眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

現実逃避ゲーム

2012-12-28 17:06:11 | ショートピース
「一つ一つ倒していけ!」目の前に広がった壮大な黒が、その瞬間には世界のすべてとなった。両手に小さな武器を持って、敵はただ向き合いさえすれば単純に退治できる、誰でも必ずクリアできるゲームだった。時の経つのも忘れ、ふと我に返った時、部屋の中は見違えるほど綺麗になった。#twnovel

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12月のパフォーマンス

2012-12-28 00:26:17 | クリスマスソング

「クリスマスソングをかけようか?」

「本当にクリスマスソングが好きなのね」

「季節に因もうとしただけだよ」

「好きなら好きと言えばいいんじゃない?」

「僕の愛が12月に偏っていると言いたいようだね」

「偏っているというより回りくどいようね」

「愛が12月に集まっても平気かと言うんだね」

「集まるところがあればそれでいいんじゃない」

「君の態度は少し投げやりじゃないか」

「クリスマスソングをかければいいじゃない」

「そうして君はすぐに話をはぐらかしてしまう」

「あなたは本当に意味がわかっているの?」

「迷い込むなら、僕は本題の中でそうありたいんだ」

「夏も冬も平等に愛せる人もいるでしょうけど」

「でもその場合、1つの愛は小さくなるはずだ」

「どうしてそうなると思うの?」

「絶対量が決まっているとすれば、当然そうなるじゃないか」

「愛した分だけ大きくなるということはない?」

「勿論あるだろうさ」

「あるの? 本当に?」

「絶対量が決まっていなかったとしたら、そうなってもいいじゃないか」

「もう、クリスマスソングでもかけましょうか?」

「クリスマスソングの中に逃げ込みたいんだね」

「クリスマスソングの中に答えがあるかもしれないわ」

「そんな都合のいい話があるものか」

「気分転換は必要でしょう」

「確かにそうだ。それ以外の何よりも必要だろう」

「ではかけましょうか?」

「どうせ答えなんてないんだから」

「教師がどうせ、なんて言ってもいいの? それこそ投げやりじゃないの」

「どうせだけに反応するのはやめてもらいたいね。今言ったどうせは、投げやりに言ったんじゃない」

「何なの?」

「僕が言ったのはあきらめのどうせではなく、見極めのどうせなんだ」

「色々などうせがあるのね……」

「愛という不確かなテーマに確かな見切りをつけた、愛のあるどうせなんだ」

「ふーん、そろそろ限界ね」

「では、クリスマスソングをかけるとしよう」







 息を吹き返した怪獣が一皮脱ぐと12月が始まって、人々は12月の汚れの付着した洗濯物を抱えては12月の街に飛び出していく。12月のまちびとは、話し相手を見つけては12月の足を止めて話し込むだろう。話しておくべきことは12月が12月である間に話しておかなければならないのだ。12月を話し込んでいる間にも、それぞれの12月の大陸から王者たちがやってきて、12月のために用意された戦術や12月のために磨かれたパフォーマンスを見せる。12月の王者になるために、海を越えてやってくる旅人たちを12月のカメラを手にした人々が熱く歓迎するだろう。それまで季節に深く関わってこなかったまちびとも、世界から集合してくるという12月の流れと、何かが始まるかも知れないという12月の期待感の中で、自分のやってきたこと、やってこなかったことすべてを棚上げにして、熱心に話し込んでしまうのだろう。

「入門書を買ったんだ」
 子供の頃にまちびとは釣りをしたことがあった。入門書を3冊同時に買い込んで、ページを開いたのは、最初に手に取った本のわずかに数ページに過ぎなかったのだというような話も、12月の聞き手は優しく聞き流してくれている。そうだね、そういうこともあるんだね、と時を吸い取っていく12月の儚さが、それまで頑なだった色々なものを溶かして寛大にしてくれるのだろう。



「カルボナーラ1つ」
 優しさに付け込むように、靴下を積み上げて、12月の無法者が無理な注文を通そうとしている。
「まだ足りないか」
 12月の無法者は舌を巻いて、カウンターに靴下を積み上げては、12月のカルボナーラを食べようとしている。
「これだけ積んだら十分だろう」
「申し訳ございません。靴下を積まれても困りますので」
「何だって、12月はクリスマスだろう」
 12月の無法者は、不満を訴えながら12月に舌鼓を打ったが、その運用すべては12月の誤用に違いなかった。



 12月のカップを抱えられるのは真の王者だけだったけれど、まちびとはそのカップを載せる小皿の縁くらいには自分もいるのかもしれないと勝手に感じながら、12月の見せる足技の中に便乗して、興奮を抑えられなくなると12月の洗濯物も放置したまま、12月のお菓子を求めて街に飛び出すのだった。
 12月のお菓子を12月の籠いっぱいに買い込むとまちびとは12月のテレビの前に陣取るだろう。
 待っても、待っても始まらない。まちびとのテレビは、ずっと8月の中旬で止まったままなのだろう。

「テレビなんてまるで駄目だな」
 日本シリーズは延々とやるのに、凍りついたテレビはまちびとの前で12月の夢を映してはくれなかった。後に残った12月のお菓子をぼそぼそと食べてはみるが、12月の目標を見失ったお菓子は味気なく、いつまで食べ続けても12月の袋の底を見ることはできない。どうしてこうなる、本当はどうなっているのか。まちびとは永遠に始まることのない12月の試合の前に置かれたまま、ただ取り残された12月の自分だけを哀れみながら噛み締めていたのだ。早く始まった方がいいのに……。このままいては、12月のくよくよと共に12月の自分も滅びてしまう。



「早く変わればいいのに」
 信号待ちに12月の風が吹いた。間もなく12月のまちびとは、12月の歩道を渡って、新しい街へとたどり着くだろう。
 まちびとは、差し出された地図に12月の目を走らせて、新しい12月の行き先を探る。
「角に12月のセブンイレブンがあって……、あっ」
 話の途中でまちびとは12月の地図を引き取ってしまうだろう。再び燃え上がってくる12月の興奮を抑え切れなくなって。12月の盗人のように、親切な12月の案内人の手から、12月の地図を奪うと、限りある12月の世界の中をかけていくのだろう。
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