
照る日曇る日 第1096回
1999年にワイズ出版から発行された本作には、「ガロ」に掲載された「街道の町」「ギリシアの光」「菫」「海のタッチ」「日の毒」「旅情の降る驛」「Kはなぜ月を見上げた?」「ちきゅうのよかぜ」「1億年」「海は南方に在り」を主力とする全部で16の短編漫画が並んでいる。
「Kはなぜ月を見上げた?」なんかは梶井基次郎の「泥濘」に依っているいるようだが、その表現のありようはまったく翁二独特のもので、漫画の終わりに哲学的小論?がついているのもユニークである。
「ちきゅうのよかぜ」とか「1億年」は、その他の作品と作画のタッチが異なっていて、まるで青の版画のような現象の切り取りの大胆さが読者を圧倒する。
「雲雀!雲雀!」は、都会で恋ともいえない恋に破れて田舎に帰る青年の寂しい物語だが、2人で野球を見に行った幻想・幻聴のなかで、2人以外の誰にも見えない雲雀が球場の上空で鳴いているのが素晴らしい。
恋人とのラストチャンスを逃した主人公が、下宿から眺める電線にはツバメがとまっていて「ぢっ、ぢっ」と鳴いているのだが、ツバメに「ぢっ、ぢっ」と鳴かれると、どんな男でもひどく堪えることを、作者はよく知っているのである。
我にのみ訊ねるように鳴く杜鵑テッペンカケタカテッペンカケタカ 蝶人