〇『喬家的児女』全36集(東陽正午陽光、2021年)
新作ドラマの見たいものが途切れたので、気になっていた1年前の話題作を見てみた。中国ドラマファンにはおなじみ、東陽正午陽光の制作で、さすが期待は裏切られなかった。
始まりは1977年、南京市の陋巷に暮らす喬租望夫妻と長男・一成、次男・二強、長女・三麗、次女・四美の四人兄弟たち。ところが母親は五番目(三男)の七七を産んだ直後に亡くなってしまう。七七は叔母の家に引き取られ、自堕落で生活力のない父親に代わって、長男の一成が弟妹たちを守り育てる責任を一身に引き受けることになる。と言っても、貧乏の苦しさがあまり描かれないのは、中国社会がどんどん豊かになっていく時代を背景にしているせいかもしれない。ストーリーの中心となるのは、成人した四人兄弟の愛情・家庭生活である。
一成(1965年生)は、師範大学でジャーナリズムを学び、電視台(テレビ局)に入社する。新聞記者の葉小朗と結婚するが、海外生活を目指す小朗は、実家を棄てられない一成を置いて一足先に出国してしまう。やがて小朗の希望で離婚を受け入れた一成は、のちに共産党の上級幹部の娘である項南方と再婚する。
二強(1969年生)は、勤め先の工場で彼の「師父」となった人妻の馬素芹に一目惚れして純愛を捧げる。のちに兄嫁・葉小朗の紹介で書店員の孫小茉と結婚するが、結婚生活はうまくいかない。結局、再会した馬素芹と、周囲の反対を押し切って再婚し、馬素芹の連れ子にも慕われて、幸せな家庭を築く。
三麗(1971年生)は、幼少の頃、性暴力に遭いかけたことがあり、異性関係に臆病になっていたが、心優しい王一丁に出会って、彼の愛情を受け入れる。王一丁の家族の無理解、子育てをめぐる姑との意見対立、王一丁の怪我などの困難を地道に乗り越えていく。
四美(1973年生)は、猪突猛進型のロマンチスト。軍人の戚成鋼を赴任先のチベットまで追いかけていき、結婚して女子を儲ける。しかし戚成鋼の浮気が発覚し、離婚してシングルマザーとなる。後悔して復婚を望む戚成鋼とは一定の関係を保ち続ける。
このほか、七七は学生時代に同級生の女性に迫られて子供ができ、結婚するが、離婚に至る。七七を引き取った魏おばさんは、おじさんの死後、再婚。四兄弟の父親・喬祖望も、財産目当ての阿姨(家政婦)に騙されて再婚を決意しかけるなど、目まぐるしくて飽きない。
私は、ある家族に焦点を当てつつ現代史を描く中国ドラマが好みである。『大江大河』しかり『人世間』しかり。これまで見てきたドラマは、共産党の政策が、主人公たちの人生の重要なターニングポイントとして描かれていた。しかし本作は、政治経済的な背景はほとんど描かれず、主人公たちは、恋と家庭生活に右往左往しているうちに、なんだか豊かになっていく。この半世紀の中国庶民の実態は(特に政治の中心・北京以外だと)そんなものかもしれない。一成の再婚の披露宴で、新婦・項南方の実家が党の幹部だと知った喬祖望が、急に共産党礼讃・国家礼讃のスピーチを始めるのが、とってつけたようで可笑しかった。
私は四人兄弟の中では四美(宋租児)が大好きだった。お馬鹿で我儘で口が悪いが、自分の愛するもののためには信じる道を突き進む強さがある。しかも涙もろくて可愛い。まあ日本の朝ドラだったら大炎上のキャラだろう。しかし努力家で控えめな三麗(毛暁彤)も芯の強い性格だし、登場する女性はみんなそれぞれ強いと思う。
男性陣では二強(張晩意)が幸せになってよかった。一強(白宇)は、兄弟思いで責任感が強い典型的な長男タイプだが、まさにそこが欠点でもある。実家のトラブルを妻に一切告げず、自分だけで解決しようとして、離婚した葉小朗だけでなく、項南方からも責められている。やっぱり中国人にとっては、姓を同じくする(幼少期を一緒に過ごした)兄弟こそ本当の「家族」で、結婚して新たに生まれる「夫婦」よりも強い絆を感じるものなのだろうか。
我儘三昧を最後まで通した父親・喬祖望(劉鈞)も日本のドラマなら確実に炎上キャラだと思うが、押しかけ家政婦に丸め込まれそうになりつつも、住み慣れた家は息子たちに残すという、最後の一線は守ってくれてほっとした。ドラマの最終話は2005年の正月(春節かな?)、いよいよ取り壊されることになった老屋に四人兄弟とそのパートナー、子供たちが集まり、にぎやかに最後の団欒を楽しむところで終わる。家のかたちも家族のかたちも変わりゆく中国だが、本作の人気から見ると、理想はそんなに変わっていないのかもしれない。