http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/
前の仕事が長引いたため、閉館の1時間前に飛び込むことになってしまった。まあ、常設展の特集展示だから、そんなに時間はかからないだろうと思っていたが、けっこう出品数が多いので、見切れないのでないかとドキドキした。
本展は、徳川将軍家の学問、および幕府の文教政策について、伝来資料を用いて紹介したものだ。絵画や実物資料も混じっているが、展示品の大半は書物である。企画展『江戸の学び-教育爆発の時代-』に併せたミニ展示だが、書物好きには、こっちのほうが堪えられない”お宝満載”と言えるかもしれない。
私は書誌学については素人なので、以下、印象批評のみ。まず「伏見版」「駿河版」など、江戸初期の出版物が並ぶ。表紙は少し汚れたり虫が食っているものもあるが、中の料紙や印刷は実にきれいだ。あと二百年や三百年の歳月には、動じる気配も感じさせない。綱吉が刊行した常憲院本『四書章句集注』は、小型だが「ゆったりとした品格のある活字が特徴」だという。なるほどね。慶応大学斯道文庫の所蔵品だった(丸善の展示会にも出品)。江戸初期の和刻本漢籍は、紺や青系の表紙が多いように思った。
これに対して(急に時代を飛んでしまうが)明治初期の流行本は黄色の表紙が多い。『自由之理』然り、『西国立志編』然り。展示品の『西国立志編』は、江戸博の所蔵品だが、巻頭に「東京女子師範学校○○(所蔵?)印消印之證」という印が押してあった。つまり、東京女子師範学校(お茶の水女子大学)が購入したが、要らなくなって処分したのだろう。「第○」という番号が朱書きされているところからすると、テキストとして大量に複本を購入したのかもしれない。一方の『自由之理』にも「学務」「払下」という印が見える。これはどこの学校の払い下げ品だろう? 気になる!!
また、『仏蘭西答屈智機』という、ナポレオンの戦術解説書を翻訳したもの(答屈智機=タクチック=tactics)があった。訳者の村上英俊(1811-1890)は信州松代藩士、独学でフランス語を習得した。日本のフランス学の始祖というべき人物だそうだが、へえー。あまり聞かない名前である。この本は、現在は静岡県立中央図書館の所蔵だが、「駿府学校」「○○(静岡?)師範学校」のほかに、うっすらと「箱館御役所」(北海道松前藩の庁舎)の印が見える。
『新旧騎士勲章図鑑』と題された資料は、大型の色刷りの洋書である。解説に「文久2年、幕府遣欧使節の将来本」とあった。ということは、福沢諭吉らとともに海を渡ってきたのだなあ。資料は何も語らないけれど、たどってきた道のり(時間的・空間的な移動の足跡)に想像を馳せると、しみじみと興味深い。
書物以外では、湯島の聖堂の屋根に乗っているという「鬼龍子」にびっくり。ヒグマの子みたいだ。
■葵文庫の概要(静岡県立中央図書館):江戸幕府旧蔵書の印記データあり
http://digital.tosyokan.pref.shizuoka.jp/aoi/1_outline/index.htm