見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

さまざまな戦争とニュース/出来事との距離(町田市立国際版画美術館)

2023-06-30 21:25:23 | 行ったもの(美術館・見仏)

町田市立国際版画美術館 企画展『出来事との距離-描かれたニュース・戦争・日常』(2023年6月3日~7月17日)

 最近、「攻めた」企画の続く同館のコレクション展。ニュースや戦争を描いた作品を通して、過去・現在のアーティストが「出来事との距離」にいかに向き合ってきたかを探る。展示は5つのセクションから成り、それぞれ取扱う時代や場所は大きく異なるが、全体として「出来事との距離」というテーマに収束していくような構成である。

 はじめは「ゴヤが描いた戦争」で、スペインの画家ゴヤ(1746-1828)が、ナポレオンのフランス軍による侵攻とスペイン民衆の抵抗を題材に制作した版画集『戦争の惨禍』から20件が展示されている。先日、岡田温司『反戦と西洋美術』を読んで、まとめて見たいと思っていたので、よい機会だった。暴力を振るう者と振るわれる者は固定でない(抵抗者も野獣になる)という認識で描かれた人々の姿は、どうしようもなく暗い深淵を覗き込むような感じがする。

 続く「戦地との距離」は、アジア・太平洋戦争を体験した日本の画家たちが生み出した作品群。浜田知明(1917-2018)の名前と、衝撃的な作品『少年兵哀歌(風景)』はどこかで見た記憶があったが、詳細は思い出せなかった。羽根をむしられた鶏みたいに、ほとんど「人間」の原型を留めない状態で、大地に打ち捨てられた女性の遺体を描いている。

 日本版画協会が企画し頒布した『新日本百景』は、恩地孝四郎や前川千帆による、懐かしい日本の風景版画集で、ちょっと一息つく。大阪道頓堀や阪神パークに混じって、台北東門や朝鮮金剛山が入っているのが時代性である。「大川端(東京)」の1枚は、遠目に見てすぐ谷中安規(風船画伯!)の作品だと分かった。畦地梅太郎『満州』は、青い空、黄色い土、濃いピンク(紅)色の壁など、大胆な色づかいが大陸ふうである。

 「浮世絵報道と『報道』」は月岡芳年の『魁題百撰相』から。彰義隊と官軍の戦いを実際に取材して描いた作品である。南北朝時代から江戸初期の歴史上の人物に託して描いているのだが、ときどき、妙に近代的な紛争の人物が混じる。赤熊(しゃぐま)を被っていたり。浮世絵は日清・日露戦争の「報道」でも活躍する。小林清親の『我艦隊於黄海清艦撃沈之図』は、巨大な戦艦が斜めになって波の下に姿を消しつつあるところだ。弁髪姿の清兵たちが、わらわらと海面下に沈んでいく様子も描かれている。浅井忠の『従征画稿』は、戦闘の合間ののんびりした日常生活も描き留めている。

 「ニュースに向き合うアイロニー」は近現代作家の作品を紹介。アメリカの歴代大統領のポートレート写真に自分の写真を重ねた郭徳俊の作品、おもしろかった。さらに「若手アーティストの作品から」と題した最後のセクションでは、松元悠に惹かれた。気になる話題や事件を見つけると、その現場に赴き、想像を交えて、その事件にまつわる人物を演じたり、リトグラフ作品を制作したりする。実は本展のチラシ、ポスターに使われているのも「蛇口泥棒」事件から発想した松元の作品である。悲惨、滑稽、懐旧など、いろいろな感情に揺さぶられる展覧会だった。

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文芸・絵画とともに/琳派のやきもの(出光美術館)

2023-06-28 21:58:43 | 行ったもの(美術館・見仏)

出光美術館 尾形乾山生誕360年『琳派のやきもの -響きあう陶画の美』(2023年6月10日~7月23日)

 江戸時代中期を代表する京の陶工・尾形乾山(1663-1743)をはじめとして、継承されゆく「琳派のやきもの」の世界を紹介する。という趣旨の展覧会だが、展示品は「やきもの」に限らないし「乾山」に限らない。同館の琳派コレクションの厚みをたっぷり堪能できる企画である。

