大臣に窮状を訴え出ようとするが、逆に捕えられてしまう。この様子を見ていたのは、平小次郎将門と俵藤太秀郷。将門は直接、東国の民を助けることを、藤太は都の官吏として善政を行うことを誓う。

 それから八年後。東国では将門が挙兵し、新皇を名乗っていた。将門討伐を命じられた藤太は、その務めを引き受ける代わりに、帝の寵愛を受けていた桔梗の内侍を所望する。藤太の願いは聞き届けられ、桔梗は一足先に東国へ下って将門を篭絡することを目指し、陰陽師の芦屋道満は藤太に鏑矢を授ける。場面代わって相馬の内裏。将門のそばには桔梗が侍っていた。将門は、訪ねて来た藤太に毒酒を供するが、桔梗が一計を案じて藤太を救う。将門は討ち取られたが、その首は虚空へ飛び去った。

 二幕目、将門没後の村上帝の御代。将門の軍師だった興世王(おきよおう)が宮中に現れるが、安倍晴明がこれを退ける。続いて、晴明の住まいに訪ねてきた源博雅は、町娘の糸滝を伴っていた。糸滝は、琵琶湖畔の三上山に大百足が出て困っていると告げ、晴明は、藤太に百足退治を頼むことを約束する。続いて、将門の首塚のある一条戻橋。将門の妹である滝夜叉姫と興世王が現れ、将門の首を掘り出す。追ってきた晴明、博雅らは大蝦蟇に襲われるが、晴明はキツネの眷属を召喚して逃れる。

 三幕目、三上山の山腹。山姥に育てられた大蛇丸(おろちまる)が藤太の家来となる。藤太は大百足を討ち取り、宝剣・黄金丸を手に入れる。続いて、貴船岩屋。滝夜叉姫らは将門を生き返らせようとするが、芦屋道満と興世王が将門を鬼とし、この世を魔界とする企みであることを知り、絶望して身投げする。興世王は藤原純友の正体を現し、道満は、晴明らを嘲笑って虚空に消えていく。

 蝦蟇やらムカデやらキツネやら、異類のものたちが跋扈するし、生首は表情豊かに喋るし、雷鳴がとどろき、火花が飛び散り、最後は道満(猿之助)が宙乗りで三階席の彼方へ消えてゆくし、趣向がいっぱいで楽しかった。ただ、私はどうせなら京劇くらい振り切った、アクロバティックな演出が見たいという気がした(ムカデ退治の場面)。それと、滝夜叉姫は、強くてカッコいい悪女かと思ったら(将門の腕を咥えて六方を踏む)、最後は兄の運命を悲しんで、滝壺に身投げしてしまうのが、ちょっと気に入らない。なお、江戸の語りものでは将門の娘だが、本作では将門の妹という設定である。将門は、東国民にとって反逆のヒーローなのに、晴明に簡単に調伏されてしまう(蘇生した肉体を焼かれてしまう)のも納得がいかない。最後は、将門こそ虚空に飛び立ってほしかった。

 私は、国立劇場では何度か歌舞伎を見たことがあるが、歌舞伎座は初めての体験だった。なるほど、お客さんの多くは、演目というより、ひいきの役者さんを見に来るんだなあ、というのがよく分かった。だから楽屋落ち的なくすぐりも大好きなようだ。私は、また歌舞伎座には来るかもしれないが、この世界にはあまり深入りしなくていいかなあ、と思った。

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掛けものあれこれ/茶の湯の床飾り(出光美術館)

2023-04-24 22:22:56 | 行ったもの(美術館・見仏)

出光美術館 『茶の湯の床飾り:茶席をかざる書画』(2023年4月22日~5月28日)

 出光美術館は、この展覧会から事前予約が不要になった。やっぱり、好きな時間にふらりと入れるのはありがたい。今回は五島美術館とここをハシゴしたので、特にそう思った。本展は、茶の湯や煎茶においてどのような書画が掛物として茶席を飾ってきたかを、同館コレクションを中心に紐解く試みである。

