〇『在一起』全20集(上海広播電視台等、2020)
新型コロナウイルス感染症の爆発的拡大に遭遇した中国の、さまざまな人間模様をオムニバス形式で描いたドラマ。脚本は創作だが、取材に基づき、事実を取り入れているところもあるため「時代報告劇(ルポルタージュ?)」という冠が付いている。上下2集で1話を構成しており、「生命的拐点」「摆渡人」「同行」「救護者」「捜索24小時」「火神山」「方艙」「我叫大連」「口罩」「武漢人」の10話から成る。監督・脚本、そして出演者も1話ごとに異なり、いずれも、いま中国で人気の(あるいは定評のある)スタッフ・キャストが関わっている。
「生命的拐点(命のターニングポイント)」「救護者(看護師)」「火神山」は、真正面から医療現場の緊張と労苦を扱う。「火神山」は、わずか10日間で武漢に建設された新型コロナの専門病院。そこに配属された人民解放軍の医療チームの女性兵士たちにスポットを当てる。「方艙(避難所)」は軽症者の臨時受入れ施設を舞台に、医師と看護婦たちの奮闘を描く。「我叫大連(私の名前は大連)」は大連人の青年が、封鎖中の武漢で高速鉄道を下ろされ、病院の清掃員として働くことになる物語。
おかげさまで、この病気の恐ろしさ、医療現場の大変さはよく分かった。病状が急変しやすく、午前中は普通に会話できた病人が午後には帰らぬ人になっていたりする。症状が悪化すると、心臓マッサージやAEDを繰り返しながら、気管挿管を行うので、1人の患者に3人や4人の医師・看護師の対応が必要になる。重症者が多ければ、次々に処置の必要が発生して休む暇がない。
エピソード「救護者」では「沈黙型低氧血症」という症状が描かれていた。外形的に明らかな症状がなく、付き添い人も気づかないうちに、急激に血氧(血中酸素)が低下してしまう。緊急処置に取り掛ったときはもう手遅れで、無言で立ち尽くす医師。看護師の女性が幼い声で繰り返す「他已経没了(もうお亡くなりになりました)」が耳に残ってつらい。このドラマ、基本的に人々が困難を乗り越える姿を描くことが目的で、どのエピソードも明るく終わるのだが、「救護者」は肺腑を抉られる展開で、さすが『長安十二時辰』『九州・海上牧雲記』の曹盾監督だと思った。
一方で、軽症者の現場を舞台にしたエピソードでは、高齢者のわがまま、大小便の世話やトイレの清掃など、きれいごとで済まない話題もよく拾ってあった。
「同行」は、上海の研修医の青年と荊漢市の実家に里帰り中だった医師の女性が、ともに武漢を目指す物語。道中、よそ者を村に入れないように三国志の英雄よろしく長刀(の模造品)を構えて道を塞ぐおじさんに出会う。当時のB級ニュースで話題になっていた一件だ。都市部の発展はすっかり日本を追い越してしまった中国だが、農村部はまだまだ昔のままで、他のドラマではめったに聞くことのない、訛りのきつい中国語も珍しくて面白かった。
「摆渡人」は封鎖された武漢でデリバリーサービス「美団」の配達員として働く男性が主人公。「捜索24小時」は、北京の疾病予防管理センター(中国版CDC)のチームが、ショッピングセンターで発生したクラスタの感染ルートを捜索する。「犯人」と目された男性の検査結果が陰性で落胆するシーンがあり、核酸検査(PCR検査)の「偽陰性」問題も学べる仕掛けになっている。
「口罩(マスク)」は寧波の女性経営者がマスク製造工場を立ち上げる物語。「武漢人」は封鎖を命じられた団地の女性管理人の献身的な仕事ぶりを描く。このドラマ全体を通して、気が強くて、弁が立って、働き者の女性が多くて気持ちよかった。しかし「口罩」の女性経営者は、家庭より仕事好きを自覚していて、夫に切り出された離婚を受け入れる。「武漢人」の女性管理人はシングルマザーで、偶然、団地に引っ越してきた前夫と出会ってしまう。このほかにも父と息子、嫁と姑など、家族関係を味付けにしたエピソードが多く、変わらない人情と変わりゆく社会を感じるドラマでもあった。
この作品、国家広播電視総局の指導の下に制作されているので、中国政府のプロパガンダといえばそのとおりで、触れてはいけないことには一切触れない。当時、国家の上層部が何をどう判断したかは霧の中だが、危機に臨んだ庶民と医療関係者の踏ん張りはよく描けていると思う。あと、妙にカップラーメンを食べるシーンが多いのはスポンサーの関係、という情報には笑ってしまった。政府の指導よりスポンサーの意向に影響されやすいのかもしれない。
ドラマの完成度としては、やはり「救護者」が出色で、次に好きなのが「武漢人」。団地の住人で、息子がこの世にいないことを忘れかけている、アルツハイマーの老学者を演じる倪大紅が実によい。主人公の前夫役・王茂蕾のコミカルな演技には何度か爆笑。憎まれ役を演じても憎まれない、愛嬌のある俳優さんである。