 冒頭のセクションは、乾山が好んだ銹絵(さびえ)を中心に「詩書画の陶芸」を展示。銹絵とは、白化粧した下地に鉄釉という茶色から黒褐色の釉薬で絵を描いたもの。磁州窯系の中国陶器『白地黒花楼閣人物文枕』(元時代)が出ており、乾山の銹絵はこの磁州窯(日本では絵高麗とも呼ぶ)を参考にしたという解説が付いていた。そのせいか分からないが、乾山の銹絵の皿は、絵柄も中国趣味が濃厚である。『銹絵楼閣山水図八角皿』とか『銹絵漁村夕照図茶碗』とか、実は本場の中国にこういうやきものはない気がするが、皿や茶碗という小さなキャンバスに封じ込められた中国ふうの山水がとてもよい。それと、山水図でも花鳥図でも、添えられた漢詩や漢文の一節がいい仕事をしている。

 乾山、それに光琳の絵も、19世紀になって酒井抱一らの顕彰活動が実を結ぶ以前は、桑山玉州などの文人墨客に「飾り気の無さ」を愛されていたという。「琳派=飾りの美学」という昨今の評価と対立するようで面白い。

 乾山は王朝文学の情緒を取り入れたやきものも多く作っている。こちらは銹絵でなく色絵が多い。『色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿』や『色絵百人一首和歌角皿』など。後者は色絵の隣りに和歌が添えてあるが、前者は和歌が裏面に書かれていて、表面の絵を見て、どの和歌かを推測させる趣向だろう。おもしろい。ただ、これらの色絵皿は、菓子や料理を載せる使い方が全く想像できない。絵を見て楽しむだけなのだろうか。

 後半には、多数の琳派の屏風も登場。光琳のちょっと抽象画みたいな『流水図屏風』。同じく光琳の『禊図屏風』(川辺に幣を立てて座る男)。流水モチーフの関連で近いところに出ていたのが乾山の『染付白彩流水文鉢』で、泡立つ波頭のかたちに縁をデコボコに切り取った造形が斬新。伝・光琳の『紅白梅図屏風』(六曲一双)は、大好きな作品で、とても久しぶりに見た気がした。

 狩野重信『麦・芥子図屏風』と仁清『色絵芥子文茶壺』も華やかな共演。地味な麦図と華やかな芥子図は、元来、全く無関係だったと考えられているようだが、この二作品を取り合わせたのは、なかなかの慧眼だと思う。

 江戸時代後期の琳派作品では、鈴木其一の『桜・楓図屏風』が眼福。やきものでは、仁阿弥道八の『銹絵金彩桐一葉形皿』や『色絵桜楓文鉢』がよかった。色もかたちも、どんどん自由になっていく感じがした。

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2023ご近所・夏の花

2023-06-23 20:40:22 | なごみ写真帖

我が家の近くの小さな緑地では、毎年、この時期に大輪のユリが花を咲かせる。ずっと機会を逃していたが、ようやく写真を撮ることができた。ちなみに花の陰には、関東大震災の供養塔と東京大空襲の慰霊碑がひっそりと立っている。

花の多い地域なので、どの季節も街歩きが楽しい。アジサイは、こういうぽってりしたピンクも捨てがたい。

これは私の好きな青い花、ルリマツリ。

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令和4年度新収品+常設展(東京国立博物館)

2023-06-22 21:41:38 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 本館・特別1室-特別2室 特集『令和4年度新収品』(2023年5月30日~6月25日)

 ホームページに「毎年開催する新収品展」という記載があるのだが、実はあまり記憶がなかった。調べたら、2020年と2021年は10月に平成館の企画展示室で開催されていたようだ。10月は展覧会が多い上に、平成館はどうも見落としがちなのである。自分のブログ内を献策したら、平成17年度(2006年)とか平成23年度(2012年)とか、すごく古い記事が出てきて懐かしかった。

 今回の展示は34件。ローマ時代のガラス三連瓶とか、インドネシアのクリス(短剣)とか、ミクロネシア・ヤップ島の石貨とか、意外な地域の品が混じっていて面白かった。中国・朝鮮関係はもちろん多い。これは唐時代・7~10世紀の彩色塑像で、CTスキャンで判明した制作技法から「この菩薩像は中国甘粛省の石窟寺院にあったものと考えられます」とあった。敦煌かなあ。そこまで断定はできないんだろうか。