 冒頭には、東山御物でもある牧谿の『平沙落雁図』。私のブログでは、2016年の「水墨の壮美」以来になる。何が描いてあるのか、ほとんど分からないような画面だが、目を凝らすと、無数の雁が列を連ねて飛ぶ様子や、それを見送る数羽の地上の雁たちが見えてくるのだ。牧谿はもう1点、黒い羽根がもこもこでふさふさの『叭々鳥図』も。その隣り、伝・夏珪筆『瀑布図』(南宋~元代)は、黒い岸壁を白い瀧がまっすぐな帯のように下っている。その前方に木の枝が張り出しているようだ。2020年にも見ているのだが、全く記憶になかった。さらに隣りは、伝・用田筆『栗鼠図』(元代)。リスのしっぽがふわふわでかわいい。用田は、松田の弟子だという。木の下にタケノコが書き添えられていて、筋目描きっぽいと思った。

 壁沿いの展示ケースの冒頭には、毛倫筆『牧牛図』(元代)と伝・牧谿筆『寒山拾得図』(南宋末~元初)。この寒山拾得は、額が後退して、おじさんみたいな風貌で、しかも寒山は衣の前を思い切りはだけていた。宋元の絵画はだいたい以上で、あとは日中の禅僧の墨跡。単立のケースには、龍泉窯の青磁香炉、胡銅の花生、唐物茶壺などが出ていたので、もし自分が茶室を持っていたら、床の間には何と何を取り合わせたいかをいろいろ思い描いた。やっぱり墨蹟に青磁が優勝じゃないだろうか。

 一段低くなったスペースには、参考展示で酒井抱一の『八ッ橋図屏風』。根津美術館の光琳筆『燕子花図屏風』をさらに思い切ってデザイン化・パターン化したような作品である。

 第2室から第3室にかけては、日本の水墨画と一行書。絵画は、雪舟(破墨山水図)、相阿弥、周文に加え、光琳の『蹴鞠布袋図』も。参考で、伝・光琳筆『芙蓉図屏風』という作品が出ていて、黄・緑・黒(紫?)は古九谷の色取りだなあ、と思った。奥のミニコーナーは「茶の湯と物語」と題して、『酒呑童子絵巻』をテーマにした茶道具の取り合せを楽しむ。宗入には「鬼の頭」という黒楽茶碗、道入(ノンコウ)には「酒呑童子」という赤楽茶碗があるのだな。

 続いて「近代数寄者の新たな趣向」の章では、佐竹本三十六歌仙絵『柿本人麻呂』を展示。おお、これも久しぶりだ。へなっとした烏帽子と、衣に埋もれた感じがかわいい。そして、意図したわけではなかったが、五島美術館に続いて、高野切第一種と継色紙(むめのかを)をハシゴすることになった。個人的には、高野切第一種も継色紙も、出光コレクションのほうが好き。最後は「煎茶の掛けもの」で、なんとなく見たような山水図があると思ったら、青木木米の作品だった。木米作の茶碗や急須、それに木米の肖像(田能村竹田『木米喫茶図』)も出ていた。

 ロビーの一角に設けられた茶室「朝夕菴」の展示も、最近、忘れずに見て行く。今季は床の間に仙厓の一行書を掛け、その左右に堆朱屈輪の香合と青磁の花入を飾る。窓際に置かれた八ッ橋蒔絵の硯箱も、この季節に合っている。もう少し近づいて見られると嬉しいんだけどなあ。

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古典籍に注目/古今和歌集を愛でる(五島美術館)

2023-04-23 23:23:32 | 行ったもの(美術館・見仏)

五島美術館 館蔵・春の優品展『古今和歌集を愛でる』(2023年4月1日~5月7日)

 古今和歌集を書写した平安・鎌倉時代の古筆切を中心に、古今和歌集に関わる歌仙絵・古典籍・近代書など約50点を展観する。館蔵品展だからおなじみがほとんどだったが、名品は何度見てもよい。

 冒頭は歌仙絵で、ちょっとこわい顔の『猿丸太夫像』(業兼本、針のように細い筆跡も好き)、恰幅のよい紳士の『紀貫之像』(上畳本)、縹色(青)の袍に老懸という武官姿の『壬生忠岑像』など。白描の『時代不同歌合絵』は向かって左に細面の男性、右にやや下ぶくれの太りじしの男性を描く。歌合は、左・藤原兼輔、右・藤原俊忠が番っているが、伊勢・後京極良経の例を見たら、挿絵は左右が逆になるみたいだった(地図の左京区・右京区の並びと同じ)。

