蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.295
ウツギの花の蜜を一心不乱に吸っているナミアゲハの傍に、もう一頭のアゲハがやって来ると、彼女はすぐに蜜の吸引をやめ、翅をだらりと弛緩させ、「やって」とでも言うように、彼が上から降りてくる来るのを待つ姿勢をとった。6/1
森の中でチョッ、チョッと盛んに鳴くコジュケイに対して、かなり離れた場所からチョ、チョ、チョと力なく応答するもう1羽のコジュケイ。もしかすると、かの凶悪にして獰猛な台湾リスに捕食されつつある子を、親鳥が案じているのではなかろうか。6/2
「六月を奇麗な風の吹くことよ」という正岡子規の徘句の通りの心地よき朝なり。「柿食へば鐘がなるなり法隆寺」「鶏頭の十四五本もありぬべし」。私は、挟雑物を盛り込まないこういう簡素な句が好きだ。6/3
水面をツバメがさかんに掠めるので、橋の上から眺めていると、この夏滑川を例年になく大量に遡上しているハヤを捕まえようとしていることが分かった。この辺は夜になると、だいぶ少なくなったがヘイケボタルも飛んでいる。6/4
シルヴィ・ヴァルタンが来日公演のPRのためにヒット曲「アイドルを探せ(LA PLUS BELLE POUR ALLER DANSER)」を歌ったんだけど、歌も、御本人の御面相も、往年の面影のかけらもなし。ああ、見なきゃよかった。歳月は全てをズタズタにすることもある。6/5
6月の町内会に出る。私がハヤだと思っていた魚は、どうもアユらしい。今年は珍しく膨大な幼魚が遡上してきたので、禁漁期にも関わらず遠方から釣りにくる連中が後を絶たず、彼らが公園で遊んでいる幼児を誘拐するのではないかという人もいた。6/6
大谷大谷と騒ぎまくるエンゼルスの後退を尻目に、あれよあれよという間に首位に躍り出たのは「イチロー無き」マリナーズ。当のイチローはバッテイング投手を務めているというのだが、この人もう一度現役に戻って、50歳までプレイするという夢に挑戦すべきではないだろうか。6/7
関東大震災が起こった1923年にもアユが大量に遡上したので、地元の人たちは、その再来を恐れているようだ。あれは関東というておるが、実際の震源地は相模湾で、じつは東京より、横浜や鎌倉の方が、被害は酷かったのである。6/8
「世界海陸軍、全廃を確信す。」「日本人の気風は下より起こらず、上よりす。民権も憲法すら上よりす。ああ、一種不思議の気風なり。」田中正造6/9
ヘンデルのオペラを聴いていると、同じ音符の執拗な繰り返しが出てきて、何でこんなに同じことをやっているのかと文句を言いたくなるが、「いい加減にしろよ」「勝手にしろ」と放置しているうちに、なんだか脳裏にこびりついた麻薬のような効能を発揮するようになる。6/10
この悪魔的な手法を受け継ぎつつも部分的に変容させたのが、かのロッシーニ・クレッシェンドではないかとひそかに考えているのだが、これを文藝に置き換えたのが「松島やああ松島や松島や」のトートロジーを遊んだ俳人やJ.ジョイスなどではなかろうか。同語反復は既にして詩なのである。6/11
「日本国の大魔縁となり、皇を取って民となし、民を皇となさん」by崇徳上皇6/12
たった数時間の首脳会談では、誰がどうやっても「体制保証」と「非核化」の相互約束しかできないだろう。問題はこれからいかに詰められるかだが、お若いのに金選手はなかなかやるのう。朝から杜鵑が鳴いている。6/13
詰めが甘いと非難されているようだが、ノーベル賞と中間選挙勝利狙いのトランプは、余人をもっては代えがたい偉業を、すでに達成している。見苦しいのは、そのトランプ任せで、北への敵視以外の仕事を何もしてこなかった安倍蚤糞と日本政府だ。6/14
「ノヴァの輝きが皆様の元へ届きますように」という歯の浮くようなセリフをまだ使っているNHK-FM「リサイタルノヴァ」支配人の金子三勇士。前任の本田聖嗣がようやく辞めたというのに、その阿呆莫迦スタイルをそのままなぞるような物言いは即刻止めてもらいたい。6/15