 また、紺綾地龍文様刺繡の袍は、清朝皇帝の龍袍のようだが、おそらく舞台衣装で、皇帝を演ずる俳優が着たものだろうとういう。確かに横幅があり過ぎて違和感があった。

 中細形銅戈は、中国ものかと思ったら、弥生時代中期のものだった。日本でもこんな立派な青銅製の武器が出土しているのかと驚いた。もっともWikiを読んだら「日本における銅戈はその形状や使用痕が殆んどないことから、戦闘用ではなく祭礼用であろうと推測される」とあって、ほっとした。東京帝室博物館で博物館員から鑑査官、歴史課長を歴任した高橋健自氏(1871-1929)旧蔵、出土地は不明という。

 これは朝鮮時代の文字絵屏風。トラがちょっとシン・ゴジラの蒲田くんぽくてかわいい。

 また小さいがリアルな「泣く子」「薬玉」という2件の「衣装人形」が出ていた。作者の平田郷陽(1903-1981)は、安本亀八の弟子だった父の跡を継ぎ、生人形師として修行し、1955年には重要無形文化財「衣裳人形」保持者に認定されている。明治の技芸が、ちゃんと受け継がれ、伝わっているということが感慨深かった。

■本館・便殿 『鳳輦』(2023年1月11日~2024年3月31日)

 階段を上がったところの小部屋に珍しい品が展示されていた。孝明天皇が安政2年(1855)に新造内裏(現在の京都御所)に遷幸する際に用いられ、また明治天皇の東京行幸の際にも用いられたものだという。がっしりして重たそうで、何人くらいで担ぐのかが気になった。

■東洋館・8室(中国の絵画) 特集『水中の楽園』(2023年6月6日~7月9日)

 『蓮池水禽図』『藻魚図』など、水辺や水中の動植物を描いた絵画を集める。永瑢筆『魚蔬図巻』を見つけて、懐かしい人に遇った気持ちになった。作者は乾隆帝の第六皇子。振り返ったら、私は2022年にもこの作品を見て、胸を騒がせていた。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2023 新潟"

2023-06-20 19:51:05 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023 in 新潟、初日(2023年6月16日 17:00~)/3日目(2023年6月17日 14:00~)

 アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)新潟公演を見てきた。金曜は全日有休を取ったにもかかわらず、午前中は在宅でオンライン会議、PCを抱えて新幹線に乗り、車中でも仕事のメールを書いていた。それでも6年ぶりの新潟に来ることができて嬉しかった。初日は東側のSS席の真ん中付近。朱鷺メッセのSS席はアイスリンクが近いので、スケーターが大きく見える。「ヒスメ」で周回する羽生くん、「Simple Song」のステファンも間近に見えた。

 2日目はショートサイド後方のA席、やや西側寄り。リンク全景が把握でき、ステージとスケーターが一緒に視界に入るのがありがたい。

 出演スケーターは、Aツアー(幕張、宮城)から、山本草太、友野一希、荒川静香、フィアー&ギブソンがOUT、無良崇人、デニス・バシリエフス、宮原知子、坂本花織、パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ(パイポ―)がIN。ゲストアーティストは中島美嘉さん、ディーン・フジオカさん、小林柊矢さんに交代した。音楽監督の鳥山雄司さん、バイオリンのNAOTOさん、キーボードの宮崎裕介さんは継続。

 金曜はBツアーの初日だったので、どんな楽曲・プログラムがどんな順番で来るのか、全く分からず、驚きの連続だった。アンサンブルスケーターが円陣をつくった状態から始まり、黒のボトムにロイヤルブルーの布を巻きつけたような衣装で次々にスケーターが登場。そのまま最初のコラボプロになだれ込む。ステージにはディーン・フジオカさん、アニメ「ユーリ!!! on ICE」の主題歌「History Maker」だった。私は、このアニメ、存在は知っていたけど見たことがなくて、主題歌を聴くのも初めてだった。それとディーンさんも、俳優としては知っていたが、こんなにパワフルな歌唱力の持ち主とは全く知らなかったので、ただ呆然。ディーンさんを載せたステージの一部がリンク中央に移動(ルンバと呼ばれていた)すると、その周りを、スケーターたちが跳びまわり、滑り抜け、技とスピードを競い合う。フィニッシュが各人のレジェンドプログラムの決めポーズだったというのは、あとで知った。

