照る日曇る日第949回

これはぜったいモザールのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」が出てくるぞ、と思って、楽しみにページを繰っていったら、その前に絵描きが主人公だったので、興味津津となりにけり。
身内に売れない絵描きがいたり、「騎士団長殺し」を飛鳥時代風の日本画で描いた老画家、がどことなくうちの近所に住んでいた故小泉画伯に似ているので、ますます個人的に親近感を覚えて、夢中で読み終えてしまったずら。
貧乏画家が生き延びるために絵画教室は常道だが、肖像画で稼ぐという抜け道もあったかあ、と膝を打ちましたね。
今回の村上春樹は、絵画、美術という穴をもうけて、そこからいつものような謎の人物や、女性とのたび重なる都合のよいエロエロや、反ナチ運動や、正体不明の穴ぼこや、クラシックの音楽や、リトリピープルもどきのイデア爺ちゃんを巧みに出入りさせる。
その手際はまことに周到というべきなのだろうが、まことに思わせぶりな大中小の伏線を300ページにわたってばらまき続けて、いったいどうやって後篇で決着をつけるんだろう。他人事ながら、ちょっと心配になるずら。
しかし世の中嫌な事ばかりでお先真っ暗なのに、それらを全部忘れさせてくれるこんな面白い小説、久しぶりに読みました。さすが村上春樹は、谷崎の衣鉢を継ぐ正統的なストーリーテラーだ。早く「メタファー編」に移ろうっと。
トランプが大統領になったけど何も変らぬ我が家の暮らし 蝶人