(第4話からの続き)
「この通話アプリって、そもそもなんで使うようになったんだっけ」
「それ、災害時に無料で通話ができるっていうので始まったのでしょ。」
「もちろん、それは知っているよ。でも、あの時にいくつか無料通話アプリが開発されて、これってとくに日本で使っている人が多いんだよね。」
「そうね、でも、みんながみんなってわけではないし、やめちゃた人も結構いるみたいよ。中学生なんて、いじめが嫌でやめたなんてことも聞いたわよ。」
「・・・ところで、これって、料金支払いもできるんだよね。」
「どうしたの?あたりまえじゃない。でも、私たちは使ってないわよ。」
「カードとも連携しているんだよね。」
「使っている人は、カード決済なのかしら、それとも銀行口座から直接引き落とされるのかな。使っていなからよくわからないわ。」
「それにしてもさ、カード会社がこのアプリと連携して、客のデータを融通しあっていたら、どうなる?」
「どうなる?って、どうなるの?」
「もう、何年か前だけど、ネット通販の大手が、ネットの注文から発送までの時間をつめるために、過去の注文履歴とかからどんどん予測するするようになっているとかっていう話を聞いたことがあるんだよ。」
「そっか、犬のえさなんてちょうどいいわよね、ほぼ三週間に一度って、わかっているから。でもそれはそんなものじゃない?昔だって、御用聞きの人がいるものないか、って聞きに来ていたのと一緒でしょ。」
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「いや、それはそれでいいのだけど。でも、会話が盗まれていたらどうなる?カレーが食べたい、だの、そんなことがわかったら、とりあえずその店を出せば必ず買う客はいるわけで。」
「え?私たちの献立の不思議なワゴンのことを言っているの?そんなこと、あるわけないじゃない。だいたい、私たち夫婦のためにそんなことしたって商売にならないでしょ。」
「そうなんだけど、じゃあ、そういう客が数人でも集まったら?」
「え?だって、そんなにタコスを食べたい人が集まる?・・・そっか、タコスじゃなくて、あの時はメキシカンフェアーだったか。」
「そう、きっと、ハラペーニョとかテキーラも置いてあったんだよ。そして、それを買いたいと思っていた人もいたはずなんだ。」
「えー?それじゃあ、油揚げと生姜は?」
「それぞれの食材を一つのメニューに対して捉えるからそう感じるんだよ。」
「だって、その時豆腐だって売っていただろうし、ネギとか、鰹節だって置いてあったはずだよ。いままで、どのワゴンも、”欲しいもの”も置いてあったけど、”それ以外のもの”も置いてあったはずだよ。」
「たしかにね。」
「僕のリクエストするメニューなんてたかが知れているから、君用にはそんな材料を適当に用意しておいたらいいんだよ。少々幅があったほうがアレンジしやすいし。」
「でも、何のためにそんなことするの?わざわざお店を出すなんで面倒だし、費用だってバカにならないわ。」
「ねらいはそこなんじゃない?」
「今って、日々の献立の出ているページっていっぱいあるじゃない。それに評価がついたりもして。そのうち、人気のメニューなんて、レンジでチンしてできるような下ごしらえ済みのパックにまで出てくるんじゃない?今ある、糖尿病食、とか高血圧食、なんて使う人の都合は関係なく、毎日のメニューが決まっているし。」
「それで、AIが通話をチェックしてお店を広げる。ユーザーの位置情報もわかっているから、あなたも私もどこにいるかなんてわかっているものね。」
「今日、夫のほうは味噌汁が食べたいはず、妻はなにか旬のものが食べたいはず、という解析結果があって、何時頃やってくるということがわかればその準備をしたらいい。」
「なるほどね。どれも値段がちょっと高いのはその人個人用だからか。」
「売っていたのって、あれ、人間だったのかな。ロボットだったのかもよ。」
「なんだか、いやね、全てを監視されているのって。」
「監視というか、どういえばいいのかな。しょせん、人間の行動パターンなんて、類型化されてしまうから、標準的なパターンの範疇であったら、大抵のことは対応可能なんだろうね。」
普段私が利用している都内のターミナル駅での事件が起こったのは、妻とそんな話をしてから、10日ほど後だった。
すべてお見通し
第6話に続く