音楽千夜一夜第312回
パリ管弦楽団でしがないイングリッシュ・ホルン奏者を務めていたマルゴワールが1966年、26歳のときに設立したのが王室大厩舎・王宮付楽団という名前だけは立派な古楽器オーケストラ。
このオケを自らが指揮してモーツアルトの「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「コシファンツッテ」の3曲を8枚のCDに収めたセットを連日30度を超す猛暑の日々に聴き続けたわけだが、はっきりいってつまらない演奏だった。
歌っているのはあまり名前を聴いたことのない仏蘭西人が多いが、それほど酷い歌唱をしているわけではなく、可もなく不可もないまずまずの演奏。王室大厩舎・王宮付楽団にしたって別に馬に聴かせるつもりで劇伴しているわけでもなさそうだ。
となると問題になるのはこのマルゴワール選手の指揮術と音楽性で、あれほど素晴らしい天才の音楽を、いったいどうしてこんなエランヴィタールの炸裂しない平平凡凡たる音楽にしてしまうのか不思議でならない。
小澤やアーノンクールのモーツアルトが人工的で不自然な作意ばかりが目立つのは彼らのなにかやってやろう、やってやろうとする功名心と焦りの産物なのだが、マルゴワール選手のモザールが徹頭徹尾モザールになっていないのは、結局双方の相性が悪いという以上に彼のセンスの悪さなのであろう。
夏祭り君は六十八の娘なり 蝶人