 続いて古筆。高野切古今集の第一種、第二種を見ることができた。本展は、キャプションのタイトルには伝承筆者(伝・紀貫之筆など)を残しているが、解説文では、どの時代・誰の筆跡と推定されているか、近年の研究成果を示している。高野切第二種、私の目には流麗・繊細に見えるのだが、解説に「筆力のたくましさが際立ち」とあって、ふーむ、プロから見るとそうなのか、と勉強になった。気楽な好き嫌いで眺めた限りでは、『下絵古今集切』の筆跡が好き(去年の春の優品展でも同じことを書いていた)。継色紙(めづらしき)と升色紙(むばたまの)も出ていた(寸松庵色紙は展示替えで見られず)。

 また本展には、万葉集・伊勢物語・源氏物語と王朝の文化・風俗に関する資料も多数出ていた。おもしろかったのは江戸時代の『源氏物語図屏風』で、源氏物語の名場面を描いている。冒頭、年若い貴人(光源氏)に拝謁しているのは高麗の相人だと思うが、舞台となっている建物(鴻臚館?)が市松模様のタイルで、ギラギラに異国風である。左端には鷹匠が描かれていて、こんな場面あったかしら?と思ったが、解説を読んだら「行幸」に冷泉帝一行が大原野で大鷹狩をする場面があるそうだ。その下は「常夏」の釣殿で涼をとり、鮎を食す源氏たちだというが、貴人の前のまな板に小さな鮎が縦に並べてあって、笑ってしまった。

 本展の見どころのひとつは、大東急記念文庫所蔵の貴重な古典籍だと思う。私は大学の専門が和歌文学だったので、『八代集抄』(鎌倉時代写)『奥義抄』(室町時代写)『古今和歌集註』(室町時代写)を感慨深く眺めた。金沢文庫本『白氏文集』(鎌倉時代写)は、奥書によれば、入唐僧の慧萼(えがく)が白居易自筆の校訂本を写したものを底本にしたものである。Wikipediaによれば、蘇州の南禅寺のものを会昌4年(844)に筆写させ、日本へ持ち帰ったという。慧萼は生没年不詳で不明な点が多いが、日本と唐の間を何度も往復したらしい。2013年には『不肯去観音』という中国映画が作られているのか~(聶遠が出ている)。ちょっと見たい。

 また『源氏物語奥入(げんじものがたりおくいり)』は藤原定家による源氏物語の注釈書で、大東急記念文庫は、筆跡まで定家に似せた後代の写本(南北朝~室町時代写)を所蔵している。近年、定家自筆の断簡(個人蔵)が発見されており、初めて一般に公開されている。展示室2の隅にひっそり展示されているが、貴重な機会なので見逃さないでほしい。刺繍で古代人物をあしらったかわいい表具が印象的だった。

※参考:読売新聞オンライン「国宝の藤原定家「源氏物語」注釈書、欠損1枚が掛け軸に貼られた状態で発見」(2022/4/20)

 なお、恒例の『源氏物語絵巻』は現状模写の公開期間だった。本物の公開は4/29から。

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ペルシャ陶器と絵画の楽しみ/美しい人びと(松岡美術館)

2023-04-21 23:57:08 | 行ったもの(美術館・見仏)

松岡美術館 『美しい人びと 松園からローランサンまで』『憧憬のペルシア』他(2023年2月21日〜6月4日)

 ふらっと寄っただけの展覧会だが、なかなかよかったので書いておく。展示室4の『憧憬のペルシア』では、ペルシア陶器56件を展示する。ペルシア陶器とは、イスラーム時代に中近東で作られた陶器をいう。中近東史に詳しくないので「イスラーム時代」を調べたら、Wipipediaには、イスラーム黄金時代=アッバース王朝(750-1258)のこと、という説明が載っていた。おお、まさに読み終わったばかりの東ユーラシアの唐(618-907)と重なる時代である。松岡美術館の初代館長・松岡清次郎は、1972年、初めて海外オークションに参加し、帰途に立ち寄ったテヘラン(イラン)で9世紀から13世紀のペルシア陶器をまとめて取得したという。

