ブラック企業と就活① とにかく正社員の重圧
2015年入社に向けた大学生の就職活動が本格化し、合同企業説明会や就職セミナーが目白押しです。過酷な働かせ方で若者を「使い捨て」にするブラック企業には入りたくない。でも…。正社員という狭き門をめざして激しさを増す大学生の就職活動(就活)の現場から、ブラック企業がはびこる実態を追いました。
「大学3年の秋、景色ががらりと変わりました」
首都圏の有名私立大学に通う3年生の女子学生は、こう語ります。
15年4月の新卒採用にむけた就活の真っただ中。「卒業後の就職で非正規雇用は論外という感じ。正社員採用というプレッシャーはすごい」
自殺対策支援センター「ライフリンク」が昨年10月に発表した「就職活動に関わる意識調査」では、7割の学生が「正社員に絶対になりたい」と答えています。
「とにかく正社員に」―。
就活が過熱する背景には、不安定な非正規雇用の割合が増え続け、正規雇用の枠が年々狭まっていることがあります。
総務省の労働力調査によれば、13年の非正規雇用の割合は前年より1・4ポイント高い36・6%、過去最高を記録しました。(グラフ1)
雇用全体のこうした実態が、大学新卒者への就職にも大きく影響しています。就職率(非正規雇用を含む)は3年連続で上がったものの、新卒者の2割、約11万5000人は非正規雇用や一時的な就業者と無業者です。(文部科学省「学校基本調査」13年度・グラフ2)
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就職説明会に向かう学生たち=2月8日、東京都江東区
条件聞くと不利
「卒業後の就職で人生が決まってしまうのではないか」―。その女子学生は、そんな不安を胸に、就職先を選ぶための情報集めにせき立てられています。
企業は、基準を満たす学生がいなければ、合格者が予定人数に達しなくても採用しない“厳選採用”をすすめています。そんななかで、いかに正社員として採用されるか。女子学生は「大学のOB・OGから『面接で労働条件を聞くと不利になる。聞かないほうがいい』といわれました。大学のキャリアセミナーではブラック企業という言葉は出てこない」といいます。
深夜におよぶ長時間労働で、残業代も出ないような「ブラックな働き方」に拒否感はあります。しかし、「きつい働き方をしている人が成功例のように見えてしまう」。
大学の指導影響
過酷な就活を終え、晴れて正社員として就職できても、長く働き続けられるわけではありません。厚生労働省の調査では、10年3月の大卒者が3年以内に離職した割合は前年より増え、3割を超えています。
「ブラックな働き方」にもかかわらず、「自分に力がないのが悪い」「自己責任だ」と苦しみから抜け出せない若者たちもいます。
宮城の20代の男性は、上司から次々とふられる膨大な仕事をやり切れないのは、「自分の能力が足りないからではないか」と思っていました。
「たぶん、大学の就活指導の影響が大きいと思うんです。仕事が片付かないことを仕事量のせいにせず、その枠の中で終わらせる『問題解決能力』をつけろ、と指導されましたから」
長時間のサービス残業を強いられて、退職に追い込まれた愛知の30代の女性はいいます。「面接で労働条件なんて聞いてしまったら、『ついてこれないヤツはいらない』といわれるだけ。でも、悪条件で無理して働いて、結局辞めざるを得なくなっても、きっと自己責任なんですね」
2人は口をそろえたようにつぶやきました。「自己責任って、本当にうまい言葉ですね…」
みるみるやせて
過酷な働き方に苦しむのは、青年だけではありません。わが子を見守る親にもつきささります。
厚労省の「ブラック企業調査」を本紙紙面で知り、「息子の職場もブラック企業ではないか」と赤旗編集局に電話をかけてきた女性も、その一人でした。
休みもとれず、長時間働き続け、息子はみるみるやせていきました。「仕事を辞めた方がいいんじゃない?」と声をかけても、「放っておいて!」「今辞めたら会社に迷惑をかける」と突っぱねられる。労働基準監督署に行くことも嫌がられ、困り果てていました。
「次の仕事は見つけにくいし、自分がここでがんばるしかないと思いこんでいるみたいで。正社員でも、こんなにひどい働き方じゃ身がもたない。何とかならないでしょうか」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月14日付掲載
非正規での賃金では暮らしていけないので、何としても正社員をの思い。でも、その正社員も労働条件はブラックなものも…。
それが自己責任で片づけられる。資本家にとって、「自己責任」って実に都合のいい言葉です。