 ディーンさんは後半では、しっとり聴かせる「sukima」をステファンとコラボ、田中刑事くんとは熱い「Apple」を披露。ディーンさん、2日目のMCで、スケーターが素晴らしいので自分も観客のひとりのような気分になってしまう、いや、しっかり仕事しなくちゃ、と自分に言い聞かせていて、微笑ましかった。と思ったら、突然、中国語と英語でもコメント。中国語では、遠くから来てくれてありがとう的なことを言っていたと思うのだけど定かでない。最後の「難忘的表演」しか聞き取れなかった。

 なお、ステファンは、初日が「Simple Song」2日目はマーラーで、Aツアーのプロを2回ずつ見ることができた。ジョニーは2プロとも持ち越し。新潟公演のプログラムに羽生くんとの対談が掲載されていて、二人が最初に会ったのは、羽生くんがシニアに上がった2010年だという。この年はFaOIが始まった年でもあり、Wikiを見たら、最初のFaOI公演の開催地が新潟なのだ。あの頃、女の子みたいに華奢だったジョニーも、年齢を重ねて、ずいぶん体形も変わったけれど、ジョニーのスケートはジョニーのままで、プロスケーターとしての最後の演技を新潟で見ることができて感慨深かった。

 パパシゼは、前半のトリは「Roses」というピアノ曲プロ。甘く仄暗く不穏で、なんというか文学的。後半は映画みたいな長机プロを持ち越し。Bツアーから参加のパイポ―は、中島美嘉さんとのコラボ「桜色舞うころ」がびっくりするほどよかった。

 宮坂知子ちゃんは初日がステファンの「Slave to the music」の「完コピ」。躍動感にあふれ、素晴らしかったんだけど、私の座席は、クライマックスのスピンが正面のライトの直射に邪魔されてよく見えず、2日目こそしっかり見ようと思っていたら、別プロだった。デニスのコラボプロ「茶色のセーター」もよかったなあ。織田くんの「瞳を閉じて」もよかったし、今公演はコラボプロが全て私好みだった。あ~ハビの2プロ、ややエキゾチックな曲と、軽快でおしゃれなショーマン的な曲もよかった。

 それらを全て超えてしまったのが大トリ、中島美嘉さんと羽生くんのコラボ「GLAMOROUS SKY」ということになるのだろう。このプロのことは、今週末、神戸公演のライブビューイングを見てから書こうと思う。私は、初日、衝撃が強すぎて、ポカ~ンという状態だったのだが、徐々に魅力を噛みしめているところだ。

 初日の夜公演が終わって、徒歩で新潟駅方面に向かう途中、前方で女の子たちがきゃあきゃあ騒ぐ声が聞こえたので、近づいてみたらパパシゼのガブリエラさんが、ラフな黒いワンピース姿で、にこにこしながらコンビニに入っていくところだった。水色のTシャツ姿のハビエル・フェルナンデスは、連れの男性と駅のほうに歩いて行った。こういうのも地方公演の小さな楽しみ。

 あやうく書き落とすところだったが、両日とも最後は羽生くん渾身の「ありがとうございました!」を聞けた。初日は「みや!」というみやかわくん(宮川大聖さん)への愛ある呼びかけで場内が騒然となる場面も体験できた。

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女子的中華世界/雑誌・すばる「中華(ちゅーか)、今どんな感じ?」

2023-06-19 21:38:32 | 読んだもの(書籍)

〇雑誌『すばる』2023年6月号「特集・綿矢りさプロデュース 中華(ちゅーか)、今どんな感じ?」 集英社 2023.5

 中国発の幻想ファンタジー小説『魔道祖師』の作者・墨香銅臭氏が誌面に登場すると分かって、多数の『魔道祖師』および『陳情令』ファンが買いに走ったため、この雑誌、あっという間に店頭から消えてしまった。初版5千部を5月6日に発売した後、9日には1万部の増刷が決まり「文芸誌『すばる』が初の重版」というニュースにもなっていた。私は6月に入って、ようやく買うことができた。特集は100ページくらい(全体の3分の1程度)だが読み応えがあった。

・墨香銅臭、括号、綿矢りさ「良い物語を創るのに必要なこと」

 墨香銅臭さん(女性)は90年代前半の生まれだろうか(2015年発表の『魔道祖師』を「大学四年生の卒業間際」に書き始めた、と書いている)。括号さん(女性)はラジオドラマ『魔道祖師』の中国語版と日本語版の監修を担当した方。綿矢りささんは1984年生まれの芥川賞作家、知らなかったが、いま家族の都合で北京にお住まいらしい。この女性三人が『魔道祖師』に関するトークを展開するのだが、一番驚いたのは、綿矢氏が『魔道祖師』を実によく読んでいること。魏無羨や藍忘機のキャラクターの把握も的確だが、聶懐桑と聶明玦が一番好きと語って、「この二人が好きという感想は、これまであまりいただけなかったので」と墨香さんを驚かせている。

