眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

プレゼントの前に (やまとなでしこ)

2012-12-18 21:55:49 | アクロスティック・メルヘン
やがてくるクリスマスに備えて
まだ足りないものがありました。
というのもプレゼントを受け取るには、
何はなくてもそれを入れる器が必要で、
手袋なんかではないそれはもっと、
下に位置するべきもので、
子供にとってはなくてはならないものでした。

約束もしていなかったけれど、
魔法使いはやってきて、
扉を開けて背中の荷を下ろすと、
中から何やら取り出して、
「手を出しなさい」
仕方なくそうすると、
「これは一体何ですか?」

やっと手にしたそれは、
全く想像していたものとは違って、
取るに足らないような、
何の得にもならないような、
てんで役にも立たないような、
しかめっ面をすることがふさわしいような、
こそばゆいようなつまらないものでした。

「やいやい! 何だよ!」と
魔法使いに訴えると、
「と言うと思っていたよ」
なぜかお見通しという雰囲気で、
「テストしただけさ」
静かにせよと言って、
今度は別の物を出してきたのでした。

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは長いのか短いのか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはメンズかレディースか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは自分用かプレゼント用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは夏用か冬用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは雨用か晴れ用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは薄手か厚手か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは子供用か大人用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはインドアかアウトドアか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはビジネスかカジュアルか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはブラックかレッドかグレーか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは明るいグレーか暗いグレーか中間のグレーか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選んで選んで選んで、
まだか、まだか、まだか……
という時間がずっと続く内に、
泣き出しそうな回答者を前に、
「テストしただけさ」
静かにもう一度魔法使いは言って、
「これで最後だよ」

山を登り切ったところに待っているもの、
「まずは今か、または今度か?」
と言って魔法使いは選択を迫ります。
長い長い選択の果てにようやくそれを
手にする機会が訪れて、
しぼり出すように答えるのでした。
「今度」  魔法使いは荷物をまとめて帰って行きました。
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80%

2012-12-18 00:33:15 | 忘れものがかり
階段を上がって
たどり着くと
ソファーの上で人々が待っていた

人だった僕は
待つこともなく先に進んで
見知らぬ隣人と
1つの醤油を取り合った

10分もして振り返ると
彼女はすぐに数を数えて
間違いはないですかと訊いた
945円

階段を降り始めると
道の向こうで
傘をさす人々の姿が見えた
(天気予報は正しかった)

踊り場で立ち止まり
屋根の下で
傘の準備を始めた
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猫とミルク

2012-12-18 00:05:13 | リトル・メルヘン
 行く先々で人とぶつかった。
「ごめんなさい」
 そうして謝る時もあれば、何だ馬鹿野郎と言って逃げ出すことも多かった。逃げれば道は開けるような気がして、一時リセットボタンが押されるのだが、行く先々には知らない人がいて、知らない人だから大丈夫かと思いきや、また前と同じようにぶつかってしまう。ぶつかるついでにカフェに寄って、休憩する。おかげでカフェにたどり着く足取りだけは確かなものとなった。

 どこに行っても同じようにぶつかるのはどうしてだろう。違うところにたどり着いては、同じことばかりしている。
「そう。おまえと同じように」
 カフェの前には白く太った猫が横たわって入店の邪魔をしている。
「いらっしゃいませ」
 テーブルの上にマウスを置いて、化粧室に向かう。ノートPCはコーヒーが届いた後でゆっくり広げるのだ。
 もう長い間、人とぶつかり続けているので、ぶつかり稽古日記も膨大な量となっていた。記録を元にして反省するというわけでも、いつか誰かに見せるというわけでもないが、なぜか残しておくべきような気がして、長い間そうしていたのだった。
 手を洗い鏡を見ると、いつものように冴えない顔をした自分が立っていた。
「いつも代わり映えがしないな」

 自分の席に戻ると猫が腰掛けてマウスをつついていた。
 さっきまで表で眠っていた白く太った猫だった。意外と変わり身が早いものだ……。
「玩具じゃないんだぞ!」
 そう言って猫を向かいの席に座らせると、静かにコーヒーの到着を待った。
 猫は反省したのか、もう目を閉じて大人しくしている。

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