西暦2018年霜月蝶人酔生夢死幾百夜
地球上のおそよ5万キロの地点から地球を見下ろすと、橙色の点が点滅していたので、そここをめがけて降下していくと、案の定、彼奴がいた。11/1
わが社のパリ支店の電子機器は、すべて一時代前のものなのだが、現地のスタッフは平然と構えているので、「最新版に取り替えろ」などとはと誰も言えず、そのために、ますます時代遅れなものになっていった。11/2
シェークスピアのナベショウによる翻訳があまりにも酷いので、思い立って自分でやってみたが、これまたかなり酷いので、大きなショックを受けているところ。11/3
それまでは無能の極みと評されていた僕だったが、ある日突然なんたら賞を受賞した途端、さながら掌を返したように、社内外の評価が改まったので、僕は今までと同じ人間なのに、どうして世間はこうも気まぐれなのか、と驚かずにはいられなかった。11/4
敷布団のすぐ下が奇麗な海になっていて、目の前に目の覚めるような紅色の甲殻類が遊ぶようにして泳いでいるので、捕まえてやろうと思って、手を伸ばした途端に、夢がちょん切れて、海は布団に戻ってしまった。11/6
3年寝続けていたら、カド君が、「起きろ、起きろ、早く起きろ、どうあっても即刻起きろ!」と騒ぎ立てるので、「うるさいなあ、それほどいうなら起きてやるけど、なんせノーパンだからなあ」とぼやくと、彼は急いでパンツを買いに行った。11/7
洗濯物の山の中から、茶色と黒の2匹の犬がノソノソ出てきた。なかなか可愛いので、いい名前をつけてやろうと思うのだが、「黒」と「茶」、「天」と「地」、とか「山」と「川」くらいしか思いつかないので、こんな筈ではなかった、と焦っている私。11/8
籠城中に「トロイの馬」のデザインをした黒い立体物が届けられたので、みんなでいじくっているうちに大爆発して、全員死んでしまった。11/8
サルガッソー海に船出をしようとしたが、私は「稲妻組」の連中を養っているので、なかなか難しいことがわかった。11/9
白雪姫からパーティに誘われたので、愛人を連れて出かけたところ、私に目をつけた白雪姫が、私を密室に連れ込んで優しく愛撫すると、驚いたことに長年に亘ってインポの私が勃起し始め、なんとか挿入も出来たので、射精は我慢して帰宅して、急いで愛人としたのョ。11/10
知り合いの女性と四方山話をしていると、彼女の旦那が資生堂の宣伝部で働いているというので「そりゃいいね、うらやましいな」というたら、彼女の隣にいた男性が振り向いて「そんなに羨ましがられるような職場じゃないッスよ」というたので驚いた。11/11
私は誰かに拾われた金魚として、ビニールの奥でヒレを静かにそよがせながら、この世のすべてのことどもを、じーっと観察していた。11/12
小学館のS編集長は、私の眼をじっと見据えながら、「それであなたが本にしたいという原稿は、どういうものですか?」と尋ねたので、私は、なんだか嫌な感じに襲われた。11/13
七夕広場で、大勢の男女が踊っているのを眺めていたら、見知らぬ女性がやってきて、私の腕の中で踊り始めた。11/14
毎年恒例の親睦会が、今年はタイのバンコクで開催され、わが社のスポーツ部門の記者7人が派遣されたが、生憎の集中豪雨で、ゴルフもできなかったそうだ。11/15
歩いても歩いても、見知らぬ町の見知らぬ道と建物が続いているばかりで、目指す駅は見つからない。いったいここはどこなんだ? 私はやっとこさっとこ、見覚えのある「なんとか会社」のビルヂングを見つけた。
それはシチズンだったので、「ああシチズンか」と思いながら門から中に入っていくと、技術者が待ち構えていて、「お名前は存じております。さっそく時計を作ってください」と頼まれたので、「早く駅に行かなければ」と焦りながら、時計を作っているわたし。11/16
絶海の孤島に、私を含む2組の男女が暮らしていた。そのうちの1組が旅立つというので、私たちは見送ったが、「いよいよ、たった二人になったのかあ」と思うと、心細さが一入募って来るのであった。11/17
死んだ黒澤監督が蘇って、待望の新作を撮るというので、エキストラの私らが現場に行くと、「全裸になって茶色に塗った体を、折り重ねるようにして横たわってくれ」という。白馬にまたがったヒロインが、その上を疾走するというのだが、はてさてどうしたものか?11/18
大至急、新しい住まいを見つけなければならない。しかし、妻が急病で動けないうえに、某不動産屋から派遣された担当者が、どうしようもない無能者なので、そいつを撒いて別の不動産屋に飛び込み、彼らの一押しマンションを即決した。11/19
「ではここでお別れしましょう」と、こもごも決別の挨拶を交わしたのち、パリ在住半世紀を過ぎた、3人の80代の女性を乗せたバスは、みるみる、私の視界から遠ざかっていった。11/20
「佐々木眞文学全集全1巻」という、見るからに枕より膨大な単行本が「らんか社」から出版されたので、思わず手に取ってみると、意外に軽いので驚いたが、その内容がもっと軽かったので、なおなお驚いた。11/21
東北一円にネットワークを張った魔女たちの、自立した生き方を取材するために、私は、勇んで出発した。11/22
彼女は、白いドレスで4つの曲を歌ったが、そのあとで、私らは4度交わった。11/23
氏は、私の質問に対して、最初はちゃんと答えていたが、しばらくすると、何も答えなくなったので、よく見ると、眠り込んでいた。氏は、しばらくしてから眼を覚ましたので、私がまた質問を続けると「私はdrawするものしか書きません」と言明したが、そのdrawとは、いったいどういう意味なのかが、さっぱり分からなかった。11/24
私は、すでに過去6年間にわたって「主」を探してきたのだが、見つからない。すると今度は、まだ行ったことのない西日本を調べてくれ、と頼まれたので、早速出かけた。11/25
アオキ選手からまたメールが入って、「ヤブキ色のマフラーを買って下さい」と強請るので、「ヤブキ、カヤブキ、ヤマユキ」と返信した。11/26
ガン検診の長い列に並んでいたら、ウッちゃんとその奥さんも並んでいたので、少し気が楽になったが、総身刺青のヤクザが割り込んできたので、みんな困っていると、魔法使いのお婆さんが、凄い裏技を使って、そやつをぶっ飛ばしたんだ。11/27
大久保卿の私は、激烈な政争と公務を慰藉するために、手当たり次第に美女を大奥に囲い込んでいたので、そこに紛れ込んだ女スパイは、いともやたすく卿の私を、暗殺することができたのだった。11/28
「八丈島で最期を迎えたい」と、そのカメラマンがいうので、私らは、江の島の港の桟橋まで、見送りに行った。11/29
以前職場で作った「こんな時にはこうしよう」という例題集を、肌身離さず持っていたおかげで、私はリストラされても、すぐに次の職場が見つかり、なんとか苦しい時代を生き延びることが出来たのだった。11/30
1989年6月5日戦車隊の前に立ちふさがった青年よいずこ 蝶人