 これまで東博や出光美術館で、ペルシア陶器(イスラーム陶器)を見たことがないわけではないが、こんなに大量の名品が並んだ状態を見るのは初めてで、いい意味で「開いた口がふさがらない」状態になってしまった。唐三彩と同じ『三彩刻線花文鉢』を見ると、この色合いが大唐の人々にとってもエキゾチックだったことが分かる。黄地や白地に描かれた人物文や動物文は、目が大きくて(三白眼で)表情がはっきりしていて、絵本かマンガの主人公のように可愛い。ラスター彩の美しさは言葉にならない!しかも口径40センチを超える大鉢や、頸の細い水瓶や、把手つきの壺もあるのだ。

 「青釉」と表現されるターコイズブルーの釉薬は12世紀以降に作られたものだという。この目に沁みる青空のような陶器を床の間に飾るとしたら、取り合わせは何だろう? 青一色を引き立てるには、白いウツギ(卯の花)を活けて、墨蹟を掛けるのはどうかな、などと妄想をふくらませた。珍しくて、楽しい展覧会だった。

 続いて展示室5、6は『美しい人びと』。和洋を取り混ぜ、古今の「美しい」人物画を展示する。モデルの性別にはこだわらないが、やはり女性像が多い。応挙など江戸の美人画に始まり、松園、清方、深水など名手が並ぶ。私は伊藤小坡(いとう しょうは)の『ほととぎす』『麗春』(醍醐の花見をイメージ)に惹かれた。目が小さくて、目と目の間が離れている感じの女性の顔がいい。このひと、女性画家なのだな。真野満『藤三娘』(光明子)や松岡加世子『燭光』(細川ガラシャ)のような歴史画も好き。

 梶原緋佐子も好きな画家なので『白川路』を見ることができて嬉しかった。厚みのある肉体を作業着に包んだ大原女の立ち姿。濱田台兒の『九曲』に描かれたチャイナドレスの女性二人も、堂々と正面に視線を向けていた(と記憶する)。「九曲」は中国庭園につきものの九曲橋だという。日本なら八つ橋なのに面白いな。松岡美術館、女性画家の作品を多く収蔵しているとともに、描かれている女性像も新鮮である。

 下村観山『山寺の春』は、桜咲く鞍馬寺の義経(牛若丸)を描いたもの。明るくのどかな風景だけど、見る者は少年の運命を知っているのが悲しい。小堀鞆音の『孝子小松内府図』という作品もあり、『平家物語』の世界には、多数の「美しい人びと」が存在していることを思った。

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「中国史」を超えて/唐:東ユーラシアの大帝国(森部豊)

2023-04-19 23:31:35 | 読んだもの(書籍)

〇森部豊『唐:東ユーラシアの大帝国』(中公新書) 中央公論新社 2023.3

 めちゃめちゃ面白かった。何度も読んできた唐の歴史なのに、なぜ、こんなに新鮮で面白かったのか。従来の標準的な歴史は、後世の中国人が編集した典籍史料をもとに書かれてきた。しかし20世紀以降、敦煌やトルファンで見つかった同時代の文書史料、中国全土で見つかっている石刻資料(墓誌など)によって、唐の歴史像は大きくアップデートされているのだという。

 本書は、唐の歴史を「中国史」ではなく、東ユーラシアに展開した歴史としてとらえなおすことを目指す。このとき、重要な画期となるのが「安史の乱」である。安史の乱以前の唐の歴史は、「中国本土」(漢人の住む空間)の北部とモンゴリア、マンチュリア、そして東トルキスタンまでを舞台に展開する。安史の乱以後は、長江流域の存在感が増し、唐は黄河流域と長江流域のみを統治する王朝へと変化している。