 墨香さんと括号さんが日本のアニメを見て育ったというのは想定の範囲内。墨香さん、『らんま2分の1』や『犬夜叉』がお好きなのか。小説では『嵐が丘』が好きで「激しい憎しみと激しい愛情が入り混じるような感情には、なんだか心のふるさとに戻ったような懐かしさ」を感じるというのが、とてもいい。影響を受けた作品を聞かれると、即座に「金庸先生の武侠小説です!」と答えた上で、90年代の香港映画などを挙げている。もともと中国の伝統文化が好きで、『魔道祖師』執筆当時は「魏晋南北朝に夢中でした」ともいう。

・綿矢りさ「激しく脆い魂」

 中華耽美小説を(ネット翻訳で!)読み始め、柴鶏蛋の青春BL小説『上瘾』に出会い、次いで『魔道祖師』に熱中した次第を振り返るエッセイ。ドラマ『陳情令』で魏無羨を演じたシャオ・ジャン(肖戦)の「美しさと儚さと健気さを同時に感じさせる顔相」を中国語で「易砕感」と表現すること、日本では、デビューした頃の中森明菜さんがそんな眼をしていた、という指摘が新鮮だった。

・佐藤信弥「『陳情令』のルーツ――仙侠と武侠、金庸作品との関係、時代背景」

 金庸『神鵰侠侶』『笑傲江湖』との関係、『魔道祖師』の時代背景等について語る。中国時代劇では三国志物以外に魏晋南北朝時代を舞台にした作品は多くなく、架空時代劇の『上陽賦』は、この時代の貴族制のあり方をよく表現できているとのこと。未見なのだが、見てみようかしら。またブロマンスもののおすすめドラマとして『逆水寒』『山河令』『鎮魂』『君、花海棠の紅にあらず』が紹介されている。

・はちこ「中華BL二十五年の歩み――誕生、発展、規制、そして再出発」

 中国初のBL向け掲示板が設置された1998年を起点とすると、中華BLはすでに25年の歴史がある。日本のBL文化と中華BLの類似点・相違点の分析は、個人的にとても興味深い。著者は、なぜBLが好きになったかを自問自答した結果、「私の好きなキャラがもっと愛されてほしかった」という単純な気持ちに行き当たる。これはちょっと分かる気がした。

・綿矢りさ「パッキパキ北京」(小説)

 コロナ規制が急激に緩和された、2022年のクリスマス前後から始まる物語。仕事で北京に赴任している夫の希望で、菖蒲(アヤメ)さんは愛犬のペイペイを連れて、北京に向かう。菖蒲さんは、銀座のお店でホステスをしていて、二十も年上の夫に見初められて結婚した。学歴も教養もあり、地位も収入もあるビジネスマンの夫だが、中国では適応障害を起こしていた。中国には何の思い入れもなく、中国語も喋れない菖蒲さんは、抜群のコミュ力とスマホの自動翻訳を武器に、どんどん環境に馴染んでいく。中国人大学院生のカップルと三角関係になりかけたり、夫と同時にコロナに倒れる危機もあったが、乗り越える。しかし夫から子どもを産んでほしいと言い渡された菖蒲さんは、この結婚生活の継続が無理であると判断し、男も高級バッグもなくても完全勝利できる女を目指し、阿Q的精神勝利法を極めることを決意する。

 ふだんあまり小説を読まない私だが、面白く読めた。菖蒲さん、本能と欲望に忠実のように見えて、観察や省察が的確で、これは小説の中にしかいないキャラだなあと思った。

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2023新潟旅行おまけ:新潟駅ぽんしゅ館

2023-06-19 00:10:11 | 食べたもの(銘菓・名産)

 FaOI(ファンタジー・オン・アイス)2023を見るための新潟旅行おまけ。5年ぶりの新潟駅は、再開発が進行中で、ずいぶん様変わりしていた。事前に情報をチェックして、楽しみにしていたのが「ぽんしゅ館」。 お酒やお米、おにぎり、お菓子、蕎麦など、厳選した新潟のお土産を取り揃えた物販コーナーである。なかでも「唎酒番所」は、新潟全酒蔵の代表銘柄を味わうことができる越後のお酒ミュージアムだというので、絶対寄ろうと思っていた。

