NHKと政治を問う② 強引手法に反撃世論を~政府介入・干渉の歴史
松田 浩(元立命館大学教授 メディア研究者)
1973年小野吉郎会長の実現は、前田義徳会長の4選を嫌った田中角栄首相の画策だった。小野会長は、角栄の郵政大臣時代の事務次官。ロッキード汚職で保釈中の田中被告を自宅に見舞った責任を問われて任期半ばで辞職した。
このときは日放労(NHK労組)と市民団体が小野の罷免を求め経営委員会に百万を超える署名を突きつけ、工藤信一良経営委員長(毎日新聞顧問)は市民団体代表の「政治的輸入人事を絶つため、今後、会長はNHK内部から起用を!」という申し入れを“受け止め”ている。以後、坂本朝一、川原正人とNHK内部から会長を選ぶ流れができたのは、このたたかいの成果だった。
NHK放送センター
財界人の会長
だが、今回同様、政権の画策による財界人会長が実現する。88年の池田芳蔵会長(三井物産椙談役)である。推進役は、経営委員長だった磯田一郎(住友銀行会長)。ときの竹下登首相を取り巻く財界人グループ「竹友会」の幹事役をつとめた財界実力者の磯田が重要な役割を演じた構図も今回とどこか似ている。だが、77歳の高齢に加えて放送の公共性に無知な池田は、国会でもトンチンカンな答弁を繰り返し、ついに引責辞任に。磯田も経営委員長を退いた。
ちなみに、このとき副会長として池田会長の補佐役を務めた島桂次は、意図的に池田が国会で失言を重ねるよう仕向けて会長の後釜にすわったが、その島も自民党竹下派と気脈を通じた政治記者出身の海老沢勝二(2代のちに会長)に足をすくわれる形で失脚する。
島会長失脚後、経営委員会は元最高裁判事の伊藤正巳・東大名誉教授を次期会長にいったんは選びながら、政府筋からの反対で「本人から辞退」の形で事態を収拾する醜態を演じている。しかし、代わって選ばれた川口幹夫会長(NHK専務理事)は、就任あいさつで全職員に「タブーを捨てよ」と呼びかけるなど、リベラルなリーダーシップが組織内に自由闊達な気風を生んだ。
常に翻弄され
その川口体制が十分、体質改善の成果を上げることなく、海老沢体制に代わったのは、政府・与党対策が重要なウエートを占めるNHK指導部のなかで、芸能畑出身の川口会長が報道出身の海老沢副会長に多くを依存せざるをえなかった事情があったとみるむきも多い。いずれにしても、NHKの歴史はつねに政治に翻弄された歴史だった。
だが、今回の安倍政権ほどの露骨な人事介入の例はみたことがない。経営委員会に息のかかった“靖国派人脈”を組織的に送り込み、それをテコに“お眼鏡”にかなった会長を据えたのだから、やり方が乱暴である。
気がかりなのは、ここまでファッショ的手法を使って集団的自衛権行使や憲法改悪への執念を燃やす安倍政権の強引さだ。秘密保護法の強行成立や今回のようなNHK支配への布石は、その流れの重要な一コマとして、広く反撃の国民世論を起こしていかねばならないと思う。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月9日付掲載
NHKの人事には、常に時の政権の介入があったのですが、安倍政権のあからさまな介入は異常です。
決して許してはなりませぬ。
松田 浩(元立命館大学教授 メディア研究者)
1973年小野吉郎会長の実現は、前田義徳会長の4選を嫌った田中角栄首相の画策だった。小野会長は、角栄の郵政大臣時代の事務次官。ロッキード汚職で保釈中の田中被告を自宅に見舞った責任を問われて任期半ばで辞職した。
このときは日放労(NHK労組)と市民団体が小野の罷免を求め経営委員会に百万を超える署名を突きつけ、工藤信一良経営委員長(毎日新聞顧問)は市民団体代表の「政治的輸入人事を絶つため、今後、会長はNHK内部から起用を!」という申し入れを“受け止め”ている。以後、坂本朝一、川原正人とNHK内部から会長を選ぶ流れができたのは、このたたかいの成果だった。
NHK放送センター
財界人の会長
だが、今回同様、政権の画策による財界人会長が実現する。88年の池田芳蔵会長(三井物産椙談役)である。推進役は、経営委員長だった磯田一郎(住友銀行会長)。ときの竹下登首相を取り巻く財界人グループ「竹友会」の幹事役をつとめた財界実力者の磯田が重要な役割を演じた構図も今回とどこか似ている。だが、77歳の高齢に加えて放送の公共性に無知な池田は、国会でもトンチンカンな答弁を繰り返し、ついに引責辞任に。磯田も経営委員長を退いた。
ちなみに、このとき副会長として池田会長の補佐役を務めた島桂次は、意図的に池田が国会で失言を重ねるよう仕向けて会長の後釜にすわったが、その島も自民党竹下派と気脈を通じた政治記者出身の海老沢勝二(2代のちに会長)に足をすくわれる形で失脚する。
島会長失脚後、経営委員会は元最高裁判事の伊藤正巳・東大名誉教授を次期会長にいったんは選びながら、政府筋からの反対で「本人から辞退」の形で事態を収拾する醜態を演じている。しかし、代わって選ばれた川口幹夫会長(NHK専務理事)は、就任あいさつで全職員に「タブーを捨てよ」と呼びかけるなど、リベラルなリーダーシップが組織内に自由闊達な気風を生んだ。
常に翻弄され
その川口体制が十分、体質改善の成果を上げることなく、海老沢体制に代わったのは、政府・与党対策が重要なウエートを占めるNHK指導部のなかで、芸能畑出身の川口会長が報道出身の海老沢副会長に多くを依存せざるをえなかった事情があったとみるむきも多い。いずれにしても、NHKの歴史はつねに政治に翻弄された歴史だった。
だが、今回の安倍政権ほどの露骨な人事介入の例はみたことがない。経営委員会に息のかかった“靖国派人脈”を組織的に送り込み、それをテコに“お眼鏡”にかなった会長を据えたのだから、やり方が乱暴である。
気がかりなのは、ここまでファッショ的手法を使って集団的自衛権行使や憲法改悪への執念を燃やす安倍政権の強引さだ。秘密保護法の強行成立や今回のようなNHK支配への布石は、その流れの重要な一コマとして、広く反撃の国民世論を起こしていかねばならないと思う。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月9日付掲載
NHKの人事には、常に時の政権の介入があったのですが、安倍政権のあからさまな介入は異常です。
決して許してはなりませぬ。