■大和文華館 特別展『いぬねこ彩彩(さいさい)-東アジアの犬と猫の絵画-』(2023年10月7日~11月12日)
関西旅行初日、京都から移動して奈良方面へ。本展観では、中国、朝鮮半島、日本における、12~20世紀に制作された犬図・猫図を通して、東アジアにおける多彩な動物画の一様相を紹介する。2018年の特別企画展『生命の彩-花と生きものの美術-』を見逃したことを激しく悔やんでいたので、本展は絶対見に来ようと思っていた。冒頭、白っぽい画帖が出ていると思ったら、八大山人の『安晩帖』でびっくりした。第9図「猫図」である。これは見覚えがある、と思って記録を探ったら、2011年に泉屋博古館の『住友コレクションの中国絵画』で見ているらしい。以前、『安晩帖』の実見した図を数えたときは落としていた。全20図のうち、まだ「2.瓶花図」「4.山水図」「6.魚図」「7.叭々鳥図」「9.猫図」「10.蓮翡翠図」「12.冬瓜鼠図」しか見たことがないのだ。このネコちゃん、背中を丸めた黒白ブチなのか、2匹いるのか判然としない。ふわふわした丸顔はちょっとブサカワ系。八大山人は、もう1点『睡猫図』(久保惣記念美術館)という初見の作品を見ることができた。丸木のように細長い岩の頂上で眠る猫。黒白ブチの柄が岩と一体化している。
伝・李迪筆『狗図』は、前向きにうずくまる子犬と、背中を向けて寝そべり見返るポーズの子犬の2幅がセット。どちらも小さな画面に子犬だけを大きく描く。図録の解説によれば、明時代の模本である可能性も高いとのこと。しかしこの2匹のポーズは、かわいい子犬を描く定型表現として広まっていく。今春、府中市美術館の『江戸絵画お絵かき教室』でも同様の指摘がされていたと記憶する。蘆雪の足投げ出しわんこも、この伝・李迪筆『狗図』のバリエーション(正面を向かせてみた)ではないかと思う。
ネコ図では、明・宣宗皇帝筆『麝香猫図』に再会できて嬉しかった。昨年、神戸市博の『よみがえる川崎美術館』で見て、あっけにとられた作品である。額に黒い斑点を載せた、愛嬌たっぷりのネコ。同じように額に黒い斑点・黒い尻尾を持つ白猫が丸くなってうずくまる作品『「徽宗皇帝猫」模本』(狩野惟信『唐画手鑑』より)は初めて見た。こちらは金目でちょっと顔がおじさんぽくて怖い。解説に「この原図とみなせる、水戸徳川家に伝来していた伝徽宗『猫図』は、現在も伝わっている」とあった。しかし残念ながら原図は本展には出ていなかった。見たいなあ…。中国絵画では、清末や民初の猫図が可愛くて魅力的だったことを覚えておきたい。
日本絵画は、応挙、蘆雪、若冲、蕪村など(みんなイヌ図)を見ることができた。宗達のウナギイヌみたいな黒白わんこも来ていた。
■奈良国立博物館 特別展『第75回 正倉院展』(2023年10月28日~11月13日)
近鉄奈良駅に着いたのは午後4時頃。今夜は奈良(新大宮)泊で、2日目の朝イチに正倉院展を見る予定だったが、奈良博に行ってみる。「奈良博メンバーシップカード」では、同じ特別展を2回まで見ることができるのだ。今日は下見をして、明日また見に来てもいいと思って入館することにした。今年は(メンバーシップ会員は)事前予約が免除されているのもありがたい。
会場内は、ちょっと驚くくらい空いていて、第1展示室からゆっくり見ることができた。今年の見ものは『楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんのそうのびわ)』だろう。撥受けに「騎象奏楽図」が描かれたものだ。天平のむかしを偲ぶというより、国際都市・長安に思いを馳せてしまう。『九条刺納樹皮色袈裟(くじょうしのうじゅひしょくのけさ)』は見たことがあるように思ったが、奈良博サイトの「出陳宝物一覧」によれば、前回出陳は1999年とのこと。「天皇として史上初めて出家し」と解説にあって、まあそうなんだけれど、聖武天皇としては、中国の皇帝の先達に倣う気持ちだったんじゃないかなと思う。
『尺八』や『横笛(おうてき)』など礼楽関係の資料は、地味だけど興味深い。『唐古楽安君子半臂(とうこがくあんくんしのはんぴ)』など、大型の布製品が目立っていたのは、進化した保存・修復技術の成果ではないかと思う。『布作面(ふさくめん)』も2件出ていた。シックな『斑犀如意(はんさいのにょい)』の美しさは、高貴な大人の持ちものを思わせる。柄に「東大寺」の刻銘あり。これは、翌日、法華堂を拝観した折に思い出すことになる。
文書類は、東大寺開山・良弁僧正1250年御遠忌にあわせてか「良弁」の署名のあるものが多数出ていた。個人的に嬉しい驚きだったのは「下総国葛飾郡大嶋郷戸籍」で、現在の東京都葛飾区と江戸川区付近を本拠地とした人々の戸籍だという。私は江戸川区の小岩の生まれで、小学校の社会科(郷土の歴史を学ぶ授業)で「小岩」はむかし「甲和里(こうわり)」と呼ばれていたと習った記憶があるのだが、その「エビデンス」を見たことは一度もなかった。それが、目の前の正倉院文書の冒頭に「甲和里」の文字があったのである。小学校で教わった先生の顔が浮かんで、感動してしまった。
1時間くらい参観して、私が会場を出るとき(17時過ぎ)はまた混んでいたので、ラッキーな時間帯に入ったのかもしれない。仏像館もひとまわりして、旅行初日の日程を終えた。