 初日、新潟駅に到着したあと、すぐに場所をチェック。しかし、これから大事なショー観戦なので飲酒は自重。新潟駅そばのホテルに戻ったときは、もう閉店後だったので飲みには行けなかった。

 2日目は昼公演が終わって、帰りの新幹線待ちの時間に「唎酒番所」へ。ここは500円でお猪口とコイン5枚をいただくと、利き酒マシーンで好みの地酒が飲めるシステムと聞いていた。

 ところがカウンターのお兄さんから「本日、利き酒マシーンが壊れていまして」という残念なお知らせ。選べる銘柄は10数種類で、奥のカウンターに並んで、スタッフが背後の冷蔵庫の日本酒を瓶から注いでくれる営業スタイルになっていた。せっかくなので、この方式で5種類飲んでいくことにする(我が家の近所の折原商店をちょっと思い出す)。

 最初に頼んだ「八一」がお猪口の八分目くらいしかなかったので「これはサービスで」と言われて、結局6種類飲んでしまった。「八一」「越後美人」「ほまれ麒麟」「Takachiyo59 雄町」「みなも(吉乃川)」「魚沼」。一番美味しいと思ったのは「ほまれ麒麟」だった。

  新潟を訪れる次の機会が早くあるといいなあ…角打ちのメニューも楽しみたいし、新潟米のおにぎりにも惹かれる。

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新潟半日観光:新潟市歴史博物館+万代島美術館

2023-06-18 18:13:37 | 行ったもの(美術館・見仏)

新潟市歴史博物館みなとぴあ 常設展

 今週もアイスショー三昧。アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)2023新潟公演の初日と2日目を見てきた。私は、初めて見たアイスショーが2010年のFaOI新潟公演で、以来、この会場が好きで、2011年、2014年、2017年にも新潟公演に来ている。ショーだけ見て慌ただしく帰ったこともあるが、時間があれば、ちょっとした市内観光を楽しんでいる。今年は、2日目(土曜)の午前中、観光MAPでこの博物館を見つけて行ってみることにした。

 信濃川の西岸(新潟西港)にあり。博物館の建物は二代目新潟市庁舎(1911年竣工、1933年焼失)の外観をモチーフに建設されたものだという。

 博物館の向かいには、第四銀行住吉町支店(1927年竣工)が移転されている。

 こちらは、旧新潟税関庁舎。戊辰戦争終結後の1869年に「新潟運上所」として開所したもの。復元ではあるが、資料等を元にして工事を行い、運上所開所当時の位置に復元されたという。

 博物館は企画展の休止期間だったが、常設展示だけでもなかなか面白かった。この地域では、まず海岸部の新潟砂丘上に縄文時代の人々の生活の痕跡が残されている。やがて稲作が伝わり、弥生時代になっても「砂丘上の人々は縄文以来の生活をまだ続けていた」という解説が印象に残った。縄文→弥生の変化って、本州以南でも、そんなに全国一律に起きたわけではないのだな。続いて倭国大乱が起こり、ヤマト王権は「日本海を渡って」この地にやってくる。木簡資料によれば、この地からの貢ぎ物(特産品)のひとつがサケ(鮭)だったというのも、初めて知った知識。

 ずっと時代が下った江戸・天保年間の新潟の宴会料理もこのとおり。手前はウナギの蒲焼だが、奥の右側は焼き鮭、左側は鮭氷頭ナマスだという。氷頭(ひず)とは、鮭の鼻先の軟骨部分。新潟の郷土料理として知られているそうだ。へえ~。

 近代に入ると、新潟は「中国侵略」の玄関として機能し、満州との貿易・移民でに賑わった。そのことと関係があるかどうか分からないが、太平洋戦争では、広島・長崎に続く原爆投下の予定地になっていたとも言われる。新潟県は市民に緊急避難を命じ(8月10日布告)、新潟市はほとんど人がいない状態で敗戦を迎えた。幸い、空爆を免れた新潟市だったが、1950年代は大規模火災(新潟大火)と地盤沈下に苦しめられ、さまざまな努力の末に今日の街並みが整えられる。一難去ってまた一難的な歴史が、傍観者的には興味深かった。