 本書の記述は、唐の建国から始まる。隋唐革命が成功した要因のひとつが、ソグド人の協力であるという指摘がおもしろかった。太原の南の介州にあったソグド人のコロニーが李淵の挙兵に従ったことが、あるソグド人の墓誌から明らかになったという。次いで、固原や武威のソグド人集団も李淵に帰順している。

 このあたり、私はさまざまな中国ドラマを思い出しながら読み進んだ、武周時代の記述で、武攸寧、武攸暨の名前を見たときは『風起洛陽』を思い出して、色めき立ってしまった。安史の乱前夜「絢爛たる天宝時代」といえば『長安十二時辰』である。玄宗が政治への情熱を失った頃、モンゴリアでは突厥第二帝国が滅亡し、ウイグル帝国が誕生するという大事件が起きていた。このことが大規模な人間の移動を引き起こす。

 安禄山が拠点とした幽州(河北)には、ソグド人商人・突厥遺民・奚(けい)・契丹など、遊牧系・狩猟系の人々が集まっていた。安史の乱は、彼らエスニック集団の独立運動とみることもできる。唐朝では粛宗が即位し、西域方面に唐軍への参加を呼び掛けた。これにアラブ兵(大食)、ソグド人、東方シリア教会のキリスト教信者などが応え、不空の密教集団も協力している。最終的にウイグル軍が唐軍に参じたことで安史の乱は終結する。しかしその直後、唐朝はチベット軍の侵攻を受け、一時的とはいえ長安を占領されてしまう。チベットも、古くはふつうに好戦的な国家だったのだな。

 安史の乱以後、代宗・徳宗のもとで塩の専売や漕運改革が進められ、唐は財政国家に面目を改めたが、藩鎮の独立割拠を収めることはできなかった。一方、外交面では北のウイグル、西南の南詔、西アジアのアッパース朝等と結んでチベット帝国を封じ込めようとした。この壮大なプランを献策したのは宰相の李泌で(『長安十二時辰』の李必!)、穆宗の時代に唐・チベット・ウイグル三国の講和条約となって実を結ぶ。ああ、ラサへ「唐蕃会盟碑」を見に行きたいなあ。

 唐の滅亡まであと8代。本書は丹念にその衰退と混迷の様子を描いていく。ダメな皇帝列伝といえば明朝だと思っていたが、唐朝の終盤もなかなかのものだ。「会昌の廃仏」で知られる武宗は、道教を除く全ての宗教を排斥の対象とし、三夷教と呼ばれた景教(キリスト教)・祆教(ゾロアスター教)・明教(マニ教)は中国から姿を消してしまう。お~金庸の武侠小説でおなじみ、明教はここで邪教と認定されるのだな。安史の乱によって国力が衰退し、漢民族と非漢民族の対立が深刻化するにつれ、初唐の国際性や普遍性が失われ、「華夷思想」が表面化していく。

 やがて高仙芝・黄巣ら賊徒が登場し、中国全土を荒らしまくる。黄巣軍は広州に侵攻し、広州在住の中国人だけでなく、12~20万人に及ぶイスラーム教徒、ユダヤ教徒、マズダク教徒を殺害したことが、イスラーム史料によって知られるという。黄巣の長安占拠にあたっても、いたるところで人々が殺された。中国の歴史を読んでいると、こういう衰退の時代に生まれ合わせたら、何もどう頑張っても長くは生きられない感じがする。黄巣軍は李克用に討伐されたが、唐の命運はほぼ尽きていた。

 唐の後には「五代十国」と呼ばれる時代が来るのだが、北中国の「五代」は李克用と同系統の沙陀部族出身の王朝で、南中国の「十国」は黄巣と同様、河南から江淮の群盗や塩賊の出身であるという。後者については、玄宗の時代、この地に六州胡(ソグド系突厥)が移住させられていたというのも気になるところだ。

 ぼんやり「国際色豊か」くらいに考えていた唐のイメージの解像度がどんどん上がって、素晴らしく面白い1冊である。やっぱり歴史は何度でも書き直され、読み直さなくてはならないと思う。

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螺鈿・漆絵・卵殻貼/美しき漆(日本民藝館)

2023-04-17 22:43:21 | 行ったもの(美術館・見仏)

日本民藝館 特別展『美しき漆 日本と朝鮮の漆工芸』(2023年4月13日~6月18日)

