眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

12月の装備

2012-12-24 20:11:43 | クリスマスソング
「右見て、左見て、そう」

「こらこら月を見てはいけない。
月を見るのはいいことだけど、今は見ている場合じゃない。
まずは道を渡ることに集中しなさい。月なんてものはね、いつだって見れるんだから」

「右見て、左見て、そう」

「こらこら空を見てはいけない。
今は道を渡ることに集中しなさい。
見るなら、ちゃんと渡り切ってから見なさい。それなら、先生、何も言わないから」

「右見て、左見て、そう」

「あー、難しいかな。先生の教え方がわるいかな」







「一曲かけてみようか?」

「かけてもいいんじゃない」

「そろそろかけていかないとね」

「子供たちはどうだった?」

「単純なことが伝わらなくて」

「色々と大変ね」

「覚えることが多すぎるんだよ」

「あっ、今メリークリスマスって言った」

「アルファベットを並べて、数式をつないで……」

「クリスマスソングじゃない?」

「それで突然、歌ったりするんだからね」

「クリスマスソングだ」

「密かにクリスマスソングなんだよ」

「メリークリスマスって言ってますよね」

「そう聞こえたなら、それでいいんじゃないか」








「靴下はいらんかえ」
 12月の街に靴下売りの声が響き渡る。それぞれに先を急ぐ理由を持った12月の足音が、12月の狂った北風にあおられて寒い寒いと歌っている。まちびとは既に12月の家を出る時に12月の靴下を履いていたが、12月の地の底から吹き付けるような風がまちびとの12月の足元を幾度となく襲うので、少しは12月の靴下売りの声に耳を傾け、実際にどのような靴下があるのか、12月の手に取って見たり、その色や形を確かめてみたい気分でもあった。今までの季節には十分だった靴下も今この12月となっては既に時代に遅れ、貧弱な装備だけを身につけて12月の冒険に旅立つ戦士や魔法使いのようにも思えるからだった。
「靴下かえー、靴下かえよー」
 靴下売りのしゃがれた声が、12月の道の上を散歩する老人や、12月の犬の耳元にまで届くだろう。偶然それを耳にした12月の貴婦人が、12月の真ん中に躍り出るようにして現れるとその手に12月の帽子を掲げて、12月の靴下売りの車を止めるだろう。まちびとは12月の流れに乗って、12月の靴下売りに近づくとついに12月の靴下を手に取ってみることができるだろう。12月にふさわしいなんて厚いなんて暖かいなんて丈夫でなんて長い靴下なのだろう。まちびとは12月の道の上に、この日まで休むことなくついてきてくれた貧弱な靴下に感謝の気持ちを捧げながら、脱ぎ捨てる。もうすぐ12月の街は積み重なった月日の疲労を落とすために、束の間の休息を求めて、12月の中にそれぞれの告知をするのだろう。
 まちびとは12月のケーキ屋の前で新しい靴下を履いた12月の足を止めて、12月の貼紙を睨みつけた。


12月は休みの日以外営業します。
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