あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

鈴木翁二著「こくう物語」を読んで

2018-07-12 10:24:31 | Weblog


照る日曇る日 第1097回

2002年と割合最近青林工藝舎から発行された漫画だが、完成までになんと24年の歳月が費やされたというから驚く。

じつは血がつながっていない姉の「かれん」と弟の「平吉」の深い情愛を軸に、人間の父母未生以前の絶対的孤独と不安、心身のおののき、自然との原始的交感を描いた「虚空」「個空」「故宮」の物語である。

この本を読んでいると、遠く遙かな昔に、故郷の山川森空においてけぼりにしてしまった、今では亡くなってしまった家族や友人たちとの無数の小さな思い出に、久しぶりに再会したような気持ちになるようだ。

作品の途中で、宮沢賢治の童話を思わせる「ほんとうのともだち」についての重要なエピソードが登場して、弟の平吉と友人の「ともきち」とが、果たしてそれに相当するのかという疑いも生じるが、その「ともきち」が「かれん」と永訣するところで物語は終る。

しかし弟の「平吉」は、おそらくもうこの世の人ではないのだろう。
いたるところに、謎々が転がっている。まるで宇宙のように、人世のように不条理な漫画である。

   セクハラで追放された指揮者なれど名演奏は名演奏なり 蝶人


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