2015年入社に向けた大学生の就職活動が本格化し、合同企業説明会や就職セミナーが目白押しです。過酷な働かせ方で若者を「使い捨て」にするブラック企業には入りたくない。でも…。正社員という狭き門をめざして激しさを増す大学生の就職活動(就活)の現場から、ブラック企業がはびこる実態を追いました。
「大学3年の秋、景色ががらりと変わりました」
首都圏の有名私立大学に通う3年生の女子学生は、こう語ります。
15年4月の新卒採用にむけた就活の真っただ中。「卒業後の就職で非正規雇用は論外という感じ。正社員採用というプレッシャーはすごい」
自殺対策支援センター「ライフリンク」が昨年10月に発表した「就職活動に関わる意識調査」では、7割の学生が「正社員に絶対になりたい」と答えています。
「とにかく正社員に」―。
就活が過熱する背景には、不安定な非正規雇用の割合が増え続け、正規雇用の枠が年々狭まっていることがあります。
総務省の労働力調査によれば、13年の非正規雇用の割合は前年より1・4ポイント高い36・6%、過去最高を記録しました。(グラフ1)
雇用全体のこうした実態が、大学新卒者への就職にも大きく影響しています。就職率(非正規雇用を含む)は3年連続で上がったものの、新卒者の2割、約11万5000人は非正規雇用や一時的な就業者と無業者です。(文部科学省「学校基本調査」13年度・グラフ2)
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就職説明会に向かう学生たち=2月8日、東京都江東区
条件聞くと不利
「卒業後の就職で人生が決まってしまうのではないか」―。その女子学生は、そんな不安を胸に、就職先を選ぶための情報集めにせき立てられています。
企業は、基準を満たす学生がいなければ、合格者が予定人数に達しなくても採用しない“厳選採用”をすすめています。そんななかで、いかに正社員として採用されるか。女子学生は「大学のOB・OGから『面接で労働条件を聞くと不利になる。聞かないほうがいい』といわれました。大学のキャリアセミナーではブラック企業という言葉は出てこない」といいます。
深夜におよぶ長時間労働で、残業代も出ないような「ブラックな働き方」に拒否感はあります。しかし、「きつい働き方をしている人が成功例のように見えてしまう」。
大学の指導影響
過酷な就活を終え、晴れて正社員として就職できても、長く働き続けられるわけではありません。厚生労働省の調査では、10年3月の大卒者が3年以内に離職した割合は前年より増え、3割を超えています。
「ブラックな働き方」にもかかわらず、「自分に力がないのが悪い」「自己責任だ」と苦しみから抜け出せない若者たちもいます。
宮城の20代の男性は、上司から次々とふられる膨大な仕事をやり切れないのは、「自分の能力が足りないからではないか」と思っていました。
「たぶん、大学の就活指導の影響が大きいと思うんです。仕事が片付かないことを仕事量のせいにせず、その枠の中で終わらせる『問題解決能力』をつけろ、と指導されましたから」
長時間のサービス残業を強いられて、退職に追い込まれた愛知の30代の女性はいいます。「面接で労働条件なんて聞いてしまったら、『ついてこれないヤツはいらない』といわれるだけ。でも、悪条件で無理して働いて、結局辞めざるを得なくなっても、きっと自己責任なんですね」
2人は口をそろえたようにつぶやきました。「自己責任って、本当にうまい言葉ですね…」
みるみるやせて
過酷な働き方に苦しむのは、青年だけではありません。わが子を見守る親にもつきささります。
厚労省の「ブラック企業調査」を本紙紙面で知り、「息子の職場もブラック企業ではないか」と赤旗編集局に電話をかけてきた女性も、その一人でした。
休みもとれず、長時間働き続け、息子はみるみるやせていきました。「仕事を辞めた方がいいんじゃない?」と声をかけても、「放っておいて!」「今辞めたら会社に迷惑をかける」と突っぱねられる。労働基準監督署に行くことも嫌がられ、困り果てていました。
「次の仕事は見つけにくいし、自分がここでがんばるしかないと思いこんでいるみたいで。正社員でも、こんなにひどい働き方じゃ身がもたない。何とかならないでしょうか」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月14日付掲載
非正規での賃金では暮らしていけないので、何としても正社員をの思い。でも、その正社員も労働条件はブラックなものも…。
それが自己責任で片づけられる。資本家にとって、「自己責任」って実に都合のいい言葉です。