あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

大江健三郎著「大江健三郎全小説9」を読んで

2019-06-25 17:39:39 | Weblog


照る日曇る日 第1270回



本巻では多くの魅力的な、生き生きとして、そして痛苦に満ちた女性像が描かれる。

「頭のいい「雨の木」」では、アガーテ、「「雨の木」を聴く女たち」では高安カッチャンの妻、ベネロープ、シャオ・リン・リー、「「雨の木」の首吊り男」をでは「コルテスの骨」の指導者セルマ、「さかさまに立つ「「雨の木」」ではベネロープことペリー、「泳ぐ男」では性的コンプレックスを持つOL猪之口、「人生の親戚」(障害児兄弟が自殺する!)では強烈な個性と根性の持ち主、倉木まり恵、「静かな生活」におけるイーヨーの妹、マーちゃん、「美しいアナベル・リー」におけるサクラさん。

著者はヒロインたちの肉体と精神の内部に入り込み、彼女たちになり変って彼女たちの生を生き切っている。そしてそこが先行する漱石や潤一郎、同時代の由紀夫、春樹と決定的に異なる長所であろう。

しかし「頭のいい「雨の木」」における「自閉症的な若い人々」という言葉は、本物の「自閉症」児者の実態に即さない誤った通俗的な表現である。



  歯磨きの後で嗽をしないからウェーデンでは虫歯が少ない 蝶人


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