 信濃川の対岸から見た朱鷺メッセ。平たい建物の先端部分にアイスショーの会場となっている展示ホールがある。川風に吹かれて、萬代橋の手前の柳都大橋を渡って会場へ向かう。

新潟県立万代島美術館 企画展『糸で描く物語:刺繍と、絵と、ファッションと。』(2023年5月20日~7月17日)

 余裕をもって朱鷺メッセに到着。まだ人が少ないうちに施設内のコンビニで軽食を調達したあと、この展覧会を見ていくことにした。本展は、刺繍に注目し、中・東欧の民俗衣装、イヌイットの壁掛け、現代の絵本原画やフランスのオートクチュール刺繍といった多彩な作品約230点を紹介する。最も印象的だったのは、物語を感じるイヌイットの壁掛け。過酷な(はずの)狩猟生活が、ほんわかしたフェルト手芸で表現されている。40点近くあって、全て北海道立北方民族博物館(網走のかな)所蔵のキャプションが付いていた。時代は明示されていなかったが、20世紀半ば以降の作品らしい。また、貝戸哲弥氏の刺繍絵本『黒のけもの』は映像で全ページを読む(見る)ことができて、モニタの前を動けなくなってしまった。かなりドッキリする大人の絵本。いい出会いだった。

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推し活!展(演劇博物館)+私も描く(會津八一記念博物館)

2023-06-14 22:14:13 | 行ったもの(美術館・見仏)

早稲田大学演劇博物館 2023年度春季企画展『推し活!展-エンパクコレクションからみる推し文化』(2023年4月24日~8月6日)

 私は古い人間なので、応援する対象を「推し」と呼ぶことが流行り始めた頃は、またヘンな日本語が出てきたなあと思っていた。それが「活動」の「活」と結びついた「推し活」、あっという間に定着してしまった。言葉は新しくても、好きなモノや人を応援する行為は昔からある。そこで本展は、人々はどのようなかたちで「推し」に向き合ってきたのか、演者や制作者側を中心とした従来の演劇・映像史においては埋もれてしまう、個々の観客たちの営みに焦点を当てる。

 江戸時代の「推される」対象は、ほぼ歌舞伎役者一択。まあ演劇を離れれば、相撲取りや遊女も「推し」だったのかな。絵師や読み本作家、芝居の脚本家を「推し」にするような変わり者(?)はいたのだろうか。

 近代は、やはりビジュアルがものをいう時代。顔の前に構えた刀がキラリと光る市川雷蔵のブロマイド、今見てもカッコいいと思う。朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の桃山剣之介のモデルはこのひとなんだな、と思い出した。それから、女優・栗島すみ子のブロマイドもあった。高野文子のマンガ「おともだち」で覚えた名前で、子役のイメージが強かったが、成人以降も活躍していたのだな。

 女優の森律子(1890-1961)がファンから贈られたという等身大の人形にはびっくりした。生き人形師の三世・安本亀八(1868-1946、初代亀八の三男)が作者である可能性が高いという。海外ものでは、シェイクスピアゆかりのロンドン・グローブ座が寄付金集めに展開したグッズが集められていたが、シェイクスピアの肖像に似せたアヒル(ゴムの黄色いアヒル)が可愛かった。あとは、歌舞伎の澤瀉屋一門の会報「おもだか」「おもだかニュース」が展示されていて、あんなことのあとなので、しみじみしてしまった。

早稲田大学會津八一記念博物館 特集展示『わたしも描く-『少女の友』と発信する少女たち』(2023年5月15日~7月6日)

 2階グランドギャラリーで開催中の企画展『わたしが描く-コレクションでたどる女性画家たち』(2023年5月15日~7月6日)に合わせた特集展示。先日は、2階が開いているのに気づかず、1階だけ見て帰ってしまった。しかしこの特集展示は面白かった。『少女の友』は明治41(1908)年から昭和30(1955)年にかけて刊行された少女向け雑誌。優等生的な『少女倶楽部』(講談社)に比べて、『少女の友』(実業之日本社)は、豊かな教養、モダンなセンスで少女たちの人気を博した。立役者となったのは第5代編集主筆を務めた内山基だという。本展は、その内山基コレクションから30余点の絵画資料を展示する。松本かつぢ、中原淳一、それから、あまり理想化され過ぎない女性像を描く深谷美保子もいいと思った。

