眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

嘔吐物

2012-12-10 23:57:17 | 短歌/折句/あいうえお作文
大空と
海はもつれて
とけあって
ふつつかだけど
ついていきたい

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夜明けのモッピイ

2012-12-10 20:24:10 | 夢追い
 血色のよい芸能人が、画面いっぱいにあふれる手の込んだ料理の数々を口に運んでいた。八時半にもなればお腹が空くのも当然だったが、テーブルの上に並び始めるものも、湯気の立ち上がるものも何もなかった。そもそも人の気配がなく、晩御飯が始まるという様子ではないのだった。ここにいては生活が荒んでしまう。階段を上がると、二人はいつでも眠れるよな格好で横たわっている。
「ご飯は?」
 父は、枕の傍で不思議そうな顔をして僕を見た。
「お父さんは朝から何も食べてない! 開けっ放しの窓から雨にも打たれたし、一人で泥棒とも戦った!」
 知らんがな。お父さんのことなんか知らん!
「スナックへ行こう!」
 名案を思いついたというニュアンスで父が言った。
 みんなで? の一言がもう言えなくなっていた。ずっと昔だったら、自分が自分でないくらい小さかったら、言えたかもしれないのに。どこへでも勝手に行けばいい。そう口にしないことが、今は精一杯だった。
「それより今から面接に行こう」
 今度は母が代案を出してきた。どうしてそういう発想が生まれる?
「酷い子。でも、いいところも、いい時もたくさんあるんだから……」
 そんなことより、今は腹ごしらえだろうが。世間の常識を知らないのか?
 しかしお腹が空いたということを精一杯の声で伝えることができない。
 隔たり……。今はそれだけがとても強い。
(面接受かるといいね)他人事のように思った。
 自立した自分が一人街を歩く姿が見えて、笑みが零れた。
 おやすみなさい。もう今日は疲れたでしょう。

 四時半だというのに誰かがガラス戸を叩く。知った顔だったので鍵を開けた。
「鉛筆とコンパスある?」
 コンパスは見つからなかったので鉛筆を二本用意した。
「これでいい?」
 コーチは黙って頷き、土の上に二本の鉛筆を使って円を描いていった。それが各自のポジションになる。
「これは練習メニュー?」
「まだ作成途中のね」
 円と円とでパスを交換しながら、即座に次の場所に移動する。パス&ゴーの練習だった。庭中狭しとボールが転がって土埃が舞う。いつの間にか多くの練習生たちが集まってきていた。ミスをした生徒のボールが円と円とのパスコースに入ってきて、しばし中断が生じる。
「これはこうなるよ」
 メニューの問題点が浮上する。その内今度は、パスを出そうとする者の前に小動物がやってきて邪魔をし始めた。
「誰がつれてきたんだ?」
 心当たりのある者はいなかった。練習が終わっても、小動物はどこにも行かず、休憩の輪の中に紛れ込んでいる。人懐っこさはわかるが、名前がわからなかった。細長い体の上に、少し不釣合いな大きな頭を載せていた。
「モッピイだよ」
 誰かが言った。
 トイレに行くと用を足している途中でモッピイがやってきて邪魔をした。流れを途中で止めて、モッピイを追い払う。仲間の噂を聞いてか、他のモッピイたちも中に入ってきてわいわいとした。モッピイのことを知らない小さな子供などは、鬼が来たと言って泣き出してしまった。悪気はない奴だと言って安心させるが、すぐには泣き止まない。食っちゃうぞ! 脅しをかけてモッピイを追い出した。

「雪?」
 女は目を覚ました。硝子ケースの中から出てきた女は、自分の想像に描いた女とは違っていた。半信半疑で窓に顔を近づけてみる。雪。確かに、降っているのは雪のようだ。どうして今になって降り出したのだろう。昨日、降った雪ならまた別の時間の流れを作り出すこともあっただろう。どうして今日で、彼女の傍で降るのだろう。
 夜明けの街では、カメラを手にした男女が、それぞれの現在地を記念にしようと落ち着きなく動き回っている。
「せっかく来たところ悪いけど」
 観光客らしい男がカメラを渡されている。
 トイレに行き用を足していると忙しない足音と共にモッピイがやってきて邪魔をした。モッピイの首をつかんで、外につれていく。悪気はないのだが、邪魔ばかりするので困った奴だ。
「フィルム代もらいました」
「馬鹿! 返せ! いらないに決まっているだろう」
 師匠のような人に責められて、男は金を返す女を探さなければならなかった。一瞬モッピイを見て、膝を折った。
 列車は長いトンネルの中に入っていく。その間にチャンネルを変えるとそこはヤマトの船内のようだ。実写ではなく、ちゃんと本物のしまさんがいる。録画もされているので、本気で見ることはやめにした。それよりも冷蔵庫の中のサンドイッチだった。日付を確かめたところやはりトマトサンドは今日中に食べなければならない。トマトサンドを取り出してみると蓋が閉まらなくなった。俺も取り出さないかと中の物が訴えたり混乱を起こしているのを冷静に落ち着かせる。最後まで挟まって抵抗したのは、小豆色した豚肉だった。トマトサンドを食べ切ってしまうとそれ以上やるべきことは何もなかった。

 誰かがガラス戸を叩く。
 ああ、この流れはもう知っていた。

 僕は鉛筆を二本を用意して鍵を開ける。
 練習が始まる。パスが流れる。
 モッピイはやってこない。
 淀みなくパスが流れて練習が終わる。

 おつかれさまでした。
 静かに、平和におしっこが流れる。

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