時間のしずく time drops 

たいせつなもの。すきなこと。

虹と鐘の夕暮れ

2021-07-13 | essay

どしゃ降りの夕立のあと
虹が出るかもなぁと考えながら夕食の下ごしらえをしていたら近所の友人から「虹がでてるよ」というLINEが届いた。

エプロンを投げすてて
スマホをジーンズのポケットに突っ込んで
傘を差して走り出る。
うちはマンション渓谷の谷底にある戸建て故、四方の大きな空はまるで見えないのである。

夕立に洗われた空は明るい陽が差し始めているけれどまだパラパラと大粒の雨が落ちてくる。

ええっと、西陽が差しているってことは虹は東の空だ。
彼女のマンションから視えるなら裏のお寺へ向かおう。

小走りで駆けながら彼女のマンションを見上げると、六階の窓を明けて空を見ている彼女とご主人の姿が。
ふたりはとても仲の良いご夫婦なのだ。
ふたりの姿にほっこりしながら、「おーい!ありがとうねー」と下界から傘を振る。

お寺の境内。ここまでくれば大きな空が見える。
グレーの空に大きな大きな虹の橋が架かっている。
どうしてこう虹っていつも無条件にしあわせなキモチにしてくれるんだろうね。

しあわせな気持ちで東の空を眺めていたら
ご住職が夕刻の鐘をつきに鐘撞堂へ現れた。

虹に気づいていらっしゃらないようなので、
「虹がすごいんですよー」と空を指して声を掛けると東の空を振り仰いでおお〜と驚く住職さん。

一つ鐘をついたあと、つきますか〜?と声を掛けてくださったので
「わぁいいんですかー!」と鐘つき堂へいそいそと小走りで駆け上がり二つ目の鐘をゴーン。

お寺の鐘をつくのは、何十年ぶりだろう。この街に嫁いできた頃に夫と除夜の鐘をつきに並んだことがある。
あれ以来だ。
そんなこんなを初対面のご住職とお話しながら、ついた鐘の音と振動にココロまで震える。

それにしても随分長いこと架かっている虹である。
そして西陽が強まるほどに虹の色がどんどん鮮やかに発色していく。

「まるで子どもが絵に描いたような虹ですね」
とご住職。
「ええほんとうに!」
虹のうつくしさと鐘の音の清らかさにこちらは相乗効果の感動である。
続けてどうぞと仰るご住職のお言葉に甘えて六回の夕刻の鐘のうち、五回もわたしが鳴らしてしまった。
いつも夕焼けを背に聞くあの鐘の音を今わたしが世間さまに鳴り響かせているなんて、なんとも畏れ多いこと!

最後にご住職が釣鐘に合掌される姿に、わたしも慌てて倣う。
貴重な体験を本当にありがとうございました。

気さくなご住職に感謝ひとしお。。。
そしてこの特別な時空間へとわたしを運んでくれた友達の一本のLINEに、ひいては虹を観てわたしを思い出してくれた彼女の友情にしみじみと感謝する夕暮れなのでありました。







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