 日本と朝鮮の漆工芸を展覧する特別展。玄関を入ると、大階段の踊り場の木工箪笥の上には大きな朱の盆が飾られていた。よく見ると太い縞が幾筋も彫り込まれていて『朱塗縞手大盆』という札が添えられていた。左右の壁には熨斗文の藍色の染布。なんていうんだっけ?としばらく考えて、ああ筒描だ、と思い出した。階段下の展示ケースは、左に朝鮮、右に日本の漆工の小物が並んでいた。とにかく2階の大展示室にまっすぐ向かう。

 大展示室は、いつもより少し暗めの印象だった。展示品の保存に配慮しているのかと思ったが、単に雨の日だったせいかもしれない。壁面ケースの右端に「畳具足」と注記のついた鎧があった。あとで調べたら、持ち運びがしやすいように畳める具足をいうのだそうだ。展示品は、亀甲型の小札を綴り合わせてできていた。赤銅色に輝く小札(こざね)は漆を塗って仕上げたもので「白檀塗」と言うらしい。隣には明治時代の和鞍、旗指物の壁掛け(屏風?)、軍配や宝剣の飾り物などが並んでいた。

 本展の開催趣旨には「日本漆工には柳宗悦(1889-1961)が好んだ『漆絵』が描かれたものが多く見られ、朝鮮漆工では貝片で模様を象った「螺鈿」が施された箱類が一際目を引きます」と書かれているが、確かに朝鮮漆工は、螺鈿を上手く使ったものが多い。華美に流れず、品よく愛らしいのが特徴である。朝鮮漆工と取り合わせるように、朝鮮絵画がたくさん出ていたのも嬉しかった。『宣伝官庁契会図』も『瀟湘八景図』も出ていた。また展示室の中央には、いつも小さい展示室に出ている、室町時代の『大壇』(黒い四角形の上に赤い丸が載っている)が鎮座していた。

 2階の併設展(順不同)は、まず「漆工芸の作家たち」。卵殻貼りの技法で、モダンで愛らしい小箱を多数つくった丸山太郎という名前が印象に残った。調べたら、松本民藝館の初代館長であるそうだ。初めて見る名前かと思ったら、2013年の特別展『日本の漆』でも出会っていた。黒田辰秋の巨大な『朱漆三面鏡』は、圧倒的な存在感。いったい誰がどこで使うことを見越して制作したのだろう。ほかに「紙の工芸」「朝鮮時代の磁器」。「河井寬次郎」の部屋には、巻いたままの巻子が何本も展示ケースに並んでおり、何だろう?と思ったら、「軸端」が河井の作品だった。

 1階「日本の陶磁器に見る絵付」は、人も花も鳥も愛らしいが、特に素朴絵ふうの山水図が好き。隣りの「無釉のやきもの」も面白いテーマ設定で、日本の縄文土器あり、アフリカ、南米、中国、朝鮮あり。解説を見ないと、どこの文明圏で生まれたものか、全く判別がつかない。「日本の絣」は夏の近さを感じさせて、涼やかだった。

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中国陶磁多め/安宅コレクション名品選101(泉屋博古館東京)

2023-04-17 01:14:56 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館東京 特別展『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101』(2023年3月18日~5月21日)

 大阪市立東洋陶磁美術館(2022年2月~2024年春頃まで改修工事のため休館中)の中核を占める「安宅コレクション」から国宝2件、重文11件を含む珠玉の101件を紹介する特別展。東洋陶磁美術館には何度も行っているし、「安宅コレクション」展も何度も見ている(2007年の三井記念美術館とか、2012年のサントリー美術館とか)のだが、やっぱり見に行ってしまった。

 第1展示室「珠玉の名品」の冒頭には、単立ケースの『加彩婦女俑』(唐時代・8世紀)。目にした瞬間、あれ回っていない…と思ってしまった。東洋陶磁美術館では、ゆっくり自動回転する展示台に乗せられているのである。静止した状態をしっかり眺めたことが滅多にないので、逆に新鮮な感じがした。引っ搔いたような線刻で、衣の境目や襞が簡略に描き込まれている。髷の左側に切れ込みがあるのは単なる傷か、それとも簪みたいなものを挿したのだろうか。右足の靴をちらりと見せる一方、左足は衣の裾の中に隠している。小さな(小さすぎる)手の指先の繊細な愛らしさも見どころ。

