〇根津美術館 企画展『〈対〉(つい)で見る絵画』(2020年1月9日~2月11日)
複数の掛幅からなる対幅や、右隻と左隻で1双となる屏風など、〈対〉で成り立つ作品の見どころの多様さを紹介する。館蔵以外の作品も多く出ていて面白かった。
おお、これこれ!と一番うれしかったのは狩野山雪筆『梟鶏図』。左幅は三白眼のニワトリ、右幅は三角おにぎりみたいなキュートなフクロウ。この子、府中市美術館の『へそまがり日本美術』展で見た!と思って調べたら、府中で見たのは山雪の別の作品『松に小禽・梟図』(1幅)だった。でもフクロウは同じ顔をしている。ヤクザのお兄さんみたいな怖い顔のニワトリ(でも意外といいひとかもしれない)と、あどけない、チビのフクロウ(でも意外と頭は回るのかもしれない)は、見れば見る程いいコンビである。
松村景文筆『柳下双鴨・雪中山茶花図』は、あまりはっきりしない線で描かれた二羽の鴨の姿に気品があって見とれた。四条派の描く鳥や動物はよいなあ。谷文晁筆『離合山水図』(個人蔵)は、左右にそれぞれ聳え立つ単独峰の山の峰を描く。中景の雲海や前景の木立はなんとなくつながっていて、並べてもよく、気分によっては別々に掛けても楽しめる。こういうの、部屋に欲しい。
室町時代の水墨画『許由巣父図』(東博)も来ていた。これは滝で耳を洗う許由が左幅で、牛を引いて立ち去ろうとする巣父が右幅。時間の流れが左→右になっているのは、珍しいのではないか?
屏風は雪村筆『龍虎図屏風』、『吉野龍田図屏風』、光琳筆『夏草図屏風』の1双屏風が3点。豪華でありがたいな~と思ったけど、ちょっとくっつき過ぎでキツそうだった。『吉野龍田図屏風』は、桜・紅葉それぞれの画面に描き込まれた短冊の和歌の解説が添えられていた。古今集と玉葉集から。趣味がよいと思う。『夏草図屏風』は咲き乱れる草花の群れが、右隻から左隻へ屏風を跨いで滝のように続く。「対」の片方だけでは鑑賞できない例として紹介されていた。
工芸は壺や徳利、刀の目貫など、いろいろなものがあったが、茶道具の羽箒が一般に「対」で用いられる(炉用と風炉用)ことを初めて知った。展示は『青鷺羽箒』で、炉用は羽根の幅が少し広く、風炉用は細めだった。
展示室2は三幅対、四幅対など。中国では仏画を除いて三幅という形式はないというのが面白かった。しかし狩野探幽の『富士・育王山・金山寺図』(中央が富士山)というのも不思議な組み合わせである。春木南冥筆『三夕図』、土佐光起筆『三夕図』(東博)など、西行・定家・寂蓮の「秋の夕暮れ」の和歌を三幅対にした例を初めて知った。三首の順番は一定でないようだ。どれもぼんやりした景色で、絵画としてはインパクトがないのが面白い。
三幅以上の作品は分割・分有されてしまうことが多いという説明として、同館所蔵の『売貨郎図』(中国・明代)2幅の横に、芸大所蔵の同名作品2幅の写真が添えてあった。なるほど、一連の作品らしかった。
展示室5は『百椿図』と子年にちなんだ作品。『百椿図』には、ネズミが登場するというので、探しながら眺めたら、ピンクの散り椿に白と黒のネズミを配した図があるのを見つけた。金島桂華筆『夜の梅に鼠』(昭和時代)は、木箱に入った羊羹(虎屋の夜の梅!)をネズミが窺っている図。それから京博で見た灯り台『鼠短檠』も出ていた。人気があって普及していたのかな。
展示室6「初月の茶会」はどことなく華やかだった。