 

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意外と知らないお地蔵さま/救いのみほとけ(根津美術館)

2023-06-12 22:40:02 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 企画展『救いのみほとけ-お地蔵さまの美術-』(2023年5月27日~7月2日)

 館蔵品の仏画や仏像を中心として、日本における地蔵信仰の歴史とその広がりを概観する。子どもの頃、「おじぞうさん」はマンガや昔話にも登場する、親しみやすい存在だった。坊主頭の男子をからかうときの定番でもあった。大人になって、仏教美術に興味を持つようになって、妖艶な美形や、精悍な戦士のようなお地蔵さまの存在を徐々に知ることになった。

 本展は、まず文字資料によって地蔵信仰の歴史を紹介する。写真参考展示の『東大寺要録』によれば、東大寺講堂には、光明皇后が発願した虚空蔵菩薩像と地蔵菩薩像があったという。「地」蔵と虚「空」が対になる存在だというのは初めて気づいた。『地蔵十輪経』(展示は奈良時代の断簡)は、釈尊が入滅してから弥勒菩薩が成仏するまでの間、地蔵菩薩が衆生を導くことを説く。『地蔵大道心駆策法』(平安時代、初公開)は武周時代の成立で、道教的な色彩が強いという(則天文字が見られる)。

 次第に絵画資料が増えていく。同館で何度か見ている『矢田寺地蔵縁起絵巻』(室町時代)は、10月以降の月詣の功徳が紹介されているのだが、10月9日、11月19日と来て、次が12月24日(クリスマスイブ)なのが可笑しい。『地蔵菩薩霊験記絵巻』(南北朝時代)は、屋根を葺いたり牛を引いたり、人助けに余念のない僧侶の正体が、実はお地蔵さまだったというお話。真ん中から割れる着ぐるみを脱ぐように本体を現わす地蔵菩薩が描かれている。

 鎌倉新仏教による阿弥陀信仰の流行に対抗して、旧仏教側は地蔵信仰を推していく。細い眉、宋風の面持ちの『地蔵菩薩像』(室町時代、逆手の阿弥陀スタイル)、他に例のない『渡海地蔵菩薩像』(鎌倉時代、個人蔵)、女性を思わせる美麗な『地蔵菩薩像』(鎌倉時代)など、多様なイメージが描かれる。また、鎌倉時代以降、十王信仰が急速に普及していく。鎌倉時代の『地蔵十王図』2幅が出ていたが、このうち「秦広王」が付けている四角いペンダントみたいな首飾り、今見ている中国ドラマ『清平楽(孤城閉)』で正装した皇帝が付けていたものに似ていて気になる。

 朝鮮時代の『地蔵菩薩本願経変相図』は、上半分に地蔵菩薩と眷属を整然と描くのに対して、下半分にはわちゃわちゃと裁きと地獄の責め苦が描かれている。赤と白の目立つ明るい色彩で、あまり恐ろしくない。あと高麗時代の『地蔵菩薩像』(被帽地蔵)と朝鮮時代の『地蔵諸尊図』が出ていたが、朝鮮仏画、もうちょっと見たかった。

 展示室2には、久安3年(1147)快助作の地蔵菩薩立像(木造彩色)が、ケース無しの露面展示で飾られていて、びっくりした(警備員が入口横に立っていらした)。細い手足、長すぎる腕。撫で肩で、身体は薄く、衣の袖も薄くて、はかなげである。目はほぼ閉じ、下唇の赤が目立つ。文化庁所蔵の阿弥陀如来坐像の脇侍と考えられているそうだ。ちなみに1階ホールの奥の仏教美術コーナーはどうなっているんだろう?と思って見に行ったら、金ピカの銅造鍍金仏(中国・北魏~唐、新羅)の特集だった。

 本展を担当した本田諭氏は、インタビューで「過去に企画展で地蔵をメインで取り上げた展覧会は全国的にもおそらくほとんどなかったと思います」「実は地蔵の研究はあまり進んでいません」と語っている。意外な感じがして、面白かった。

 展示室5は「西田コレクション受贈記念III 阿蘭陀・安南 etc.」。『塩釉人物文水注』(ドイツ)には、フェルメールの絵に同タイプの水注が描かれているとの説明あり。展示室6は「涼一味の茶」で、色味の少ない枯淡なお道具が揃っていた。

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