 続いて単立ケースで見せるのは『法花花鳥文壺』(明時代)と『青花蓮池魚藻文壺』(元時代)。後者もいつもは回っている作品だ。正面のギザギザした背びれのグロテスクな魚は鱖魚(ケツギョ)である、という解説が付いていた。桂魚とも言って、唐揚げにすると美味しい魚だ。これ、裏側の蓮の花を挟んで2匹+1匹が向き合っている絵柄もよいので、どこが正面かは決めにくいと思う。

 解説によれば、コレクターの安宅英一と交流があった古美術商「壺中居」の廣田松繁(不孤斎)は『白磁刻花蓮花文洗』(北宋時代)『紫紅釉盆』(明時代)『五彩松下高士図面盆』(明時代)を「三種の神器」と称して秘蔵していたが、最終的に全て安宅の所有に帰した。この中では、私は『紫紅釉盆』が好き。『五彩』は釉薬が剥げやすいが、これは完璧である点で貴重なのだという。剥げたり欠けたりした状態を賞玩するのが日本の「茶道」の美学だと言われるが、安宅の美意識はちょっと違う。なんというか、美の王道を求める「皇帝のコレクション」の趣きがある。

 それにしても、安宅コレクションといえば韓国陶磁がメインだと思っていたので、この展覧会の中国陶磁推しにはちょっと面食らった。「珠玉の名品」の後半には、高麗・朝鮮陶磁が登場する。瓜や筍のかたちを模した水注がかわいい。『青花虎鵲文壺』(朝鮮時代)は、ツートンカラーのかわうそみたいな虎の図に和む。

 そのまま第2展示室(エントランスホールの裏)『韓国陶磁の美』に流れ込むと、いきなり特別出陳の『楊柳観音像』(徐九方筆、高麗時代、1323年)が掛かっていて驚く。2016年の泉屋博古館京都『高麗仏画』展でも拝見した名品である。岩座に片足を踏み下げた姿勢で坐する観音像。縁飾りのついた赤い衣(インドのサリーみたい)を纏い、円文のベールを被る。観音の左の岩の上には、受け皿つきの水瓶らしきものが描かれている。

 第3展示室は再び「中国陶磁の美」。単立ケースに入っていたのは『木葉天目茶碗』(南宋時代)『油滴天目』(南宋時代)『飛青磁花生』(元時代)。その並びで、展示室の中心線の最奥にあったのが『青磁水仙盆』(北宋時代)。どれも文句のつけようがない逸品である。『釉裏紅牡丹文盤』(明時代)は偶然が生んだ貴重な色彩。細身で愛らしい『加彩宮女俑』(唐時代)が来ていたのも嬉しかった。明・嘉靖年間の『黄地青花紅彩牡丹唐草文瓢形瓶』について「北欧デザインをも彷彿とさせる可愛らしさである」という解説が付いていたのは、なるほど確かになあ、と微笑ましかった。

 最後の展示室で、安宅コレクションと住友グループの関係をおさらいする。安宅産業の経営が行き詰まり、コレクション散逸の危機に陥ったとき、これを救ったのが住友グループだった。大阪市が安宅コレクションを購入するための資金を全額寄付し、その運用資金で東洋陶磁美術館を設立したのだという。すごいなあ。この最高級の美術コレクションを守った先人たちの努力が、どうか末永く大阪の地で引き継がれますように。

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アイスショー"Stars on Ice 2023"横浜公演千秋楽

2023-04-13 23:12:06 | 行ったもの2(講演・公演)

〇SOI(スターズ・オン・アイス)Japan Tour 2023 横浜公演(2023年4月9日 13:00~、横浜アリーナ)