「紀州のドンファン」とか、新幹線人身事故とか、W杯なぞの報道に目の色変えてラアラア騒いでいる間に、安倍蚤糞は悪名高きカジノ法案を強行採決し、加計森友加坦や公文書改竄なぞ、はなからなかったことにしようとしている。6/16
トランプと安倍蚤糞のお陰で世の中はお先真っ暗でし、周りの老いも若きも、どんどん死んでいくので、今のうちに会いたい人には会い、行きたいところには行っておかないと、こちとらもいつくたばるか分からん、と思いはじめたずら。6/17
大阪北部で震度6弱の地震発生。弟や妹家族が近くに住んでいるので只今安否を確認中。電話は不通でも、SNSを通じてすぐに連絡が入るのはありがたい。安倍蚤糞が政治的経済的に解体したこの国は、同時多発的巨大地震で近く物理的に崩壊するのではなかろうか。6/18
「あの男は、頭がおかしいんです。自分がイエス・キリストだと信じている。そんなはずはない。ぼくがイエス・キリストなんだから!」マルセル・プルースト「失われた時を求めて『囚われの女』」より。6/19
コロンビアの選手が故意にハンドを犯した瞬間、主審は、それがスポーツの精神に反する行為であることに激怒して、右後のポケットから、よく見もしないで警告カードを取り出して選手に突きつけたが、あろうことか、それは一発退場のレッドカードだった。6/20
羽生、一番大事な名人戦で、なんであんな絶不調だった若造に負けてしまうんだ。せっかく「奇跡的に」挑戦者に勝ち残ったというのに。6/21
気狂いトランプのアメリカが、世界の主要国と離反して、米帝唯一主義という名の独自路線を暴走しているのだから、この国にも、長きにわたる対米従属主義と決別して、戦後初めて自立する絶好のチャンスが訪れたというわけだ。6/22
私らはあまりにも長きにわたって米帝のとしての存在に甘んじてきたので、もはや権力者から独立した完全に自由な存在としての自分を想像することにすら恐怖を懐き、相変わらず汲取便所の暗渠でご主人様の糞尿を舐める蛆虫の快楽に浸り続けている。6/23
死者はわれわれにとってすぐに死んでしまうのではなく、なおも一種の生のアウラに浸されていて、そうした事態はなんら本物の不死とはいえないが、死者は生きていたときと同じようにわれわれの思考のなかに棲みつづけている。プルースト「失われた時を求めて12」吉川一義訳6/24
ワーグナーの「ローエングリーン」の二重唱しか知らぬ人に、「トリスタン」の前奏曲など予想できない。プルースト「失われた時を求めて12消え去ったアルベルチーヌ」吉川一義訳6/25
他者に対するわれわれの愛情が衰えるのは、その他者が死んだからではなく、われわれ自身が死ぬからである。プルースト「失われた時を求めて12消え去ったアルベルチーヌ」吉川一義訳6/26
ピアノの基準音となるラの音は、学校のピアノなら440ヘルツと決められている。赤ん坊の産声は世界共通で440ヘルツなのだそうだ。ヘルツというのは1秒間に空気が振動する回数のことだ。数値が高いほど音も高くなる。日本では戦後になるまで435ヘルツだった。宮下奈都著「羊と鋼の森」6/27
モーツアルトの時代の欧州は422ヘルツだったらしいが、今は442ヘルツとすることも多い。最近はオケの基準音となるオーボエの音が444ヘルツになってきているから、ピアノもそれに合せて高くなる傾向にあるので、感覚としては、もはやラの音ではない。宮下奈都著「羊と鋼の森」6/28
ベートーヴェンの「月光」の第一楽章はチェンバロのために作曲されたようだが、第二楽章はチェンバロで弾くには無理があるらしい。第一楽章と第二楽章の間に、ベートーヴェンが使っていたメインの楽器がチェンバロからピアノになったのではないかと言われている。宮下奈都著「羊と鋼の森」6/29
四迷の日本語は独歩の「武蔵野」を産んだ。「武蔵野」において日本文学ははじめて、世界を描写することのできる言葉を獲得した。世界を描写することのできた瞬間、それを描写することのできる主体、すなわち「内面」が誕生した。次は、その「内面」に仕事をさせる番だった。高橋源一郎「日本文学盛衰史」6/30
大雨で少しは名前を知られたがうれしくもなし郷里の綾部市 蝶人