照る日曇る日 第2024回
著者のおそらく生前最後の作品で、フランシス子という名の愛猫の思い出から始まり、村上一郎、親鸞、ホトトギスの話などが夢遊病者のうわごとか、彼岸と此岸を往還する未来の予言者の託宣のようにとぎれとぎれに放射される、どことなく不可思議な本である。
名猫を飼うと、その猫がまるで「合わせ鏡」のような自分の分身になってしまうらしいが、私は犬しか飼ったことがないので、その感覚は分からないし、あまり分かりたいとも思わない。
京に戻る前の親鸞が、房総半島の先端に行き、外房と内房のふたつの海流があわさって渦潮になっているところを見た、という話は初めて聞いた。
ホトトギスも妙な話で、長い間その鳴き声を聞いたことがなかったので、「ホトトギスは実在しない」と決めこんでいたのだが、生涯の最後になって初めて聞いたので、「すごいなあ。いやあ、はじめてだなあ。ホトトギスはいるんだね」というところで本書は終わっている。
そういう不思議な本ではあるが、長女ハルノ宵子のあとがきと、巻頭を飾っている著者の笑顔の写真に心が洗われる遺著である。
憎たらしきは台湾リスとガビチョウよ在来種をみなジェノサイドする 蝶人