 久しぶりにフィギュア・スケートを生観戦してきた。昨年7月のTHE ICE愛知公演以来である。11月に札幌のNHK杯を見に行くつもりでチケットを取り、宿とフライトも確保していたのだが、身内に不幸があって行かれなかった。まあそんなこともある。その後、プロに転向した羽生くんの怒涛のショーラッシュが続いたが、都合がつかなかったり、狙ったチケット抽選に落選したりしていた。そんな中で、なぜかこのショーは、発売開始からしばらく経ってもチケットが残っていて、楽に取れたのである。

 男子は、羽生結弦、宇野昌磨、三浦佳生、友野一希、ジェイソン・ブラウン、山本草太、イリア・マリニン、島田高志郎。女子は、坂本花織、宮原知子、ルナ・ヘンドリックス、三原舞依、渡辺倫果、島田麻央。ペアは、アレクサ・クニエリム&ブランドン・フレイジャー、三浦璃来&木原龍一(りくりゅう)。アイスダンスは、マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ(チョクベイ)、パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ。かなり贅沢な面子だと思う。

 しかし横浜公演に先立つ大阪公演、奥州公演では、羽生くんが日替わりで「オペラ座の怪人」「阿修羅ちゃん」「あの夏へ(千と千尋の神隠し)」を滑ったことが、圧倒的に話題を独占してしまった。横浜だけ全4日の日程が組まれていたので、千秋楽は何を滑るか、わくわくしながら見に行った。

 ほかの出演者については、あまり事前の情報を得ていなかったので、会場でいろいろ発見があって楽しかった。三浦佳生くんの「美女と野獣」は、ショーとは思えない構成とスピードで攻めまくる感じが好き。友野一希くんの「こうもり」は軽快で楽しい。宮原知子ちゃんは、むかしステファン・ランビエールが滑っていたシャンソンの名曲「行かないで(ヌギッパ)」を披露。これが絶品。いま自分のブログを見返したら、知子ちゃんは、2022年のSOI東京公演で引退を表明したのだった。あまり話上手でなく、控えめな人柄なので、プロとしてやっていけるのか?と心配する声があったのが、今となっては嘘のよう。どんどん表現力に磨きがかかっている。

 島田高志郎くんの「ムーラン・ルージュ(Come what may)」も、品よく色気があって美麗。ランビエール先生直伝のスピンだなあ、と感じる。さらに宇野昌磨くんは「パダム、パダム」で、全体にフランス成分多めで、会場にはいないランビエール先生の存在感を強く感じた。

 「四回転の神」イリア・マリニンくんの演技は初めて見たが、決してジャンプだけの選手ではなく、ダイナミックで表現力豊かで見とれた。群舞では、日本の女子選手たちと一緒にベストにネクタイの制服姿で登場。「ハリー・ポッター」に出てくる男子学生の雰囲気で可愛かった。坂本花織ちゃんは、久しぶりに爽快な「マトリックス」が見られてテンションが上がった。この日はお誕生日で、観客からハッピーバースディの祝福も。三浦舞依ちゃんの「さくら」は、相変わらずあざといくらい愛らしい。小道具の花が文句なく似合う。あと、初めて見た島田麻央ちゃん、難しいジャンプをガンガン跳んでいてびっくりした。応援していきたい。

 オーラスの羽生くんは「阿修羅ちゃん」だった。鬼のようなステップ!ステップ!ステップ!で魅せる実験的なプロ。いや、途中で助走もなくきれいなジャンプ(3Lo)が入るのだが、え?跳んだの?というくらいにしか記憶に残らない。あとはひたすら氷の上で高速ステップを踏んで、観客を煽りまくる。私は3階スタンド席だったけど、会場中が大喜びの大盛り上がり。これは、プル様の「セッボン(sex bomb)」の景色を思い出すなあ…と思った。このプログラム、超人的な運動量だと思うのに、フィナーレで再登場したら、さらっと4T跳んで見せてくれたのにも驚いた。いま、体力的にも技術的にも最高に油が乗っているんだろうなあ。

 それから、大阪・奥州・横浜10公演をSNS発信で盛り上げてくれたジェイソンには深く感謝したい。出演者たちが退場口に消えたあと、最後に羽生くんとジェイソンが二人でリンクに戻り、手を取り合って挨拶していたのには納得。本当に楽しいショーだった。

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